こん○○わ、PARALLAXです。では早速。
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  │ 【 軽 音 部 、 西 へ  - HTT live @ 7th district - 】 │
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### D-day -2day 08:15PM ### @ 学園都市 第4学区 収容施設 @

唯 「やだやだやだ!ギー太!ギー太!ギー太ぁぁああああ!」

  ともかく大騒ぎ。禁断症状と言うのはこんなものなんだろう。そんな唯を見ては
 おろおろする憂だが、何故か梓は余裕の表情で宿泊施設の解説ファイルなんか眺めて
 いる。こんなファイルでさえ、この学園都市では電子ペーパーだ。クリアファイルで
 良いのに。電子ペーパーじゃ団扇にもならない。イタズラ書きも出来ない。

  そんな未来的な設えの、この連れてこられた(と言うより無理やり押し込められた)
 この第4学区とかの収容施設の1室で、唯は未来技術もなんのそので大暴れしている。
 外窓が締め切りでよかった。ハンドルが着いていたら、きっとお姉ちゃんは無理やり
 こじ開けて脱出していただろう。ここが65階のスイートルームであっても。

憂 「あぁあ、お姉ちゃんお姉ちゃん、お願いだから、お願いだから。」
梓 「憂ー、よしときなよ。暫く放っといたら?」
憂 「出来ないよぉ。何で梓ちゃんは平気なの?」
梓 「だって、軽音部で見慣れているし。」

  へ? と思う。だって軽音部じゃ何時だってお姉ちゃんはギー太と一緒の筈。

梓 「だからね。軽音部でお茶してるでしょ?その時ギー太は練習コーナーのギター
   ハンガーに掛けられている訳。で、唯先輩はもう、ほんと5分おき3分おきに
   お茶の席とギターハンガーを、行ったり来たり。えへへへーギー太ー、って」
憂 「お姉ちゃん…」     眼に見えるようだった
梓 「で、それを面白がって律先輩が羽交い締めしたり、澪先輩が話しかけて止めたり」
憂 「お姉ちゃあん…」 それも眼に見えるようだった
梓 「で、あんな感じでいつもすぐに禁断症状。勿論、あんなに酷くはならないけど。」
憂 「だから、早く止めないと!」
梓 「でもギー太無いしね。どうしよう。」

  こんなやり取りをしている間も、唯は当然大暴れ中。「テロ対策ですから」で入口
 に頑張ってる黒スーツなお兄さんがいなかったら、部屋の外へ駆け出していたに違い
 ない。けどそれが出来ないから、部屋の中で大暴れ中。どうしようどうしよう。

梓 「仕方ない。第2の手段を使おう。」

  へ? とまた思う。電子ファイルを置いた梓はテーブルの上にあるウェルカム
 フルーツを漁ると、幾つか苺を拾い上げた。大きくて真っ赤っ赤。あまおう以上かも。

梓 「ほーら唯先輩、いちごですよー、ケーキもありますよー。お茶ですよー。」

  さっさっと手を振って、梓が憂にお茶を入れる様に促す。えー?とか思いつつも
 スイーツ付きのミニバーにあるキッチンでお茶を入れ始める。普通の水道に湯と水を
 切り替え混ぜるハンドルバーが付いてるのは当たり前だけど、何で飲料水用浄水器の
 タンクにもそれっぽいのが付いてるんだろう? とか思ったら浄水器から普通に熱湯
 が出たりする。フィルタ痛むぞ?どうなってるんだろう、この学園都市の技術って?

  は!で、お姉ちゃんは?

唯 「でへへー。憂ぃー、苺だよー。わー、なんか珍しいケーキもあるー。」
梓 「この空気より軽いケーキって、どうやって作ってるんだろ?」

  がらがっしゃん

唯 「わわわ!憂、大丈夫?」
憂 「う、うん!平気平気。お茶入れてくから、ちょっと待っててね。」

  うー、お姉ちゃん…

  「ユニークなお姉さまですね。」

  はっとして振り返る。入り口に、あのヒトが立ってる。確か、

憂 「副長、さん?」

  副長は首肯すると、背後に合図を送った。二人の男がギターケースを持ってくる。

唯 「ギー太!?」
梓 「ムッたん!」

  むったん、て?

梓 「なんでもない!忘れて忘れて!」

  男達からギターケースを受け取った二人が、いとしげにそれを撫でている。本当に
 大事な物なんだなぁ、と憂は思う。ついでになんかちょっと羨ましくもなったりする。

憂 「あ、有難う御座いました。姉と友人のギターを持ってきてくれて。」
副長「いえいえ、当然の事をしたまでです。
   それより今日は学園都市の嫌なところを見せてしまい、本当に申し訳ありません」
憂 「いえ、そんな…あ!それで、他のみんなは大丈夫なんですか!?」
副長「そちらも御心配なく。皆さん、ちゃんと御無事です。」
憂 「じゃ早くみんなの所へ、」
副長「申し訳ありません。この街のセキュリティ規約で、それは出来ないんです。」
憂 「何故ですか!?」
副長「あのテロは、皆さんが同時に移動されたタイミングで、正確に起こされました。
   と言う事は、テロリストは次も皆さんが同じ所で同じ事を行われているタイミング
   を狙ってくるに違いありません。ですから今は皆さんをひとつの場所へ集めるわけ
   には行かないんです。申し訳ありません。」

 如何にも苦々し気な顔で男が語る。が、こう言うのを慇懃無礼と言うのかもしれない。

憂 「あの、じゃあ連絡が取りたいんです。電話で、他のみんなの、声だけでも。」
副長「それはすぐに。実は漸く、セキュリティを完備した回線の準備が出来まして、
   それをお知らせに来たのです。こちらのフォーン・ブースをお使い下さい。」

  フォーン・ブース? と見ると部屋の一角に透明な壁で仕切られた大きな画面の場所
 がある。促されてそこに入ると、脇から副長がキーボードをカタカタっと操作した。
 途端、正面の大画面に全く散らつきが無い映像が、いきなり起動した。

憂 「きゃ!」
律 「お!映った映った。やほー、憂ちゃん。元気?」
憂 「律さん?」

  まるきり等身大の、実物としか思えないほど高精細な律の映像が浮かび上がった。
 自宅の地デジよりよっぽど高画質。思わず見とれてしまう。えへへ、と笑った律が語り
 掛けてくる。あぁ、何時もの律さんだ。

律 「こっちは今んとこ無事。あ、澪とさわちゃんセンセも一緒だよ。」
澪 「やぁ。そっちはどう?元気?」
さわ「平沢さん?あぁ良かった。お姉さんは?」

  画面に澪とさわ子先生が割り込んでくる。良かった。3人とも何とも無い。ほっ、と
 した瞬間。不意に画面がぼやけた。 …あれ?

副長「 よろしければ、」

  す、と脇から男物のハンカチが差し出される。それでようやく、自分が泣いているの
 に気付く。おかまいなく、と声すら出せず、ポケットから出したハンカチで目頭を押さ
 える。モニター越しの3人がおろおろと何か慰めてくれているのは聞こえ続けている。

  えぐっ、えぐっ、と声にならない声で何とか返事しようとした時、ずし、といきなり
 肩ごしに暖かい馴染んだ体重が伸し掛ってきた。

唯 「わ、律ちゃん澪ちゃんだ!やほー、むぎゅー」
梓 「ちょと、唯先輩!狭いですって! 律先輩澪先輩!そっちは無事なんですか?」

  フォーン・ブースと言うからには、大抵は一人分のスペースしか無い。そこへ小柄と
 は言え3人も詰め込んでは、副長がどいているにしても狭すぎるのは否めない。

律 「あっはっは!そっちもぎゅーぎゅーだな」
澪 「だから律が無理やり引っ張り込むからこっちだってだな、」
さわ「うん、そう。そっちは?平沢さんと、妹さんと、あずにゃんだけなの?」
梓 「あずにゃんて、せんせぇ…」
唯 「そー、こっちも3人だよ。そっちは?和ちゃんと紬(むぎ)ちゃんは?」

  その途端。きゅ、と音がしたかの様に律澪達の画面が左に寄り、残る半分のスペース
 へ、ぱ!と他のフォーン・ブースの様子が映る。どうやらそちらも押し競饅頭の様だ。

純 「映りましたよー、先輩? もー。琴吹先輩、キーボードには強いんでしょう?」
紬 「だってそのキーとこういった類のキーとじゃ、え、何とかなったんですのこれで?」
和 「そうみたいね。鈴木さんがいて助かったわ。えっと、唯ちゃん憂ちゃん梓ちゃん?」
律 「おー、ムギー。澪とさわちゃんはこっちこっち。」
さわ「だっから、さわ子先生でしょ!」ごいん いたたたたた
澪 「あーそうか。結局3人づつ別れちゃったのか。」
梓 「間が良いって言うか切りが良いって言うか…」
唯 「でもー、なんかへんなチーム分けだね?」

  相変わらずのズレ様に、モニター越しの皆が笑いさざめく。良かった。離れていても
 みんなはみんなだ。相変わらず声が出せない、しゃくりあげるだけの自分の喉が少し
 腹立たしいが、それでも憂は笑った。久し振りに出た、漸くの笑い声。

律 「で、そっちはどう?」

  これを皮切りに、互いの居場所の話題からここまでの道のりの話や見かけた未来的な
 光景やら部屋にあった菓子類果物類什器類やら果ては従業員らしい制服イケメンの話題
 まで、一気に花開く。あっという間に小一時間が過ぎてしまった所で遂に澪と梓がキレ
 てしまい漸く明後日に備えての練習の話も少しは出たが、やっぱり少なくとも明日くら
 いは様子見で顔は合わせられないとの事で、それ迄はこれもまた漸く各員の手元に届い
 た愛機でモニター越しのお互いを相手に練習しよう、と言う事になった。やろうと思え
 ばフォーン・ブースの画面をリビングの大画面へ転送することも出来るらしく、そちら
 なら文字通りにお互いが等身大で隣にいるが如く映るそうだ。

  ほー、ふーん、と頻りに感心し続ける唯と梓。和とさわ子がお互いに連絡をとりあう
 手順を決め、澪と紬がざっと練習の手順を打ち合わせ、この場は漸くお開きになった。

副長「どうやら元気になって頂けました様で、我々も安堵しました。
   申し訳ありませんが、では、もう暫く此処でお寛ぎ下さい。

   それと、男手ばかりでは何かと御遠慮があるでしょうから、
   お世話をする女性スタッフを置いてゆきます。何なりと
   お申し付け、お使い下さい。」

  ぴし、と挨拶を決め、副長を含め男達が去ってゆく。ふと見ると、自分たちと幾許も
 年齢が離れてそうには見えない、女の子が部屋の中に佇んでいた。選りに選って何故に
 メイド服姿なのだろう?な疑問は扨措くとして。茶髪ショートが服装に似合ってない。

  お名前は?と梓が少女に近寄り話しかける。唯は、まだ目が赤い妹の隣を離れない。

唯 「面白かったァ。すごかったね、さっきの」
憂 「フォーン・ブース? 凄いテレビ電話だね。ハイビジョン、ううん、もっとだね。」

  唯が小首を傾げ、きょとん、とした目で妹を見る。  お電話?

憂 「何言ってるの? さっきの、みんなと話した、」
唯 「あー、あれ! 面白かったね、凄いおもちゃ。どういう仕組なんだろ?」
憂 「だから携帯にもあるでしょ、テレビ電話。相手の姿が見えて話せて」
唯 「だって、電話って、相手と話すものでしょ?」

  何を言い出したんだろう、この姉は?

唯 「凄かったね!ホントに律ちゃんや紬ちゃんとそっくりだった!」

  え? 今、この姉は、何と言った?

唯 「あそこのギー太のそっくりさんくらい!」

  ば!と右手を振って、副長が先程届けてくれたギターケースを指さす。開かれた
 ギターケースの中身は乱雑にベッドの上へ放り出されていた。学校で、家で、見慣れた
 ギブソン・レスポール・スタンダード。だが今は無造作に、まるで飽きた玩具の様に、
 うつ伏せでベッドの上に放り出されている。

  姉なら、絶対に最愛の愛機を、こんな扱い様にはしない。

  ざぁっ!と背筋から音を立てて血の気が引く。普段は我が姉ながら本当に大ボケで
 頼りないが、時として凄まじく鋭い感性で一直線に物事の本質を見抜く力を持っている
 事を、憂は肌身に染み込んだ遺伝子レベルで知っていて、それが故に姉を殆ど盲目的に
 信じている。姉バカと言われようが何だろうが、どんな時だって。この瞬間だって。

  でも。 まさか。 まさか...

憂 「お、お姉ちゃん…?」
梓 「憂!」
憂 「きゃ!」

  今度は悲愴な程に蒼褪めてしまった顔色で、まだきょとんとしてる姉へ話しかけた憂
 へ、まるでそれを押し隠すかのような勢いで梓が捕まえ語りかけてくる。

梓 「お風呂入ろう!みんなで!」
憂 「え?でも、だって、」
梓 「大丈夫!ここのお風呂、広いんだって!4人で入っても余るって!」

  さぁさぁさぁ、と梓が憂をバスルームへ押し込む。チョチョちょっと待って、とか
 言いながら姉を見ると、いそいそとシャンプーハットと着替のパウチを手荷物から
 引っ張り出していたりする姿が見える。それですっかり先程の発言を追求する気分を
 無くしてしまい「じゃ私も」と姉のと色違いのパウチを取り出しつつ…あれ?4人?

梓 「この娘(こ)にも一緒に入ってもらうの。」

  こく、と茶髪をゆらし首肯する少女。

  まぁいっか。流石に疲れたし今日は。バスルームから漂う如何にも高級そうな香りに
 心そそられつつ、きゃっきゃ言いながら服を脱ぐ姉と、こちらは何故か真剣なまなざし
 で服を脱ぐ梓を横目に見つつ、メイド服を肩から落とす物静かな少女を憂は眺めた。

  あ。 やっぱりその、頭に乗っけているゴツくてメカメカしいゴーグルは取るんだ。

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今回は、一先ず此処迄。 では。
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