Re: Kamikaze Kaito Jeanne #40 (12/18)
携帯@です。
またまたまたまた間隔が空いてしまいましたが、
夏の黒ミサの入稿が終わったので続きを。
# 本スレッドは「神風怪盗ジャンヌ」のアニメ版第40話から
# 着想を得て書き連ねられている妄想スレッドです。
# そういう2次創作物が嫌いじゃ無い方のみ、以下をどうぞ。
Message-ID: <fdl90t$30g4$1@ccsf.homeunix.org>の下にぶら下げています。
(その1)は、Message-ID: <fdlb9p$5ob$1@ccsf.homeunix.org>から
(その2)は、Message-ID: <ffc19v$1psh$1@ccsf.homeunix.org>から
(その3)は、Message-ID: <fhor52$i8n$1@sakura.ccsf.jp>から、
(その4)は、Message-ID: <fitbqv$1l4o$1@sakura.ccsf.jp>から、
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(その6)は、Message-ID: <fmt1m5$acr$1@sakura.ccsf.jp>から、
(その7)は、Message-ID: <fp8a7u$2ort$1@sakura.ccsf.jp>から、
(その8)は、Message-ID: <fs24kl$1pj1$1@sakura.ccsf.jp>から、
(その9)は、Message-ID: <fvk0mb$12hq$1@sakura.ccsf.jp>から、
(その10)は、Message-ID: <g2gb50$2fjp$1@sakura.ccsf.jp>から、
それぞれどうぞ。
^L
★神風・愛の劇場 第176話「天使が見える乙女」(その11)
●桃栗町・郷土資料館
「お父さん!」
怪盗ジャンヌからの予告状が届いてから、桃栗警察署のパトカーが到着するまで、
15分とかかりませんでした。パトカーのサイレンが聞こえるとすぐ、都はこの資料館
のある公園の入り口に父である氷室警部を迎えに駆けて行きました。
「都?」
扉を開けた氷室は、都の姿を見ると少し驚いた表情を見せました。どうしてここに
いるのかと言いたげに。警察に連絡したのは資料館側で、自分には春田刑事達からの
連絡がないことに、都は今更ながらに気づきました。
「ここに、委員長とチェリーちゃんを案内して来ていたの」
「水無月君とか?」
氷室は、遅れて駆けて来た大和と都を見比べながら言った。
「はい! 今日は僕もお手伝いします! お父さん!」
どさくさまぎれに何を言うか、と都は思います。
「いや、都は水無月君と…」
「お父さん! 春田さんと秋田さん、それと何人か借りるわね!」
何か言いかけた氷室を遮り、都は手近にいた春田、秋田に声をかけ、走り出して行
きました。氷室の方を見た春田、秋田刑事。氷室は、仕方無いという表情──そう、
大和には見えた──で、肯きます。
「おい!」
春田と秋田は警官隊の一隊を率いて、都の後を追いかけるのでした。
「……ということで、ここは宜しくね。予告状は今晩だから、時間が無いの」
都が向かった先は、資料館の館内…では無く、公園の「ももたとくりこ」モニュメ
ントの方でした。ここに都は警官隊の一部を配置し、春田の指揮で怪盗ジャンヌを迎
え撃つための布陣を命じます。
続いて、秋田と大和を伴い、公園の周辺の状況を逐一観察してから、資料館の中へ
と入りました。
「続いて、館内の配置だが……」
都が真っ先に向かったのは、資料館の純金製「ももたとくりこ」像のある部屋。
しかしそこには警備のために配置された警官以外に人はおらず、探し回って結局、
館内の会議室で、配置についての打ち合わせ中の氷室達を見つけました。
都は、テーブルの上に広げられた、館内及びその周辺の地図、そして警官達の配備
予定状況を眺めました。
「これは…純金像を守る配置よね」
都が指摘した通り、四色に塗り分けられた何かのゲームの駒で代用されている警官
隊の配備はその大半が資料館と、その周辺を固めるように配置されていました。
先ほど都が指示した「ももたとくりこ」モニュメント象の周囲にももちろん、人は
配置されていますが、人員はごく僅かでした。
「ジャンヌの予告が純金像なのだから当然だろう、都」
「ジャンヌの予告状を良く見て」
いつの間にか白手袋をしていた都は、予告状を出すように手を出します。
氷室警部の思惑は兎も角、都が現場を仕切ることにすっかり慣れきっている──そ
して、それがどんな異常なことであるかについて麻痺している──冬田は、何の躊躇
いも無く予告状を都に渡しました。
「ジャンヌの予告は、「丘の上のももたとくりこ像」となっているわよね。この資料
館のある丘には、もう一つ「ももたとくりこ像」があるわ」
都は、地図上の公園のある一点を指し示しました。
「確かに、その可能性は検討した」
氷室の言葉に、勢いを削がれた気がした都。単に、気づいていないだけだと思って
いたからです。
「だったらこの配備は少し偏り過ぎじゃ」
「上からの命令だ。何があっても、純金像は守るようにとな。どうも、政治絡みで話
があったらしい。モニュメントは、万が一にでも盗まれたら、また造れば良いという
ことだそうだ。なので、このシフトにした」
なるほどね。純金像は昔のばらまき予算の使い途に困って造ったものだから、盗ま
れてもまた造り直すというのは難しい。何しろ、現金を盗まれたようなものだから。
だけど、公共事業で造ったモニュメント象であれば、改めて造り直すことも出来る。
むしろ業者は仕事が増えて儲かるということか。原資は税金だけど。気に入らないわ
ね。あのモニュメントは、子ども達に人気があるのに……。
「判ったわお父さん」
お父さんの言葉に、氷室はぴくりと反応します。みんなの前では、その呼びかけは
しないようにと言っていたからです。もちろん、都はわざとそう言いました。
「都。それで話が…」
氷室は、本題に入ろうとしますが、都はそれを遮り言いました。
「純金像の方はお父さんに任せる。あたしは、モニュメントの方を守るから、春田さ
んと秋田さん、そして今借りている人達を引き続き貸して欲しいの」
言いながら勝手に、春田と秋田、そして警官隊の駒を1つ、モニュメント象の周囲
へと移動させた都は、地図の脇に置いてあった自分を意味する駒をモニュメント象の
所に配置しました。
「う〜む」
いつもならすぐに返事をする氷室は腕組みをして熟考しました。やっぱり、お父さ
んはあたしのことをジャンヌ捜査から外したがっているんだろうか。段々都が不安に
なって来た頃になって、氷室は言いました。
「判った。そっちの方は都に任せる。今使っている人員もそのままで構わん」
「ありがとうお父さん!」
そう言うと、都は会議室から現場へと引き返しかけ、そして振り返って言いました。
「そうだ。もう一つ、お願いがあるんだけど……」
「良いんですか? 警部。都さんに行かせて」
都が出て行ってしまった後、後をすぐには追わなかった秋田が氷室警部に言いまし
た。
「都は、昔からこうと決めたら人の話を聞かないからな」
「しかし」
「それに…だ。実のところ俺も、上からの命令が気にくわなかったのさ」
「警部」
「秋田、都を頼む」
「はいっ」
秋田は敬礼すると、都の後を追うべく駆けて行くのでした。
●桃栗町の何処か
怪盗ジャンヌが予告状を出した郷土資料館と公園を一望出来る丘に偽装の上、オッ
トー中隊の一部が偵察任務を帯びて布陣していました。
偵察任務であれば、別に彼等がする必要も無く、むしろ通常の人からは見ることの
出来ない魔族あるいは天使族が担うのが適当という意見もありましたが、実際に目に
した情報の判断という点では、少なくともこの地においては人族が勝る、という意見
が説得力があり、オットー中隊が今回の作戦の周辺警戒・偵察任務に当たっていまし
た。
「シュヴァルツより各分隊へ。状況報告。送レ」
「プラウ、異常なし」
「ロート、異常なし」
「ゲルベ、異常なし」
「ヴァイス、異常なし」
「各分隊、異常ありません。隊長」
「ご苦労、軍曹」
実際には軍隊で言えば特務曹長の役目を果たしている「軍曹」にオットーは声をか
けました。続いて、彼が長年愛用している双眼鏡──これも、所謂ヴィンテージの一
品──で、敵陣の様子を観察します。
「敵は何を考えているのだ?」
オットーから見て、敵陣──桃栗警察──の配備状況は不可解なものでした。わざ
わざ攻撃目標──公園の「ももたとくりこ」像──を予告状で示したにも関わらず、
そちらの配備は手薄であり、むしろその近くにある建造物──郷土資料館──に配備
が集中しているように見えました。
「どう見る、軍曹?」
今風に言えば対人狙撃銃──元々は対戦車ライフル──のスコープを覗き込んでい
た軍曹に双眼鏡を渡して訊ねたオットー。
「はい。建物に兵を配置して、目標に敵が現れた瞬間に一斉射撃…でしょうか」
「兵の配備がこちらから丸見えでなく、しかも敵が火力を自由に使えるのであれば
な」
「はい。敵の交戦規則はかなり厳しいと聞きます。火力も貧弱です。それを前提にす
れば、あの配置はありません」
「すると、あの建物自体が重要であるか。それとも、我々には未知の何かがあるか
…」
判断がつきかねたオットーは、取りあえず司令部に報告し、判断を仰ぐことに決め
ると軍曹にそれを命じました。
「まずいな…」
改めて双眼鏡を構えて、今回の攻撃目標──丘の上の「ももたとくりこ」像──の
周辺の配備を観察したオットーは舌打ちしました。像の側で指揮を取っているのは、
クイーン──フィン・フィッシュ──の許可無い限り、こちらからの手出し禁止とさ
れている、東大寺都でした。都の周辺には、これまた攻撃対象外と指示がある水無月
大和、そして刑事二人に警官隊が若干。これだけが目標の周辺に配備されている全て
でした。
目標の周辺では警官が刑事の指示の元で動き回っていましたが、何をしているもの
やら良く判りません。そうこうしている内に、日が暮れて行き、肉眼では観察が困難
となっていきました。
「ヴァンパイアの用意は出来ているか?」
実際の名称は異なるが、自分がかつて所属していた軍隊でのそれの呼び名をオッ
トーは口にすると、周辺で伏せていた部下が準備完了の応答を返しました。オットー
はヴァンパイア──三脚に設置された暗視装置──まで移動し、敵陣の様子を伺いま
す。
「む…何だ、ありゃあ?」
敵陣の上空には元々ヘリコプターが何機か飛び回っていましたが、それとは別の一
機が下降し、攻撃目標側に着地しました。機体からは人が何人かと何かの機材が下ろ
された様子でした。その機体が離れると、更に一機。より大型の機体が飛来し、建機
を下ろしていました。
見る見るうちに、周囲には鉄パイプが立てられてシートが張られて行きます。更に
その上からは網のようなものがかけられると、赤外線による探知さえ困難となってい
きました。
「奴ら、戦争でもする気なのか?」
自分達も完全武装なのを忘れたかのように、オットーは呟くのでした。
●桃栗町の何処か ミカサ達の本陣
「出撃の準備はどうか」
「既に総員、出撃準備は整い、整列しております」
慣例として、もっとも術の使用に熟練した──術の強さとは必ずしもイコールでは
ない──、経験の長い者が任命される療兵長は、レイに報告しました。
兵達に訓示を与えるべく、洞窟内の自室から出ようとした時、ミカサが部屋に現れ
ました。即座に背筋を伸ばし敬礼したレイ達に答礼したミカサは腰を下ろすように言
い、自分も空いている椅子に腰を下ろしました。
「少し、現在の状況について耳に入れておきたいと思ってね」
単なる情報であれば、レイ達にも即時に伝わるようになっているのですが、ミカサ
が伝えたのは、得られた現地の情報からの推測と、新たに明らかになった情報でした。
「丘の上に像が二つあると?」
「そう。正確には、純金像の方は二つの像に別れているから三つだけどね。警察の方
は純金像の方を主に警備しているようだ」
「どうしてそのことを」
「すまない。実は、今日話を聞いた時、それの存在を忘れていた」
今回の作戦目標を決めたのはレイとミナで、この街を上空から見下ろした時に見え
たモニュメントを今回の作戦のターゲットとするとの相談を受けた時、純金像の方を
失念していたミカサは、レイに詫びました。
「いや。敵が少ない方がやりやすいと言えばやりやすい。物足りなくはあるがな」
「しかし、問題はそこに配置されている兵力だ」
「聞いている。彼女を傷つけるつもりは無いから安心して欲しい」
「信頼している」
レイは肯きながらも思っています。神の御子の盾として、利用はさせて貰うと。
「今回の作戦の目的の一つは、既に伝達したとおり神の御子側の戦力を誘引し待ち伏
せ、それを捕獲するか負傷させ、戦力を削ぐことである」
選抜された一個小隊相当の天使達を前に、レイは作戦前の最後の訓示を行っていま
した。
「仮にそれらの目的が上手く行かなかったとしても、目標物の奪取又は破壊により、
もう一つの目的は達成される。故に私は総員に伝達する。無理はするな、と。以上
だ」
「総員、出発!」
療兵長の号令により、天使達は続々と飛び立って行きました。
●桃栗町西部地区・ツグミの家
「セルシア、ご飯出来たよ」
「はぁい。ですです〜」
瀬川家の夕食の支度が整い、まろんはリビングで居眠りをしていたセルシアに呼び
かけました。ぐっすりと眠っているので、起きるのに時間がかかると思いきや、ご飯
の単語を聞いた瞬間に目覚めるのは何時ものこととはいえ苦笑してしまいます。
「お腹一杯ですです」
かなり多めに作ったつもりでしたが、セルシアの食欲は尋常ではなく、あっと言う
間に用意した食事は無くなってしまいました。
「お粗末様でした。じゃ、今お茶入れるわね」
「あ、私も手伝う」
「じゃあ、お皿をお願い」
「うん」
ツグミがお茶を入れている間、テーブルの上に並べられた皿を片付け、流しの水の
中に浸けていったまろんの手に、ツグミの手が触れました。
「あ…。ツグミさん?」
触れた相手の感情を読むことが出来るツグミ。まろんは、今の気持ちを見透かされ
そうな気がして慌てて手を引っ込めてしまいます。
「ご、ごめんなさい。驚かせてしまった?」
「う、うん。ちょっと…。ツグミさんこそゴメンね。何?」
「お茶の用意、出来たから」
「判ったわ」
夕方にも飲んだばかりだと言うのに、またまたお茶を飲み始めたまろん達。
楽しげな一時。しかし、その中でまろんだけは苛ついていました。
(もう、セルシアってば、ツグミさんとあんなに楽しそうにして)
そんなまろんの右の掌の上に、ツグミの手が重ねられました。ツグミの居る右側に
顔を向けたまろん。思ったより近くにツグミの顔が見えました。ツグミはまろんがこ
ちらを向いたと知ると、微笑みます。その表情を見たまろんは、「心配しないで」と、
彼女が言ったように思え、苛々が収まっていくように感じられるのでした。
ご飯を食べてお茶を飲んで人心地つくと、セルシアはその場の雰囲気がおかしいこ
とに気づきました。まろんは何故だか苛々しており、隣に座っているツグミも何かを
恐れている様子。
(ど、どうしたら良いんですです?)
表面ではにこやかにお茶を飲みつつ、セルシアは冷や汗が出る思いでした。
本当はいけないことなのだけど、もう少し力を集中して二人の心の色を読もうかと
試みた時、人間のものに似た別の意識を少し離れた場所に感じました。
(海の方? お空の上ですです? まさか)
そのような場所に人間がいるとは考えられない。すると敵!? 結論が出た瞬間、セ
ルシアの行動は、普段の彼女からは考えられない程に迅速なものでした。
「まろんちゃん! ツグミさんをお願いするですです!!」
突然立ち上がったセルシアを唖然として見ているまろんにそう言い残し、窓を開け
て夜空へと駆け上がり、探知した気配に辿り着くまでに一分とはかかりませんでした。
現場に到着してみると、その気配はその場から少し移動していました。しかし、そ
の姿は見ることが出来ません。
「待つですです〜!!」
その気配を追いかけるセルシア。しかし、どうしても追いつくことが出来ません。
そうしている内に、知らず知らずの内にツグミの家から遠ざかって行くのでした。
突然立ち上がり、何か叫ぶと出て行ってしまったセルシア。大層慌てている様子だ
ったので、すわ敵襲かと思い身構えてはみたものの、特に何かが起きることはありま
せん。
「セルシアは急にどうしちゃったのかな? ツグミさん、何か感じる?」
まろんに問いかけられたツグミは、何事か考え込んでいたらしく、ハッと気がつい
たような表情をしていました。しかし、まろんの問いかけはきちんと聞こえていたら
しく、少し考えてから言いました。
「多分、あの気配かも」
「あの気配?」
「時々、辺りに感じる何かの気配。人間でもなく天使でも、多分、魔族でもない」
「それって…まさか幽霊…とか」
都がそう言えばこういうの弱かったなと思い出しながらも、まろんも背筋に冷たい
ものを感じます。
「判らない。それは感じることは出来ても、触れることも話すことも出来ないから。
さっきも、海の方にその気配を感じたわ」
「じゃあ、セルシアはそれを感じて?」
「でも、気配はどこかに消えてしまった。セルシアも感じることが出来ない程に、遠
くに行ってしまった」
窓の側に立ったツグミは、外の方に顔を向けながら言いました。
(…と言うことは、今はツグミさんと二人きり?)
そう気づいたまろんは、ツグミの側まで歩いて行きます。
「ツグミさん」
「え?」
ツグミは、まろんの方に顔を向けました。
「やっと二人きり…だね」
ツグミの耳元でそっとまろんは囁きます。そして……。
「嫌あっ!!」
「え…?」
一瞬、何が起きたのか判りませんでした。尻餅を突いてから、ツグミが自分を突き
飛ばしたのだと判りました。
「あ…ご、ごめんなさい」
そう言いつつ、ツグミは後ずさりしました。
「どうしたの急に? びっくりしたよ。……ツグミさん?」
立ち上がり、お尻をさすりつつツグミに近づこうとしたまろん。しかし、ツグミは
後ずさりして自分から遠ざかろうとします。まろんはツグミの肩を捕らえようとして、
その手を止めます。
「ツグミさん…? どうして、どうして震えているの?」
両手で自分を抱きかかえるようにして、ぶるぶると震えているツグミにまろんは呼
びかけました。
「…いんです」
ツグミの声は、今にも消え去りそうで、何を言っているのかを確認するために、二
回程聞き返す必要がありました。
「怖いんです。日下部さんと触れ合うことが」
「どうして?」
さっき、ツグミさんの方から触れて来たじゃないという突っ込みを飲み込み、まろ
んは訊ねました。
「また、あなたのことを傷つけてしまうかもしれない」
判ってしまえば、どうということはありませんでした。笑ってしまいそうになるの
をすんでの所で堪え、まろんはツグミを逃がさないようにいきなり抱きかかえます。
ツグミは逃れようとしますが、まろんはしっかりと掴んで離しませんでした。
「離……して」
「本気でそう言ってる? ツグミさん…。私のこと、嫌になった?」
「そんなこと…無い」
「私と触れ合うことは?」
「嫌…じゃない」
逃れようとするツグミの力が抜けるのが判りました。それに気づくと、まろんは手
に込めた力を緩めます。それが判っても、ツグミはまろんの手の中から逃れようとは
しませんでした。
「怖がることなんて、無いよ」
「でも…」
「悪魔達がツグミさんを狙ったり、ツグミさんを使って何かしようとしても、私が…
…ううん、私だけじゃない。稚空が、アクセスが、トキが、そしてセルシアがきっと
何とかしてみせるから。昨日みたいに。だから、ツグミさんが怖がることなんて、何
もないよ」
まろんは再び腕に力を込めて言いました。
「それとも、私のことが信じられない?」
「そんなこと…ないわ」
「ありがと」
まろんは、ツグミの頬に軽く口づけました。ツグミは黙ってそれを受け入れます。
「まだ…怖いかな?」
「…少し」
「じゃあ、もっと触れ合おう? これまでみたいに触れ合って、気持ち良くなれば、
怖いことなんて忘れちゃうよ。嫌なことも、きっと忘れられると思うんだけど…」
最後の方は、ちょっと自信が無さそうに言うまろん。ですが、その自信の無さは、
ツグミの笑い声によって打ち消されました。
「ツグミさん?」
「日下部さんと初めて触れ合った時のことを思い出したわ。あの時は、私が日下部さ
んの嫌なことを忘れさせてあげるって言ったんだっけ」
ツグミの言葉に、まろんの頬が真っ赤に染まります。
「うん、そうだったね。だから今日は、私の方からお返しさせて」
まろんは、一旦ツグミから離れました。
そして、今度はツグミの首に軽く手を回します。
それだけで、ツグミは理解したようでした。
どちらとも無く、顔を近づけると二人は唇を重ねようとしました。
「(あれ?)」
最初に口づけようとした時、何かが邪魔をしました。
「痛っ」
勢い余ってツグミに額をぶつけてしまったまろん。
「ゴメン、ツグミさん」
「もう、焦ること無いのに」
アハハ、と笑いながらまろんはある可能性に気づきます。
「(まさか、障壁が邪魔しているんじゃ…)」
障壁が自分に害を為す代物を防御しているとすれば、ツグミさんからも自分を防御
しようとするのでは。
「(ツグミさんは違うんだってば!)」
まろんは、心の中で強くそう思うと、改めてツグミと唇を重ねようとします。
「ん…」
今度も、何かが邪魔をする気配を感じたものの、無事に唇を重ねることが出来まし
た。まろんは安心してツグミの唇に酔いしれました。
息苦しくなっては離れ、そしてまた口づけて…。
二人は、しばらくの間飽きること無く口づけを繰り返しているのでした。
(続く)
# 縦書きにした時のことを考えて体裁を少し変えてみましたが、横書きだと見づらい
# ような気が少し(苦笑)。
後もう一息……かな?
では、また。
--
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