Re: Kamikaze Kaito Jeanne #40 (12/18)
携帯@です。
またまたまた間隔が空いてしまいましたが、
# 本スレッドは「神風怪盗ジャンヌ」のアニメ版第40話から
# 着想を得て書き連ねられている妄想スレッドです。
# そういう2次創作物が嫌いじゃ無い方のみ、以下をどうぞ。
Message-ID: <fdl90t$30g4$1@ccsf.homeunix.org>の下にぶら下げています。
(その1)は、Message-ID: <fdlb9p$5ob$1@ccsf.homeunix.org>から
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(その6)は、Message-ID: <fmt1m5$acr$1@sakura.ccsf.jp>から、
(その7)は、Message-ID: <fp8a7u$2ort$1@sakura.ccsf.jp>から、
(その8)は、Message-ID: <fs24kl$1pj1$1@sakura.ccsf.jp>から、
それぞれどうぞ。
^L
★神風・愛の劇場 第176話「天使が見える乙女」(その9)
●桃栗中央駅前通り
夕方。桃栗学園や枇杷高校を始め、電車通学の学生達や買い物帰りの主婦達が行き
交う駅前通りの一角。
水無月グループが最近建設したビルの地下駐車場に、まろんと都、稚空はやって来
ました。都に頼まれ、チェリーに街を案内していた大和が、この場所を待ち合わせ場
所として指定して来たのです。
「日下部さーん。東大寺さーん」
「あ、委員長だ。おーい」
大和が、人混みの向こうで手を振っていました。
「まろんさーん。都さーん」
続いて、背が小さい分、人混みの向こうに完全に隠れていたチェリーの声だけがま
ろん達に届きました。
「悪いわね委員長。チェリーちゃんの案内頼んじゃって」
「いえいえ。地元に住んでいると案外、行かない所とかあるじゃないですか。面白か
ったですよ」
そう言うと、委員長は後ろを振り返って手を上げます。
委員長が振り返った先には、先程から少し気になりつつもまさかとは思っていたの
ですが黒塗りの大きな車が停車中でした。
委員長の合図に応えてか、車からは制服を着た運転手が出て、恭しく後部扉を開け
ました。中からは、まろん達からは見慣れた人物が出て来ました。
「委員長のお爺ちゃん!」
「馬鹿、失礼よまろん。水無月会長でしょ」
「ほっほっ。お爺ちゃんで良いよ。東大寺都さんに、日下部まろんさん。孫がお世話
になっておる」
と、にこやかに笑う老人は、大和の祖父である水無月グループ会長、水無月鏡太郎
でした。
「お久しぶりです。会長」
「おお、稚空君もおったか。久しいの。お父上は元気か?」
「ええ。おかげさまで」
「ちょっと稚空、委員長のお爺ちゃんと知り合いなの?」
会長と知り合いである雰囲気の稚空に小声でまろんは訊ねました。
「水無月グループは家の病院の出資者なんだ。それで、パーティとかで子どもの頃か
らたまにな」
「ちなみに、その時に僕とも会ってたんですけどね」
二人の会話を聞きつけた大和が口を挟みます。
「委員長とか? すまん。覚えてない」
「え〜そんな〜。山茶花さんと一緒に遊んでたじゃないですか〜」
普段は感じないのですが、やっぱり稚空は少し住む世界が違うんだろうか、と考え
てしまうまろんなのでした。
「ひょっとして、水無月会長が案内してくれてたの?」
「です。車だけお願いしたんですけど、祖父が是非にって」
「去年来られた時にも、案内する筈じゃったんだが、怪盗ジャンヌが現れたりして、
結局ほとんど案内出来なかったからの」
「いえ、そんな…」
鏡太郎の言葉に、俯いてしまうチェリー。
きっと、自分が悪魔に取り憑かれた父から逃げた所為で、スケジュールが目茶苦茶
になったことを気にしているのだとまろんは思います。
「ありがとうございました。それじゃ、後はあたしたちが…」
「折角だから、最後まで案内させてくれ。実は、夕食も用意しておるのでな」
「そんな、悪いです」
「気にしなさんな。ささ、みんな乗った乗った」
鏡太郎が指さした車は、あまり見かけない車体を延長したリムジン車で、まろん達
を乗せるだけの大きさがありました。
「(これ、この狭い街でどうやって走らせて来たんだろう…)」
などと、珍しそうに車を眺めていたまろん。
都達が車に乗り込んでしまったことに気づき、慌てて自分も乗り込もうとしたので
すが、都に止められてしまいました。
「まろんは駄目でしょ」
「え!? どうして?」
「ツグミさんのお見舞いに行くんでしょ」
「あ……」
そんなことを都に言われていたことをまろんは思い出しました。
「うん」
「遅くなったり、泊まる時は、あたしのPHSに連絡するのよ」
「判った」
「まろんちゃん。早く乗りなさい」
「あ、良いのこの娘は。ちょっと、友達のお見舞いの用事があって」
都がそう言うと、稚空の表情が変わったような気がしたまろん。
無意識に、外から扉を閉めてしまいます。
そして、待機していた運転手に、自分は別に用事があるのでと、車を出してくれる
ようにお願いします。
出て行く車の中で、稚空が何だか自分をじっと見ている気がしていたのは、多分気
のせいでは無いだろうと、まろんはそう思うのでした。
●桃栗町西部地区
駅前からバスに乗り、ツグミの家にやって来たまろん。
チャイムを押す前に、待ちかまえていたという感じで──実際には足音を聞きつけ
て駆けつけた──扉が内側から開かれます。
「こんにちわ」
「いらっしゃい」
それから、何時もの挨拶をしようとしたまろん。
ツグミに手で止められてしまいました。
「まろんちゃん。いらっしゃいですですっ」
抗議しようとしたまろんは、セルシアの声で、すぐに事情を察するのでした。
*
「身体の調子はどう?」
リビングに通されたまろん。
紅茶を運んで来たツグミに、今日一日、気がかりだった点を訊ねます。
「特に悪いところは無いけど…」
そう言いながら、まろんの隣に腰を下ろしたツグミ。
「けど、身体がまだちょっと熱い…かも。どうしてかしらね」
耳元でツグミが囁くと、自分の身体まで熱くなりそうな気がしたまろん。
思わず、昨日の反省はどこかに飛んで、勢いに任せそうになってしまいます。
しかし、向かいのソファから視線を感じ、手が止まりました。
「あ…」
視線の方向に顔を向けると、セルシアがじっとこちらを見ていて、目が合ってしま
いました。
「あ、えと、ちょっと外に出て来るですですっ。ご、ごゆっくり!」
何を想像しているのか顔を赤らめつつ、慌ててセルシアは立ち上がりました。
「あ、待って!」
窓から外に出て行こうとしたセルシアをツグミが呼び止めます。
「せっかくお茶を入れたのだから、飲んで行って」
「え、でも…?」
「美味しいクッキーもあるのよ」
「判りましたですですっ」
その言葉が止めとなったらしく、セルシアは再び腰を落ち着けてしまい、せっかく
二人きりになれるとのまろんの淡い期待は、無惨にも打ち砕かれてしまうのでした。
●桃栗町・郷土博物館
小高い山が多く、それが急斜面乃至は崖となって海へ降りて行く地形──リアス式
海岸──が多い桃栗町。同時に、少ない平地は水深も深く良港であるが故に、昔から
港町として栄えており、また濱坂方面へと向かう海路を守る要衝としても重要な土地
でした。
近代に入り、外敵に備えて町内の海に面した丘には砲台が幾つも築かれましたが、
もちろんその全てが不要となった今では廃止され、公園として整備されていました。
郷土博物館兼文化会館は、そのような砲台跡の一つに、公園に併設して建てられて
いました。
*
閉館時間間際で、他に客がいない──元々、観光シーズンの休日以外に客は殆どい
ないのですが──郷土博物館の館内。
館長から、直々にこの博物館の成り立ちについて説明を受けているチェリー、そし
て彼女の側に立っている大和、鏡太郎から少し離れた場所で、都はうろうろと歩き回
り、上を見上げたり足下を見たりと、やや落ち着かない雰囲気でした。
もっとも、それは外から見た様子であり、彼女自身は、館内を警備するとすれば、
どこから賊──即ち、怪盗ジャンヌ──が侵入して来るのか、それに対してどのよう
に警備すれば良いのかを冷静に考えていたのですが。
「ここに来るのも久しぶりね。稚空もここ、来たことがあるの?」
「……」
チェリーが説明を受けている展示室の一つから出て、博物館の入り口ロビーを視野
に入れた時、ロビーに立っている稚空の姿が目に入った都。
稚空も前に来たことがあって、この博物館の中身には興味が無いのだろうかと話し
かけました。
しかし、稚空からは返事がありません。
「稚空!?」
聞こえていなさそうな雰囲気に、やや声を大きくして都は呼びかけました。
「え? ああ…。何だ都」
「どうしたの? ぼーっとして」
「そんなことは無い」
「じゃ、あたしが今、何て言ったのか答えられる?」
「……。すまん、聞いてなかった」
はあっ。
わざと大きく都はため息をつきました。
「やっぱり、チェリーちゃんの案内より、まろんと一緒に居たいんでしょ?」
稚空の肩に手を載せて、都は囁きます。
「まろんは俺がいたら邪魔らしいからな」
「そうよね〜。今頃、二人で何してるんだか」
「そ、そうだな」
「二人は今頃、何してると思う?」
「知るか!」
ふふん。
鼻で笑うような表情を見せた都。
馬鹿にされたように感じた稚空は流石に少し怒ります。
「今、俺のこと笑っただろう都」
「ええ。いやらしいこと考えてるかなって」
「んなこと考えるか! 大体、女同士だぞ」
「顔が赤いぞ、稚空君」
「夕焼けの所為だろ」
確かに稚空の言うとおり、西日が図書館の入り口から差し込み、二人を照らしてい
ました。
「ね、前から気になっていたことがあるんだけど」
「何だ?」
「まろんと稚空のこと」
「俺とまろんのこと?」
稚空に寄り添っていた都は、一歩後退り、稚空から離れました。
「どこまで二人の関係は進んだのかなって」
「関係って」
「単刀直入に言って欲しい?」
「な…。そんなこと、話せるか」
「その様子だと、まだ関係は進んでない…と」
都は手帳を取り出し、メモを取るふりをしました。
「決めつけるな!」
「じゃ、もう行く所まで行ったんだ。あたしにも手を出した位だもん。もうとっくに
よね…」
都はわざとらしく、顔を背けてみせます。
「う…」
それは違う、誤解だ。
……と、稚空は心の中で思いましたが、もちろん口にはしませんでした。
「な〜んてね、冗談よ。せいぜいキス止まりでしょ。まろんから、それ以上進んだっ
て話は聞いてないもの」
それを聞き、ほっと胸を撫で下ろした稚空ですが、続く都が小さく呟いた言葉に目
を見張ります。
「ちゃんと、自分でも確かめたし」
「何!?」
上目遣いで、稚空の表情を伺った都。
「また、変なこと考えてたでしょ」
「それは、都が…」
「あたしとまろんは女の子同士だけど?」
心の中で色々な意味で笑いつつ、表面では真面目な表情を作る都。
「からかうなよ、都」
「ごめん稚空。でもさ、さっきから稚空のこと、見ていられなくて」
「俺がか?」
「うん。ツグミさんとまろんのこと、本当はもの凄く気にしてるでしょ」
「…そうだな。馬鹿馬鹿しいのは判っているんだが」
あら意外。
そう感じた都は、続けて言いました。
「素直で宜しい。稚空はさ、誰とでも気軽に接してくれて優しい。あたしはそんな稚
空が好きよ。けどね、あの子が求めているのは、多分そういう優しさじゃないと思う
の」
「まろんが求めているもの?」
反射的に聞き返した稚空。
都はそれにすぐに答えず、稚空に背を向けました。
目の前には、博物館の入り口があり、その外に見える公園には、何年か前に建設さ
れたこの街のシンボル、「ももた」と「くりこ」の像──子ども達からは愛されると
同時に、税金の無駄遣いとの批判も強い──がありました。
「あたしはね、結局まろんを守れる王子様になりたかったんだと思う」
ようやくことで話す事に踏ん切りのついた都は、こう切り出しました。
「王子様?」
一瞬、笑いかけた稚空。
しかし、都の話が真面目なものだと気づいたからか、すぐにそれは止みました。
稚空が真面目に話を聞いてくれそうだと判断した都は、話を続けます。
「あたしはね、小さい頃から曲がったことが大嫌いで、何でもずけずけと言うものだ
から、他の子達から嫌われていたの。でも、まろんは、そんなあたしのことを判って
くれて、いつでもみんなの誤解を解いてくれた。まろんは強かった。いつも強くて、
明るかった。だけど、ある日気づいてしまった。まろんは本当は……。稚空も判るで
しょ?」
「まろんは…本当は寂しがり屋の癖に意地っ張りで、都よりも不器用。……俺にまろ
んのことを頼んだ時、確か、あの時そう言ったよな?」
「覚えててくれたんだ」
「忘れる訳ないだろ。学園の屋上。こんな夕焼けが綺麗な日だった。都、自分で呼ん
でおいて、遅刻するんだもんな」
自分が稚空に告白した時のことを覚えていてくれて、ちょっと嬉しかった都。
しかし、今はその話をする時ではありません。
「ありがとう。話を戻すけど、あたし、そんな寂しがり屋で意地っ張りなまろんに守
られるだけじゃ無くて、守ることの出来る存在になりたかった。努力もした。王子様
になりたいって言うのはそういうこと」
「都は、ちゃんとまろんのことを守っているじゃないか」
恐らく、稚空は本気でそう思っているんだ。
そう感じつつも、都は首を振ります。
「ううん。あたしはまろんを守っているつもりだったけど、最近思い知ったの。まろ
んにとってあたしは、守ってくれる王子様なんじゃなくて、守るべきお姫様なんだっ
て。せめて、彼女の寂しさだけは埋めることが出来ればって思って、行動もしてみた
のだけど、まろんはどうしても、あたしに自分からは弱みを見せたくないみたい」
「そんなこと、ないと思うぞ」
思った通りの答えの稚空。
あたしは、稚空に励まして貰いたいんだろうか?
ううん。そうではない。むしろ逆なんだから!
稚空に振り返ろうとして、目頭が熱くなっていることに気づいた都。
慌てて、気づかれないように目元を指先で拭います。そして。
「名古屋稚空!」
「は、はい」
思わず、姿勢を正す稚空。
「あたしはあの時、まろんのことをあんたに頼んだの! 頼んだ以上、稚空とまろん
の間のこと、口出しはしたくないの。けど、もし、稚空がまろんを守れないようであ
れば……。その時は、まろんは返して貰うから! ……なんてね」
ああ。ここで冗談に落とすかあたし。
でも、言い切ってしまうのが怖い。
稚空にまろんを全面的に渡すのが怖い。
ああ、あたしに力があれば、こんな想いはしなくて済むのに…。
「ああ。判ってるよ。絶対まろんは俺が守るから」
「信じているからね。稚空」
心の中にもやもやしたものを残しつつ、何故かもの凄い真剣な表情を見せた稚空に
対しては、都としてはこう言うしか無いのでした。
(つづく)
おかしい。話が進まない(苦笑)。
では、また。
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