Re: Kamikaze Kaito Jeanne #40 (12/18)
携帯@です。
また3週間程空いてしまいましたが(滝汗)。
# 本スレッドは「神風怪盗ジャンヌ」のアニメ版第40話から
# 着想を得て書き連ねられている妄想スレッドです。
# そういう2次創作物が嫌いじゃ無い方のみ、以下をどうぞ。
Message-ID: <fdl90t$30g4$1@ccsf.homeunix.org>の下にぶら下げています。
(その1)は、Message-ID: <fdlb9p$5ob$1@ccsf.homeunix.org>から
(その2)は、Message-ID: <ffc19v$1psh$1@ccsf.homeunix.org>から
それぞれどうぞ。
^L
★神風・愛の劇場 第176話「天使が見える乙女」(その3)
●魔界・魔王都
日下部匠ところん──まろんの両親──とささやかな、だが心休まる休日を過ごし
ていたフィン。だが、その日も残り少ないことは判っています。
その日の朝、ころんが作った朝食を食べてすぐ、離宮から魔王宮へとフィンが(文
字通り)飛んで来たのは、その休日を終わらせることを告げようとしたがためでした。
魔王宮の中──というより、魔王都全域──では飛行しないこととされているため
に、魔王都──実際には桃栗町よりも小さな町──の表通りを歩く様々な種族の住人
達に、恭しくそれぞれの種族のやり方で敬意を表され、気恥ずかしさを表情に現さぬ
よう注意しつつ歩いて行きました。
魔王宮では、今度は侍女達に迎えられたフィン。
こちらでも街の中と同様に迎えられましたが、こちらの方ではフィンは少しは気楽
でいられました。
道々出会う侍女に軽く会釈をしながら歩いて行くフィンは、侍女の一人の姿を見て
足を止めました。
「あら、あなた…」
「あ!」
思いがけず声をかけられた侍女は飛び上がります。
しかし、すぐに嬉しそうな笑顔を見せました。
「覚えていて下さったのですか!?」
「ええ。エリスのお友達よね?」
「はい! あの、彼女は……」
「人間界でも元気にしてるそうよ。そうそう、妹と再会出来たとか」
「それは良かった! ……あの、クイーン様におかれましては」
「フィンで良いわよ」
「では、フィン様にお願いが」
「何かしら?」
「また、人間界に戻られると聞きました」
フィンは肯きます。
「人間界でエリスに会いましたら、早く戻って来いって伝えて下さい。彼女がいない
と王宮が静か過ぎて物足りないとみんな言ってます」
エリスの同僚の言葉に、フィンは笑いながら肯くのでした。
「そうだ。これを」
思い出したように、フィンは袋をどこからか幾つか取り出すと、エリスの同僚に渡
しました。
受け取った同僚は、くんくんと鼻を鳴らします。
「焼き菓子…ですか? ひょっとして」
「クッキーよ。ころんさん──我が家の人族の客人に焼いて貰ったの。一つは、侍女
長様にお渡ししてね。彼女、こういうの好きだから。残りは皆さんで」
「判りました!」
そう言うや、エリスの同僚の侍女──実は名前は一度も聞いたことが無い──は、
駆けて行きました。
エリスから聞いていた通りの性格ねと、くすりと笑ったフィンは、彼女が走って行
く先に複数の人影が向かって来ることに気づきました。
「危ない!」
声をかけたフィン。しかし、侍女は速度を落とす気配も見えません。
危うくぶつかりそうになった時、その人影は忽然と姿を消しました。
「あれ!?」
目をごしごしとこすったフィン。
しかし、そこには人影など何も無く、ただ侍女長の部屋へと駆けて行く侍女の背中
が見えるのみ。
気のせいだったのだろうか。そう思い直し、再び歩き始めようとした時、フィンは
忽然と気配を横に感じます。
「……え!?」
そこにいたのは、先程の複数の人影──三人──。
人族かと思いきや、背中には小さな翼がありました。そして、頭には人族にはあり
えない位置に耳のようなものが。
先を進む男性──見かけは──の顔を見て、ある存在にそっくりであることにフィ
ンは気づきます。
(魔王様? ……いや、違う)
「彼」に付き従う二人、一人は見かけは男性、もう一人は女性──見かけは、フィ
ンと同じ位の年頃──は、フィンを見つめ、女性の方はフィンに頭を下げました。
「行くぞ」
「わ、待って下さいマスター」
一番偉そうな「彼」はフィンの存在を無視するかのように先に歩いて行ってしまい、
残る二人は「彼」の後を追いかけていきます。そして、現れた時と同じように、忽然
と姿を消してしまうのでした。
*
魔王宮の中。出会った侍女に魔王の居場所を聞き、数ある部屋の一つへと入って行
ったフィン。
部屋の中を覗き込むと、魔王は入り口に背を向けて──普段はこちらを向いて座っ
ている──、テーブルの上を覗き込んでいる様子でした。
「魔王様!」
後ろから忍び寄り、両手で目を塞いだフィンに、魔王は大げさに驚いてみせました。
実際には、忍び寄っていることは気づいているだろうにも関わらず。
魔王の目の前のテーブルには、木で出来た板と駒が並べられており、それはフィン
にも見覚えがある代物でした。
「それは将棋……ですか?」
「良く知っている。いや、神の御子の側にあればそれも当然か」
魔王がする遊戯と言えば、フィンの知る限りこの手のゲームでは人間界から持ち込
まれたチェスが定番でした。
宰相や侍女長を相手にチェスを指す姿をフィンは見たことがあります。
しかし今日の魔王の向かいには誰も座っておらず、一人で指している様子でした。
「今日はチェスではないのですね」
「今の我々の状況にはふさわしい遊戯だと思ってな」
「それは奪った駒を自分の駒に出来る……ということですか?」
フィンの言葉を魔王は沈黙で肯定しました。
パチンと音がして、目の前の板に並べられた駒が動きます。
魔王は駒に手を触れておらず、術で動かしたもののようでした。
「ふむ…。フィン、この局面をどう見る?」
「はぁ…」
そう問われても、将棋のことは殆ど知らないフィンは、答えに困ります。
それでも、一目見れば判ることがありました。
「相手方は、ただ守りを固めているように見えます。その程度しか」
「まぁ、そうとしか見えないな」
盤面では敵方はチェスであればキングに相当する駒が盤の片隅に置かれ、その周囲
を様々な種類の駒が固めていました。所謂穴熊と言われる戦法でしたが、フィンはも
ちろんその名は知りません。
「その席には座らないように」
空いている席のどれかに座ろうとしたフィンに、魔王は注意しました。
魔王に注意された席──向かい側の席──を避け、魔王から見て右側の席にフィン
は座りました。
「人間界に向かうのは今少し待つが良い」
フィンが要件を口にする前に、魔王はそれに対する答を口にしました。
「しかし」
「ノインはまだ遊び足りないようだ」
魔王は何処からか手紙を取り出し、フィンに見せました。
「ロザリオを?」
「そう言えば、あれはフィンが御子に与えたものであったな」
「ならば、もう一押しで」
「そうするにも、下準備が必要だ」
「しかし魔王様」
「決めたことだ」
手を前に出し、魔王はフィンの口を封じました。
こうなると、もう意志は変わらない。
そう考え、フィンは諦めることにしました。
「では、今少しとは?」
「そうだな……」
何か思案する風であった魔王は、ふと思い出したと言う感じで言いました。
「ところでフィン。ここに来るまでに、誰かに出会わなかったか? 侍女以外でだ」
「あ…はい。人族に似た、背中に羽根をつけた者達と。これまでこの世界で見たこと
の無い種族ですが、あれは一体」
「そうか……見えたか、あれが」
そう呟くと、魔王は腕組みして考え込む風を見せました。
もちろん、何を考えているのかは、フィンからは窺い知ることは出来ません。
「あの者達は何者なのですか?」
「あれは、かつて私が棄てた者」
「棄てた?」
魔王が気まぐれで作り出し、人間界に捨てた魔族なのだろうかと思ったフィン。
しかし何時もの彼がそうであるように、魔王は肝心なことについては多くは語らな
いのでした。
●桃栗町の外れ
朝食会の場が荒れるだろうと覚悟していたミナですが、レイは食事中は大人しくし
ていました。
いっそのことなら、最初から言いたいことを言えばいいのに。
そんなことを考えていたミナは、その日の朝食の味がしませんでした。
食卓に座っていた者が食べ終わった頃、食後の珈琲のカップを音を立てて置いたノ
インは、「さて」と口を開きます。
(……来た!)
にこやかな笑顔を見せるノインとレイの顔を見比べつつ、ミナは身構えました。
「皆さんに良い知らせと悪い知らせがあります」
「何じゃ、またか」
即座に反応したのはトールンでした。
「また、どちらを先に聞くかと問うのであろう?」
「ええ」
「ならば、悪い知らせの方から先に」
今度はレイが即座に反応しました。
ミナは気が気ではない、という様子でレイを見て、周囲の様子を伺いました。
すると、ミカサの側に座っているユキが、こちらの方をちらちらと落ち着かない様
子で見ているのが判り、ついクスリと笑ってしまいました。
「実は、昨晩結界の中に天界の天使達の侵入を許し、折角捕らえた神の御子を奪還さ
れてしまいました」
ノインが言うと、このことを知っていた者達を除き、驚きの声が上がりました。
「神の御子を捕らえた…じゃと?」
そう言ったまま、絶句していたトールン。
やがてこの事実を知らなかった者達がざわざわと騒ぎ始めました。
「そんな話、聞いておらんぞ!」
「だから今、こうして話している次第で。もっとも、今お話した通り、逃げられてし
まいましたが。申し訳ありません」
口とは裏腹に、悪びれた様子も見せずにノインは言います。
「すると、良い話と言うのは、神の御子を捕らえたという話なのであろう」
トールンがそう言うと、こくこくと周囲の竜族の者が肯きました。
「いいえ。エリス」
「はい」
部屋の隅で控えていたエリスが、恭しく盆に乗せたそれをノインの前に運んで来ま
した。一同に見えるよう、ノインはそれを手にします。
「それは、確か神の御子の?」
「はい。クイーンが神の御子に与えたロザリオです」
正確には今のロザリオは違うのですが、ノインはそう言いました。
「確か、それを使って戦闘形態へと変身するのであったな」
「ええ。つまり、これを奪ったことで、神の御子の攻撃力はほぼ零となります。これ
が、今日報告しようと思っていた良いことです」
「(障壁自体を武器にすることをまろん様は気づいたようだけど。それに、ロザリオ
無しでも一度変身していた筈だけど)」
ノインの説明を聞きながらエリスは突っ込みました。
しかしながら、一同はその言葉を信じたようでした。
「うむ。ならば、こちらから仕掛ける絶好の機会…」
「そうですね」
トールンの言葉を皆まで言わせなかったノイン。
「今後の方針はこれから話し合うとして、まずはこれまでの経緯についての報告を先
にしましょう」
「うむ」
「では、まずはレイ」
「は、はい」
「(ここでレイに話させる訳!?)」
ノインの言葉に反射的に返事をしたレイ。
同時に、ミナは緊張します。
レイがこの場で何を言い出すのかを。
「まず、神の御子を捕らえた経緯について、報告して下さい」
レイの様子を見つめているミナ──何かあったら止めるつもりで──の緊張を知っ
てか知らずか、レイは淡々と事実を報告しました。
とは言え、全てでは無く、神の御子に強い眠り薬を飲ませて捕らえて連れて来たこ
と──つまりは、昨日と同じ内容──のみをレイは話しました。
その報告を受けての反応は様々でした。
「こんな簡単な手で捕らえることが出来るとは……」
「しかし神の御子にどうやって薬を飲ませたのだ?」
「成る程、神の御子の障壁も体内からの攻撃には無防備か。メモメモ」
「しかしこのような卑怯な手を用いるとは、堕天使には誇りが無いのか」
「まぁ、堕天使共に魔族の矜持を期待しても無意味だが」
段々と、レイ達の手口に批判的な空気が強まって行きました。
ミナとしてはレイが何時爆発するのか、気が気ではありません。
「批判されるのは覚悟の上!」
ざわめく魔族達をレイは一言で黙らせました。
一方ミナは顔を青ざめさせています。慌てて、止めようとしたのですが、その前に
レイは話を続けます。
「もとより、卑怯な手口だと言われるのは承知の上。私もこんな手は使いたくなかっ
た。しかし、我々には時間が無いのだ。私は、目的を達成した上で、部下達を皆無事
に、我らの第2の故郷へと帰還させたい。その思いは、ここにおられる各々方も同じ
ではないのか!? 私は卑怯者と呼ばれようと甘受する。誇りある敗北など、何の価値
も無いからな。だが、一つだけ、各々方に知ってもらいたい。我ら天使にも誇りはあ
ることを。だから……」
「判った。判っておるから」
そう言い、レイの演説を止めたのはトールンでした。
「我らとて、人間界での天使共との戦いでは正々堂々と戦った訳ではない。卑劣な手
段を用いて反撃したこともある。生き残るため、必死だったのだ。だから、この件に
ついて、レイ殿を非難するのは止めにせんか」
この地の竜族達の長であり、また人間界で天使達と直接交戦したトールンがこう言
ったことで、竜族達は黙ってしまい、そして高等魔族たる竜族の言葉に、その他の魔
族達も従いました。
「済まなかったな。この場に居る者に代わり、謝る」
「い、いえ、そんな…」
「はいはい。話が丸く収まった所で、話を続けましょう」
手をパンパンと叩いてノインは宣言すると、オットーに報告を促します。
オットーは、稚空と天使達が結界内に侵入して来たこと、歩哨の当番であった人族
達の部隊が迎撃したものの、突破されてしまったと語りました。その中では、レイ達
が聞いた新型兵器のことについては語られませんでしたが、そのことについては、レ
イも特には気にしていないはずでした。
「(今の報告、ある方向に追い込むという命令を受けていた事を省略してるわね)」
本当は、神の御子を意図的に逃がしたのではないか。
それが、先ほど療兵長が聞いてきた昨晩の戦況を聞いてのレイの感想。オットーの
報告を聞いて、ミナもそれが事実なのではと感じます。
「(さて、問題はここからね)」
ミナは、次に報告するであろうミカサの姿を見ながら思いました。
「では、次はユキが報告して下さい」
「はひ?」
自分が指名されるとは予想していなかったらしく、ユキ」は素っ頓狂な声を上げま
した。
「私が…ですか?」
「実際に戦ったのは君なのだから」
この言葉に、ミナは少し驚き…直ぐに納得します。
遊園地の戦いで、神の御子を止めたユキの力をすぐ側で見ていたのですから。
「それはそうですが」
それでも遠慮していたユキは、再度ミカサに促されると、すぐに落ち着きを取り戻
し報告を始めました。
*
「…と言う訳で、神の御子自身に不意打ちを受けてしまい、恥ずかしながら気を失い
後の事は覚えていません」
「その後は、増援で来た女天使が光球で結界をぶち破ってな、彼女が切り開いた道を
一目散に彼女達は逃げていった。そうだよな、嬢ちゃん」
「私ですか? …はい。オットー隊長の言う通りです」
急に話を振られたエリスは、彼女にしては珍しく言葉を選んで答えました。
「神の御子と一緒に連れて来た瀬川ツグミはどうしたのかしら?」
「瀬川ツグミは先に意識を回復していたこともあり、神の御子と共に逃げられてしま
いました」
うん、嘘は言っていないよな。
ミナの問いに答えながらエリスは思います。
「話からすると戦いをすぐ側で見ていたようだが、戦いには参加していないのか?」
どう答えようかな。正直に答えても良いんだけど。
と言うか、普段の私ならそうするけど。
それでも、エリスは指示されたとおりに答えます。
「まろん様とそのご友人のお世話をすることが私の仕事でしたので」
「では、神の御子が逃げ出すのをただ見送っていたと言うのか」
「実は戦いに巻き込まれて、負傷してしまいまして。追撃は諦めました」
どうして負傷したのかは、言わないでおいた方が良いよね。
と、エリスはユキの方を一瞬だけ見て思います。
「エリスの言うことは本当です」
「ミカサ隊長はそう言えば何をしておられたのだ」
「はい。ノイン様のお屋敷に居たのですが、急報を受けて駆けつけた時には、ユキを
助け出すのが精一杯でした」
「待て。確か神の御子は、この屋敷の地下に…」
なおも質問を続けようとしたレイにミナの手が触れました。
レイはミナの方を見て、やがて頷くと黙ってしまいます。
そしてその後は、会議が終わるまでの間沈黙を保っているのでした。
(つづく)
何となく、某所のネタに反応してみたり。
では、また。
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