私は、私の家の中でのムカデの行動しか知らない。
自然の中でムカデを追い回したり観察したことはない。

家の中にムカデが出た場合、私がムカデの退治役を勤める。ムカデは、
畳の縁に接して平行になったまま動かなくなったり、襖の桟に身を寄せて
平行になって動きを止めたりする。ちょっと見ではその広い意味での
擬態に惑わされるだろう。

上のことは、ムカデを和室で追いかけた経験がある人なら、
一度か二度かは体験しているはずである。が、先月、私はムカデ退治
15年目にして、初めてそして最後であろうムカデの擬態を見たのである。

それはこうだ。和室から妻のいつもの甲高い悲鳴が聞こえ、私の名を呼ぶ。
たぶんそのとき、ムカデは妻の声に反応して、進行方向を変えただろう。
それから、殺虫剤とキッチンバサミを持った私がその和室に現れたのである。

キッチンバサミ? と思う方もいらっしゃるだろうが、
このハサミは、先が特殊で、ムカデを完璧に挟むことができる機能を
持っている。このハサミで、食べ物を切る人は、私の家族にはいない
有名なハサミである。

私は黒光りするムカデをすぐに発見し、進路を予測し、ハサミでつかみ
やすいポジションを取る。ムカデは和室のうぐいす色の壁をそそくさと
登っている。たぶん杉の柱を越えて右側の隣の壁面に移動するだろうと
思った瞬間、ムカデは柱に挟まれた幅50センチ壁面の中央に
向かったのだ。

そして、その中央分で、輪になったのである。尻尾に頭を接続して、
直径3センチ位の見事な輪になったのである。

私を鳥、とムカデは思ったに違いない。なぜなら鳥が丸い目玉のような
模様を嫌うからである。私は300画素の携帯で写真を撮りたかった。
しかし、準備をする合間に逃がしてしまう。私はハサミでそのムカデを
捕獲し、屋外に出て、挟んだままのムカデに殺虫剤を吹き掛け、
草むらに捨てた。残念である。

もし今度、珍しい行動をする…立って逃げるムカデを見つけたら必ず
写真をアップしますから、待っていてくださいね。ではでは。

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