図書館でチェックしてきた最近のSFマガジンから。その2。

今年の世界SF大会は日本での開催ってことで、7月号と8月号はワールド
コン特集。だから投票の参考にしておくれ、ってことなのか、各部門の
ヒューゴー賞候補作品がいくつか掲載されておりまして。大会に参加す
るわけじゃないけど、とりあえず、7月号の分だけは読んできました。
そこから2作品ほど紹介。

○マイク・レズニック「きみのすべてを」(ノヴェレット部門)
http://www.baens-universe.com/articles/All_the_Things_You_Are

いきなりネタバレしてしまうと、「シャンブロウ」とか「恋人たち」の
系列(?)に属する作品。要は、異星の生物との色恋沙汰。つか、個人的
には、「愛しのヘレン」などのロボット系も含めて、「理想の女モノ」
と括りたい気もしますが。ピグマリオン、というべきか。

現実には存在しない「(それぞれにとっての)ものすごくイイ女」願望を
満たしつつ、でもそれだけじゃ照れるから最後はバッドエンド。てのが
パターンなのか。などといいつつ、自分も嫌いじゃなかったりするあた
りがなんとも。むろん、バッドエンド好き、ってことではなくて。

あ、でも、そういう意味では、ティプトリーにもそういう傾向の作品が
いくつかあったような(題名失念)。雰囲気まるで違うけど。やっぱ、男
のほうが欲望丸出しなのか、そもそも欲望の方向が違うのか。

○ティム・プラット「見果てぬ夢」(ショートストーリー部門)
http://www.asimovs.com/_issue_0704/Impossibledreams.shtml

解説では、いわゆる「魔法のお店」ものの一種、ということになっとり
まして、それは確かにそうなんだけど、物語的には、微妙にずれた並行
世界のあいだでのボーイ・ミーツ・ガール。

主人公の男女は2人とも映画好き、出会いの舞台はビデオ屋さん。って
ことで、クローネンバーグ監督の「トータル・リコール」とか、デビッ
ド・リンチ監督の「ジェダイの復讐」、キューブリック本人の監督によ
る「A.I.」、ハーラン・エリスン脚本の「われはロボット」など、あり
得たかもしれない名作(や駄作)が出てくるあたりは、映画ネタ版の「グ
リンプス」みたいな感じ。つか、いろいろあったんですねえ。

まあ、短い話だし、ハッピーエンドだし、SF臭も薄いので、「世にも奇
妙な物語」(作品中では「ミステリーゾーン」に言及)あたりでドラマ化
しても楽しそう。そしたらヒロインは誰がいいかな、とか。

ちなみに、ラストで男のほうが「美しい友情の始まり」云々という、映
画「カサブランカ」の有名なセリフを口にするんですけど、この
「beautiful friendship」は「腐れ縁」と訳すべきだ、という話があっ
たな。と思って検索したら、和田誠がキネマ旬報の連載で言い出したこ
とらしい。のですが、上記の作品の場合は、まだ恋が始まったばかりの
状態なので、さすがに「腐れ縁」というのは似合わない。ってことは、
ネイティブな感覚でも、あれは「美しい」で正解なのか、とか。原典の
場合は、ストーリーや映像との合わせ技で「腐れ縁」と解釈できるにし
ても。そこら辺は、和田式のストレートな(?)意訳が良いのか、それぞ
れの観客の判断に委ねるべきなのか、微妙なところ。いやしかし、そん
な風に考えると、上記の作品における男のセリフもまた、単純な喜びの
セリフではないのかも、と疑ってみたり。


なお、以上の両作品、というか、掲載作品はだいたい原文をネット上で
無料で読めるようになってるようです。これはたまたまなのか、それと
もヒューゴー賞候補だからなのか。どっちにしても、お得な話ではあり
ます(英語をすらすら読めるなら、ですが)。
# あの「たんぽぽ娘」も、原文は無料で読めるようだし。
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AMAUMA