PCI;ODAでの賄賂は、構造上の問題
2008年8月に入り、たびたび、ベトナム・ホーチミン市でのODA事業受注のため、大手建設コンサルタント会社「パシフィックコンサルタンツインター
ナショナル」(PCI)が支払った賄賂がニュースになっている。
PCIの担当者が、同市担当局長に賄賂として、受注額の10%程度、約3億円近くを支払ったと言う。
殆どのニュースでは、「国民の金なのですよ。PCIは、とんでもない。」と言うニュアンスで報道がなされている。
しかし、問題は、それほど、単純なものではない。かつてのシンガポールなどの特別な例を除いて、開発途上国と言うのは、全体が根っこから腐敗した世界な
のである。
例えば、開発途上国の政府職員は、正規の給与以外に、裏給与を求めることを当然としている。つまり、裏給与なしで生きていけない組織であり、人々なの
だ。
そして、大臣や次官、局長など、上になればなるほど、組織の部下に対して多額の裏報酬を流すことができなくては、自分の地位や将来の出世にも影響す
る。
特に、日本の援助での円借款(円ローン)は、手続き上、日本政府から相手国政府機関にローンが渡り、開発途上国政府職員が、コンサルタント企業を選抜す
る形である。
何ヶ月も、場合によっては、2−3年もの期間の営業期間を経て、PCIなどコンサルタント企業が、国際入札で勝ち抜くことが、企業の継続のため、ひいて
は、社員の生活のために必要なのである。
考えてみて欲しい。
貴方の下に組織があり、組織で働く人々の報酬が、開発途上国での仕事に依存しているとする。
そして、貴方が追い続けたコンサルティングプロジェクトが取れるかどうかの段階に来ているとき、開発途上国の政府の要人に、「なんとかしていただけれ
ば、我々も貴社をコンサルタントとして選んで、30億円の仕事を出せるのだが。特に貴社は、技術的にも実に優れた点があるので。」と頼まれるのであ
る。
資金ソースが、日本政府であっても、貴方の企業を選ぶのは、彼らなのである。
しかも、売上がなくては存在し得ない民間企業の経営者として、そのような要求を断ることができるだろうか。断れば、それまでの営業努力が、無に帰すこと
が分かっているのである。
従来から、私は、円借款のプロジェクトで、日本人を含めた外国人コンサルタントが、開発途上国政府に雇用される現在のやり方は、制度欠陥であると指摘し
てきた。
PCIの元社長は、TVで、賄賂を支払うことなく、仕事をすることはできないと言明していた。つまり、この問題は、構造的なものなのだ。
不正のないODAを実施するためには、借款の資金を提供する日本政府機関や国際機関が、コンサルタントを直接雇用すべきなのだ。そうすれば、少なくとも
今よりはるかにクリーンな手続きができるだろう。
芯の中まで腐敗した開発途上国政府を相手に、クリーンな営業は、不可能なのだ。それが嫌なら、私のようにクリーンな国際機関や我国の援助機関が資金提供
する小さな案件だけを、厳密に選択してODAに参加しなければならない。
しかし、大きなコンサルティング企業にとっては、そんなことでは充分な売上にならないことは、明らかである。
この問題は、監査法人が監査される企業から報酬を得て、不正を見逃す構図に似ている。監査法人は、監査法人の経営や会計士の生活のためには、不正を見逃
すことで、報酬を企業から得続けるという形になりがちだ。
企業の監査される財務報告資料は、皆過去の行動の結果であり、どうしても訂正できないものもある。数年間と言う契約関係の中で、顧客企業との関係を、自
らこじらせることを監査法人の担当会計士は、しにくいだろう。
この問題の解決には、顧客企業とは、全く別の機関、例えば、第三者としての株式市場の運営会社などに顧客の上場企業がフィーを提供し、その第三者が監査
法人を選び、上場企業に監査を受けさせる形を作れば、解決できるだろう。
もう一つの解決策は、不正金額の1,000倍以上を罰金として科すことである。つまり、不正を起こした企業は、即、確実に破綻するように罰金を設定する
ことである。
そのような構造上の問題を直さずして、誰々だけを責めれば、問題解決できるものではないのである。
倫理的行動が重要であることは、誰でも知っている。しかし、どんなに規定を定めようと外部からの監査を二重にしても、長期には、金の流れる方向が、圧倒
的な力を有するのが、経済の常なのだ。
さらに言えば、様々な倫理上の問題が起こることを望むグループがあることも我々国民は、理解しなくてはならない。彼らは、問題がある度に活躍する公的機
関である。
彼らは、金の流れを完全に変えたり、罰金を100億円にすると言うような抜本的解決よりも、問題が時々起こることを望む組織である。それにより自分たち
に存在理由があることを示すことが必要な人たちだ。
また、そんなことなら、もう我国のODAは、停止すれば良いとの考えもあるだろう。その通りだ。
しかし、先進諸国の中での外交上の発言力は、開発問題にどれだけ積極的に関わってきているかで、決まる面がある。戦争を放棄している我国、世界第2位の
経済大国、先進国の一つとして、量はともかく、何らかの形で、世界の調和ある発展のために、貢献すべきなのである。
抜本的な解決策について、国民も政治家も、深く考える必要があると思うのである。
Fnews-brouse 1.9(20180406) -- by Mizuno, MWE <mwe@ccsf.jp>
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