Re: Kamikaze Kaito Jeanne #40 (12/18)
佐々木@横浜市在住です。
# 「神風怪盗ジャンヌ」のアニメ版第40話から着想を得て
# 書き連ねられているヨタ話を妄想と呼んでいます。
# そういう2次創作物が嫌いじゃ無い方のみ、以下をどうぞ。
^L
★神風・愛の劇場 第175話『霧が晴れたら』(その13)
●桃栗町の外れ・何処か
オットーの部下達が使っている武器は、どれもみな実用性よりも趣味を優先した
代物ばかり。その所為か、どちらかと言うと派手で五月蝿い物が殆どでした。
ですから撃っている最中は他の音はあまり射手自身の耳には届かないのですが、
その音だけは違います。殆ど休み無く続く発射音に機械の唸りが重なり、独特の
騒音を発するソレはかなり離れた場所に居る戦士にすら振動を伴って伝わります。
「お、遂に無痛ガンのお出ましか」
音の届く範囲に居た者の殆どが、似た台詞を呟くか同様の感慨に耽ります。そして
それは、そろそろ宴も終りに近い事を彼等に告げてもいるのです。
*
期待は裏切られ、トキと稚空を阻む攻撃は全く止む気配がありません。しかし
ながら二人も黙って待っていた訳では無く、徐々にではありますが敵に向けて
前進していました。攻撃を障壁で受け、それを押し返しながらの遅々とした
歩みではありましたが。そうする内に、障壁が放つ光の向こうに敵の銃口から
発する閃光が確認出来る距離まで到達していました。そしてその閃光の背後に、
ぼんやりと照らし出される射手の影も見えつつありました。明らかにそれは
普通の人間の姿であったのです。
「嘘、だろ」
「どうやら相手は稚空さんの予想した戦闘機械では無い様で」
「いや、奴が生身だなんて信じないね」
腰だめで両手で支え、そして恐らく肩から吊っているのだろうとは思うものの、
どう見ても小学生くらいの子供にしか見えない小さな影。その人影が扱うには
あまりにも巨大な武器が目の前で火を噴いているのです。そこで稚空は思いつき
を確かめるべく、トキに提案します。
「押し返さなくとも、横へなら走れないか」
「やや後退しつつなら何とか」
「行ってくれ」
「ちゃんと着いて来てください」
「判ってる」
軽く頷き合い、即座に走り出す二人。既にここへ来て、この手の呼吸合わせが
随分とスムースになっていました。トキの展開する障壁の範囲を逸脱せず、ほぼ
敵からは二人が重なって見えるであろう位置関係を保って走る二人。全速力と
まではいかずとも、かなりの速度での移動でした。そして敵の攻撃はそれに
ピッタリと追い縋って来ています。
「駄目か」
「取り回しの自由は小さいと予想したのですね」
「だが軽々と振り回しやがる」
「左右だけかもしれません」
「だとしても今は」
トキが一瞬ニヤっと笑った様に稚空には思えました。直後。
「お待たせ!」
その声と同時に二人の斜め後ろの上空から、特大の光球が敵に向けて発せられ
ました。そして直後にはトキと稚空を襲う銃撃が止み、前方で光球が弾けた事に
因る閃光が発します。
「やったか!」
「未だです!」
咄嗟に構えて光球を発射すべく気の集中に入っているトキ。そして稚空もまた
彼の許を離れて迂回しながら敵の背後を目指します。その間、敵の使う武器が
発する音が全く途切れていない事に稚空は走りながら気付いていました。
光球を食らっても平気なのか?稚空の呟きは羽根を通して相棒に届いています。
“当ってねぇんだよ。手前で撃ち落された”
“何だって?”
“何だよあの武器、滅茶苦茶沢山弾が飛んで来る”
“何て奴だ。拳銃なみに振り回せるのか”
そしてトキと敵を結ぶ線を真横に見る事が出来る位置にまで回りこんだ稚空は、
彼の放った光球がアクセスの言った通りに途中で銃撃の雨に撃たれて敵の手前
で砕ける様を目の当たりにします。ですが稚空も何の参段も無く飛び出した
訳ではありません。彼の手には、途中で拾ったお宝が握られていました。
「三方向からなら、どうだ!」
恐らく指揮官クラスと思われる敵の足元から失敬してきたロケット砲。実物を
手にしたのは勿論初めてですが、アクション映画の小道具としてあまりにも
お馴染みなソレは素人でも容易に扱えてしまえるのでした。ただし本物のソレ
は思ったよりも反動があり、撃った直後に後ろにひっくり返ってしまったのが
稚空としては不満でした。
「クソっ、格好悪ぃ」
ですが攻撃としての効果は絶大でした。光球の様な大きな目標では無く、正面
から見ると実に小さな目標であるロケット弾。敵はそれにも機敏に反応しては
いましたが、撃ち落す為には光球を相手にするよりも長く自らの武器を向けて
いる必要があったのです。そして二人の天使はその機会を見逃さない程に、
充分な戦闘経験を積んでいました。呼吸を合わせたかの様に同時に放たれた
二発の光球が挟み込む様に敵を襲います。ロケット弾を撃ち落した敵が、
銃口を振り向けた時には、二発は既に撃ち落せる距離を越えていました。
混じり合い倍の威力を持って光球が着弾。一瞬の閃光に稚空は視界を奪われ
ますが、火薬と違って煙などは発生しない純粋な力による破壊は命中した
途端に消え去り全てを顕わにします。そして、そこには今は地面を抉った
浅い窪みがあるだけでした。
「吹き飛ばしちまったのか…」
ですが稚空は直ぐに気付きます。トキと、それに辛うじて視認出来る距離で
滞空しているアクセスが同じ方を見つめている事に。稚空もまた、その視線の
先を見て息を飲みました。今、目の前にまで迫った建物の二階部分。白い石の
柱で支えられて大きく張り出したバルコニーの上に、見下ろす様に立つ人物が
居りました。
「咄嗟に背後に飛び退いたのです」
トキが教えてくれた状況にも、稚空は声無く唸るだけでした。そんな三対一の
睨み合いは、しかし長続きはしません。敵は再び、その巨大な武器を振り回し
かけて急に止め、代わりに何かをばら撒いてからバルコニーを飛び降りました。
直後、何の前触れも無く轟音と閃光が聴覚と視覚を奪います。咄嗟に腕を
かざして目を守った稚空が、キンキンと響く耳鳴りに耐えながら周囲を見回した
時には、今度こそ敵の姿は完全に消えていました。
「あんな奴も居るのか…」
最後にハッキリと見た敵の姿、どう見ても人間の少女だった敵の去り際の横顔が
稚空の脳裏に残っていました。
そんな稚空が我に返ったのは、その肩にポンと手が添えられたからでした。
後ろを振り向くとトキとアクセスが居て、何かを話している様に口だけは動いて
いるのですが声が聞こえません。
「何?」
「 」
「え?」
不毛なやり取りが暫く続いた後、やっと稚空は自分の耳が一時的に麻痺していた
事を悟ります。それもやがて、少しずつ回復していくとトキの言葉のニュアンス
がそれまで聞こえなかった部分を補っていました。
「大丈夫だ」
「本当に?」
「ああ、もう戻った」
「敵は去りました」
「あいつらは、だろ」
「ええ」
今、三人の目の前には周囲の景色からすると異質で唐突な存在がありました。
石と煉瓦で作られた建物はずっと横に広がっていて、二階部分も端から端まで
バルコニーが繋がっています。窓の様子からすると三階がある様でしたが、三階
にはバルコニーはありません。正面からは見えませんが、奥行きもそれなりに
ありそうに思われました。そして三人の正面、最後の敵が陣取っていた場所の
背後には両開きの重そうな扉が付いています。三人は顔を見合わせ、真っ直ぐ
その扉へと向かいました。稚空は一瞬考え、ドアノッカーに伸ばしかけた手を
引っ込めます。
「今更、だよな」
「開かなきゃブチ破ってやるぜ」
トキが黙って肩をすくめたので、稚空が再び手を伸ばします。今度は取っ手を
掴むと思い切って力を込めました。押すか引くかで迷い、ええぃっとばかりに
押した扉は稚空に恥をかかせる事なくすんなりと内側へと開きます。再び三人は
顔を見合わせますが、真っ先に入ろうとした稚空をトキが制しました。稚空は
何も言わずに先を譲り、ですが間を置かずにトキに続きます。アクセスが背後を
見回し、最後に扉の中へと滑り込みます。アクセスが手を離すと、扉は自然に
閉じましたが音は殆ど発しなかった為に三人がそれと気付く事はありません。
もっとも大きな音を立てて閉じたとしても、三人は気を取られる事は無かった
でしょう。何故なら扉の中、玄関ホールに当たる広々とした空間には出迎えが
居たのですから。
「こんばんは。皆さん」
その日二度目となる人物との再会。黒と白の姿がちょこんと頭を下げました。
双方の間にはかなり距離があるのですが、大声でなくとも声が通ります。
「主人とお約束がおありですか?」
意味を咀嚼するのに少し間が必要でしたが、稚空が応えます。
「無い」
「では、お取次ぎいたしかねます」
「結構だ。主人とやらには用は無いからな」
「では…」
屈託無い笑顔を見せるエリス。
「私をお訪ねくださったのでしょうか」
「それはまた今度な」
「そうですか。残念ですね」
「稚空さん」
トキがすっと稚空の前に回り込んで二人の間に割って入ります。
「彼女のペースに乗らないでください」
「悪ぃ」
「私達は貴女と遊びに来たわけではありませんが、必要なら相手になります」
「そうですか。私の方はお相手する気が無いのですが」
「では勝手に通らせていただきます」
「出来るのでしたら、どうぞ」
ホール全体の空気が一瞬で固体にでもなった様に、身体の周囲に何かが覆い
被さる様な感覚が三人を襲います。トキとアクセスは即座に障壁を展開。その
障壁の向こう側では、全く別の幕の様な物が三人とエリスの間に広がっていき
ます。直立して全く身動きしていないエリスの姿が揺れ、間にある幕の表面から
別の姿が始めは薄くやがてハッキリと浮かんで来ました。間もなくその姿は完全
に実体を持ち、新たな存在を三人に主張します。透き通る様に白い肌を、やや
青みを帯びた白のドレスで包んだ姿は信じられない程に美しく、その美しさ故に
人の姿でありながら人間では無い事を如実に示していました。内側から光を
発しているかの様な艶のある銀色の髪がさらさらと肩から流れ、金色の瞳が
三人を瞬きひとつせずに見つめます。
「出やがった」
声にこそ出しませんが、稚空の呟きは三人に共通の思いでもあったのです。
(第175話・つづく)
# ラスボス登場(笑)
では、また。
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■■■■■■ 佐々木 英朗 ■■■■■■■ 可愛いんだから
■■■■ hidero@po.iijnet.or.jp ■■■■ いいじゃないか
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