Path: ccsf.homeunix.org!CALA-MUZIK!newsfeed.media.kyoto-u.ac.jp!news.media.kyoto-u.ac.jp!not-for-mail From: =?ISO-2022-JP?B?GyRCOjQhOUxaGyhCIBskQjFRTy8bKEI=?= Newsgroups: japan.anime.pretty,fj.rec.animation Subject: Re: Kamikaze Kaito Jeanne #40 (12/18) Date: Sun, 4 Feb 2007 08:35:36 +0000 (UTC) Organization: Public NNTP Service, Kyoto University, JAPAN Lines: 304 Sender: hidero@po.iijnet.or.jp Message-ID: References: NNTP-Posting-Host: u049093.ppp.dion.ne.jp Mime-Version: 1.0 Content-Type: text/plain; charset=ISO-2022-JP Content-Transfer-Encoding: 7bit X-Trace: caraway.media.kyoto-u.ac.jp 1170578136 8196 218.222.49.93 (4 Feb 2007 08:35:36 GMT) X-Complaints-To: news@news.media.kyoto-u.ac.jp NNTP-Posting-Date: Sun, 4 Feb 2007 08:35:36 +0000 (UTC) X-Newsreader: Sylpheed version 1.0.4 (GTK+ 1.2.10; i386-unknown-freebsd4.11) Xref: ccsf.homeunix.org japan.anime.pretty:13057 fj.rec.animation:7837 佐々木@横浜市在住です。 # 「神風怪盗ジャンヌ」のアニメ版第40話から着想を得て # 書き連ねられているヨタ話を妄想と呼んでいます。 # そういう2次創作物が嫌いじゃ無い方のみ、以下をどうぞ。 ★神風・愛の劇場 第175話『霧が晴れたら』(その11) ●魔界・王宮 ある日。特にこれと言った行事の予定が無い日の常として、王宮は静かであり 大きな物音がする事はありません。ですが全く何の音もしないかといえばそう では無く、時折は無限に続くかに見える程に長い廊下の曲がり角や回廊の柱の陰 や庭園の片隅から声が聞こえてきています。時に囁く様に、時に囀る様に。 それらの声にただ一つ共通点があるとすれば、全て女性の声。それも殆どは 瑞々しい若い女性の声であるという事でした。そんな王宮の表側、魔界の政務 が行われる場を結ぶ吹きさらしの柱廊の一画を掃き清めている者が二人。長袖の 黒いドレスと白い前掛け姿は、王宮の中では良く見かける存在でありました。 「あ〜、もうキリが無いわ」 「何が」 「葉っぱ、落ち葉よ。何で毎日毎日落ちてくるわけ?」 「そりゃ、生きてるからでしょ。私らの髪が抜けるのとかと同じ」 「ただの飾りなんだからさぁ、魔王様も葉が落ちない庭木とか作れば良いのに」 「魔王様だと、逆に毎日葉っぱが全部入れ替わる木とか作りそうだな」 「それ、嫌がらせだから」 「そうかな。そしたらそれで、毎日落ち葉全部集めて煮炊きにでも使えば良い だけじゃない?」 「あんたさぁ、何時も不思議なんだけど」 「ん?」 「物凄〜く面倒くさがりっぽいのに、何で掃除とか好きなわけ?」 「いや別に好きってわけじゃ無いけど、私は此処ではこうする役目だから」 「確かにあんたにとっちゃ自分の家同然でしょうけど」 「あれれ、みんなはそう思ってないのかな。一緒に住んでるのに」 「そりゃ住んでるけど、それは魔王様のお世話と王宮を清浄に保つ仕事がある から住み込んでいるだけで、別に自分の家とは思わないわよ」 「やっぱりみんなはそうなのか」 「あんたは特別よ、エリス。生まれた時から住んでるでしょ」 「まぁ、ね」 侍女として王宮に入ってからの年月で言えば別にエリスが一番の古株という訳 ではありませんでした。ですが流石に、子供の時から王宮に居る者は他には 居らず、その所為か時折エリスは他の侍女が驚く様な言動を見せる事があり ました。彼女との付き合いが長い侍女は驚きはしませんが、侍女職にある者の 幾ばくかは行儀見習いを兼ねた魔界の貴族氏族豪族の子女であり、定期的に 入れ替わっている為にエリスに驚かされる者は後を絶ちません。そして…。 「あ」 突然何かに気付いた様子で振り向いたエリスの視線を追う同僚の侍女。柱廊の 遥か先で交差する別の柱廊をゆっくりと横切っている、ほっそりした女性の姿を 見て彼女は身を硬くします。 「ど、どうしよう。こちらにいらしたら」 彼女が怯えた目を向けた先では、エリスが笑顔で手をぶんぶん振っていました。 「ごぶさたしてまぁ〜すっ」 「うわバカっ、何で御呼び止めしちゃうのよ!」 しかし彼女の心配は杞憂に終り、その姿はエリスの声に何の反応も見せずに そのまま柱廊の角を曲がり、二人から遠ざかる方へと歩いていってしまいます。 ですが“はぁ”と溜息をついて安堵したのも束の間。折角離れていった脅威へ 向かって、エリスは猛然と走り出していたのです。 「あっ、ちょっと待ちなさっ」 呼び止める暇も無く向かっていくエリスを止める手は一つしか無いと判断し、 彼女も後を追いました。もっとも彼女は続いて起きた出来事に目を丸くして しまい結局は立ち尽くして離れて見ているだけだったのですが。 「ミ・ス・ト・さ・まぁ〜、逃げなくても良いじゃないですか〜」 そう言いながら殆どの侍女たちのみならず同族ですら用が無ければ傍には寄らない と言われる正統悪魔族ミストに向かって、エリスは親しげに近寄っていったのです。 きっと無視されるかお叱りを受けるだろうと同僚の侍女が見ている前で、しかし ミストは不愉快そうな表情ではあったものの立ち止まって振り向いていました。 「馬鹿者が。私にべたべた寄ってくるなと何度言わせる」 「良いじゃないですか。昔みたいに遊んでくださいよ」 「私はお前と遊んだ事など一度もない」 「またまた、照れちゃって」 ミストの片方の眉がヒクヒクと痙攣しますが、エリスは気付いても全く気には しません。後ろ手に持った箒を左右にぶらぶら振りながら話している為、遠目 には犬が尻尾を振っている様に見えなくもありませんでした。 「それで、今日はどんな御用ですか」 「お前に話す必要など無い」 「内容はどうでも良いんです。すぐ済みますか?長い話でしょうか?」 「長くはなるまい。近々、人間界に行く事になる。恐らくその話であろうな」 「では帰りに庭園に御越しください。お茶を用意しておきます」 「要らぬ。用が済み次第、館へ引き上げる」 「人間界へお出かけでしたら、こちらのお茶も暫く飲めませんよ」 「茶ぐらい、我が館にもある」 「私がいれたお茶はここでしか飲めないでしょ」 「お前がいれる茶と我が館の茶に違いなどあるまい」 「違いますって」 「何が違う」 エリスはウィンクして一言。 「愛情がいっぱい」 「死ね」 ミストがさっと手を振り追い払う様な仕草をすると、二人の間に青炎の気が 壁を作ります。そしてその炎に絡みつかれながら、エリスは回廊の柱を数本 圧し折りながら吹き飛ばされていました。血の気の失せた顔で、それでも 再び去っていくミストに何とか一礼する事だけは出来た同僚の侍女。彼女が 仲間の死体を見る覚悟を決めてから恐る恐る近づくと同時に、がらがらと柱の 破片の下からエリスが這い出て来ました。一瞬絶句したものの、同僚がエリスに 呼びかけます。 「…生きてる?」 「うん、生きてるけど。何で?」 「何でって、今のミスト様、よね?」 「そうだよ」 「そうだよって…あんた何やったのよ?」 「お茶に誘った」 「………はぁ?」 「暫く留守にされるそうだから、お別れ会しないとね」 のっそり立ち上がったエリスを何か奇妙なモノでも見る様な目で見る同僚の 侍女に、屈託の無い笑顔で応えるエリス。それからしみじみと自分の姿を 見下ろします。炎に包まれ瓦礫に埋まった所為で、侍女の服はボロボロに なっており、お世辞にも服を着ていると言える状態ではありませんでした。 「ごめん、着替えてお茶の支度しないと。掃除の続き、任せた」 そう捨て台詞を残して、エリスは柱廊をひたひたと走って行ってしまいます。 やがて、少し落ち着きを取り戻した侍女がぽつりと呟きました。 「ちょっと、この瓦礫、私が片付けるの…」 瓦礫の間を、エリスが身に付けていた服の成れの果ての灰が風に吹かれて 舞っていました。 * その庭園は王宮の表を構成する建物に隣接していながら、巧みな植樹によって どの方角を見ても建物が見えない様になっていました。もっとも、仮にそうは なっておらずともとてつもなく広い為に中ほどまで足を延ばすだけで建物すら 遠景にしか見えなくなるのですが。そんな広い庭園の中にあって、比較的王宮に 近い領域にある芝生(に似た草が繁茂する辺り)に唐突にデンと鎮座している テーブルと椅子二客。同じ様に周りに何も無い場所にぽつんと置かれたテーブルは 数多くあり、全てが魔王の気まぐれで“その場で”作成され、そして殆どは一度 使っただけで魔王の記憶からは消え去った代物です。ですが以来ずっと、侍女達は その全てを王宮の建物と同じく大切に維持していました。その様な訳で、存在は 唐突ながら見た目は年を経て渋く景色に溶け込んでいます。今、そのテーブルの 上にはティーカップ一客、ティーポット一つ、そしてテーブルの脇の地面には土で 出来た円筒形の物があり、その上でヤカンがしゅぅしゅぅと湯気を上げています。 やがて、サクっと草を踏む足音が一つだけ聞こえたかと思うと忽然と人影が現れ ました。 「いらっしゃいませ。今すぐお茶をいれますね」 ミストは無言でエリスが引いた椅子に腰を下ろし、それから訝しげな視線を テーブルの向こう側に見える物体に注ぎます。 「何だソレは」 「シチリンって言うんです。炭を使う携帯かまどですよ」 「厨房で湯を沸かせばよかろう」 「ミスト様が歩いてお出でなら、お姿を見かけてから湯を持参できますが、 どうせ今の様に突然いらっしゃるでしょうから此処で沸かしてないと」 「沸かし直しくらい魔術で出来んのか」 エリスはちょっと口を尖らせて応えます。 「私にそういう生成系の術が使えないのは御存知でしょ」 「あぁそうだったな、ついでに出来る事も大雑把であった」 「それは否定しませんけど」 話しながらも、エリスはてきぱきと茶の準備を進めています。 「それで、お話とはやはり」 「まぁな」 そして突然、ミストはテーブルの上をバンっと手のひらで叩きます。 「つまらない話だったんですか?」 「つまらんともさ。私一人で充分なものを、連れが居るのだ、それも人族!」 「へぇ〜。ミスト様のお相手が務まる人間ですか」 「役になど立つものか。単なる足手まといだ。全く、魔王様の気まぐれには 付き合いきれん」 「誰なんです、お連れの方は」 「忘れた。覚えたくも思い出したくも無いが魔王様の御傍でチョロチョロ しとる奴だ」 「もしかしてノイン様の事ですか?」 「そんな名だったかもな」 「成る程。それなら何となく判ります」 「何がだ。おまえ、奴を知っているのか」 「ええ、まぁ。仕事柄、魔王様のお近くだけでなく魔界の主要な方々の事は 一通り。それにノイン様とは御縁も少しばかり」 「ふん」 「知りたいですか?」 「別に」 「実は妹がノイン様と親しかったのですよ」 「私は知りたいなどとは言わなんだぞ」 「勝手にしゃべっているだけですから、お気になさらず。そのつながりで何度 かノイン様のお屋敷に遊びに行ったりとか。まぁ確かに魔王様のお近くでも 良く会いますが」 「それは丁度良い。奴には人間界ではおまえの妹探しでもさせてやろう」 エリスの表情が少し曇り、目が伏せがちになります。それでも手は休まず 香気の上るティーカップをミストの前にすっと差し出しました。 「本当に。出来たらお願いしたいくらいです」 さも嬉しそうに口の端がつり上がるミスト。 「死んでいたら骨は私が拾って来てやろう」 んべ〜、と舌を出してエリスは抗議しますが、ミストは全く無視してカップに 口を付けていました。そしてボソっと呟きます。 「妹など居らん方が良い」 「何故、そう思われるのです?」 「面倒だ。色々と」 「何故色々と面倒なんですか。何も考えず無視すれば面倒も無いでしょ? 気になるから面倒に感じるんですよね」 「黙れ」 「ミスト様の妹君は今はどちらに?」 「知った事か」 「でも御存知なんですよね」 「どこぞかの馬の骨の後を着いて回っているのだとさ」 「どんな馬の骨です?」 「よりにもよって、これまた人族だ。クソ忌々しい」 「判りました」 「何が判ったというのだ」 「ミスト様の留守中は、不肖わたくしが妹君の様子を見ています。ですから ご安心を」 「下らん事を言うな」 「それが言いたくて、わざわざ私をお訪ねくださったんでしょ?」 「たわけめ。私は最初から此処には来ておらん。忘れろ」 チンッ 鋭い音がしてティーカップが斜めに真っ二つになり対の皿の上に転がります。 そして同時にミストはその姿を来た時と同様に忽然と消していました。残された カップを拾い上げるエリス。 「あ〜ぁ、割と古くて良いモノだったのに」 割れた欠片をあてがいながら、何とかくっつかないかと頭をひねるのでした。 ●桃栗町の外れ・何処か エリスの話を大人しく聞いていたユキは、彼女の沈黙が話の終りを意味している と悟ると同時に溜息をつきました。 「やっぱり、姉さんは私が嫌いだったのね」 「違いますってば」 「何が違うのよ。私の事が面倒だったんでしょ」 「バカですね」 「どうせ私は馬鹿よっ!」 はぁ、と今度はエリスが溜息。 「いいですかユキ様。ユキ様は人間、つまりミカサ様の手伝いをする事になった とミスト様に言った事がありますか?」 「無いわ、そんな事言える訳無いじゃない」 「でもミスト様は御存知でした。その意味が判りませんか」 「…」 「何時も遠くからであっても、ユキ様の様子を見ていたからですよ」 「何で、そんな事…」 「心配だからに決まってるでしょ」 どういう意味での心配かまでは判らないけどね、と付け足さなくて良かったと ユキの瞳がうるうるし始めたのを見たエリスは思いました。そして代わりに、 エリスはユキの頭をぽふぽふと叩きます。 「どんな種族でも、お姉ちゃんってのはそういうモノなんですよ」 「…うん」 再び顔を伏せてしまったユキの為に、しばらくそのままにしておこうと思う エリス。ですがその時間は、あまり長くは続きませんでした。 ずもも〜ん 二人の耳に、今ハッキリと屋敷の外で起こった爆音が届いていました。 「どうやら、お仕事の時間の様ですね」 「…ええ」 目元を手で拭ってから、ユキが少し恥ずかしそうな顔で囁きます。 「内緒よ」 「判ってます」 そして二人はそろって、眼下の玄関ホールを見下ろしました。 今すぐにもそこに、敵が現れるとでも言うかの様に。 (第175話・つづく) # 昔話だけで1エピソード書けそう。^^; では、また。 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ ■■■■■■ 佐々木 英朗 ■■■■■■■ 可愛いんだから ■■■■ hidero@po.iijnet.or.jp ■■■■ いいじゃないか ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■