Re: Kamikaze Kaito Jeanne #40 (12/18)
佐々木@横浜市在住です。
# 「神風怪盗ジャンヌ」のアニメ版第40話から着想を得て
# 書き連ねられているヨタ話を妄想と呼んでいます。
# そういう2次創作物が嫌いじゃ無い方のみ、以下をどうぞ。
^L
★神風・愛の劇場 第175話『霧が晴れたら』(その5)
●オルレアン
稚空が素直に関心してテーブルの上を見、トキが油断無くエリスを監視し、
セルシアがトキとテーブルとエリスの三方に対して順に何度も視線を巡らせて
いたのはほんの数秒の間のみ。声の調子から自分に向けられたのだと察した
稚空が、最初に沈黙を破ったエリスの方を振り向きます。
「では、私はこれで失礼します」
「何だ、食っていかないのか」
「折角のお誘いですが、今宵は遠慮しておきます。良く考えてみると私の
住処でも支度がしてあるはずですので」
「連絡すりゃいいだろ」
「それに」
悪戯を思いついた子供の様な、ニンマリという表現が似合う笑みでテーブルを
囲む面々を見回すエリス。
「私が居ますと座の空気が悪い様ですので」
「そうか」
確かに、と思う稚空。打ち解ける必要は無いまでも、せめて一緒にメシが食える
くらいに緊張を解す手は無いものかと漠然と考えていたところでもあったのです。
エリスは深々とお辞儀をするとリビングを後にしました。そして履物に足を
通しながら、背後に見送りに来ていた稚空に尋ねます。
「そうだ。こんな格好のままですみませんが、ひとつ教えてください」
「ん?」
「普段、買い物は何処でされていますか」
「買う物によって違うぞ」
肩越しに振り返り、またあの悪戯っぽい笑みを見せるエリス。
「そうですね。玉子を切らしていたのを思い出したものですから」
「なら商店街のスーパーだな。まだこの時間なら開いているはずだ」
「どの辺りでしょう。あまりこの土地には明るくなくて」
「待ってろ」
そう言った稚空が一旦玄関先から立ち去り、次に戻った時にはエリスは履物を
履き終えて待っていました。そんな彼女に一枚の紙を渡します。
「スーパーの折込広告なんだが」
雑誌ほどの大きさに折りたたまれたままの広告の片隅を指差す稚空。そこには
極く簡略化された地図が載せられていました。
「これじゃ大雑把過ぎて判らないか」
「いえ、大丈夫です」
エリスは地図の上の一箇所を指差しました。稚空はその手を見つめます。
キッチンでも思った事ですが、あの馬鹿力が何処から出るのかと思わせる、
小さな手と細い指が紙の上に触れています。
「このタワーとやらは知っていますので」
「そうか」
そして再び背中を向けて玄関の扉に手をかけたエリスを稚空が呼び止めます。
「地図、千切って持っていっていいぞ」
「ありがとうございます。ですが頭に入りましたので」
「へぇ〜」
「では御機嫌よう。これでもうお会いする事は無いでしょうけれど」
「また来ればいいさ」
エリスはこれには応えず、笑顔で一礼すると扉の向こうに姿を消しました。
ぼんやりと、と言えるくらいの惚けた様子で突っ立っていた稚空を振り
向かせたのはトキの声でした。
「稚空さん、何か問題でも」
「ん、あ、いや帰ったぜ」
「その様で」
一応、扉には鍵を掛けてからリビングに戻った二人をセルシアが子犬の目をして
待っていました。
「ご飯…」
「はいよ」
セルシアに真っ先にシチューを取り分けてやり、続いてトキと自分の分も同じく
深めの皿に取る稚空。既に食べ始めているセルシアをちらりと見てから、トキは
稚空に話しかけます。自分の分の夕食を受け取る事はしたものの、トキは未だ手を
付けてはいませんでした。
「結局、彼女の来訪目的がよく判りませんでしたが」
「多分、自分で言った通りだったんだろ」
「挨拶に来たと、そう言ったのでしたね」
「ああ」
「最後には何と」
「ごきげんようだってさ」
「そうですか」
セルシアが御代わりと言い出す前に少しは食べておこうと、稚空がそそくさと
シチューを口に運び始め、トキは再び訝しむ様に眺めた後で少なめの一口目を
スプーンですくいます。ですが直ぐに何時もの様に、食が進み始める三人。
そうしてすっかり関心が目の前の料理に向いていた最中、ベランダ側から
発せられた声は三人を飛び上がらせました。
「酷ぇ、もう食ってやがる!」
稚空とトキが顔を上げ、セルシアが皿とスプーンを持ったまま振り向けば、そこ
には明らかに腹を立てている表情のアクセスが立っていました。彼が開け放った
ままにした窓から、寒風が三人を包みます。まるで朝の目覚めの様な気分が
三人の中に広がっていきました。
「失礼。ついうっかり」
「怒るなよ、アクセスの分だってちゃんとあるから」
「そういう問題じゃ無いんだよ、心の問題だよ仲間を待つってのは」
もう既に食べる方に戻ったセルシアが、遅ればせながら付け加えます。
「ほひひひへふへふ」
「ああ、そうかよ旨いかよ」
ふてくされて勢い良く座り込んだアクセス。ですが稚空が彼の分の皿を差し出す
と、すぐに猛然と食べ始めていました。やがて二度ほど御代わりをした後、
やっと落ち着いたのかアクセスが話を切り出します。ちなみにセルシアは六杯目
を間もなく空にしようとしていました。
「で、何かあったのかよトキ」
「は?」
「は、じゃなくてさ。急いで戻れって言うから飛んで来たのに」
「何時も飛んでるだろ」
「茶化すなよ稚空」
「そうでした。実は」
トキがかいつまんで事情を話し、時折稚空が補足していきました。
「ふ〜ん。それって、トキが手こずったって奴だろ」
「ええ、まぁ」
「で、ごきげんようって言って帰ったのか」
「そうだ」
「それだけ?」
「それだけだ…」
そこで考え込んだ稚空にトキとアクセスの視線が集まります。一方でセルシアの
視線は鍋の中を見ていました。まだ鍋の半分くらいは残っているシチューを見て、
幸せが品切れになっていない事に安堵するセルシア。その脇では無言の稚空を
呼び起こす様に、トキが水を向けます。
「稚空さん、何か」
「そういや違う事も言ってたな、と思ってさ」
「何と?」
「もう会わないだろう、とか何とか」
「つまり別れの挨拶だったという事ですか」
「そうなるかな」
「何だそりゃ」
すぐに興味を失ったアクセスがテーブルを見ると、セルシアが自分で七杯目を
よそっていました。それが終わるのを待って、お玉を受け取るアクセス。
トキと稚空はじっと互いを見つめていましたが、やがてほぼ同時に呟きます。
「変じゃないか」
「それは妙です」
言ってから、改めて考えをまとめる二人。先に言葉になったのは稚空の方です。
「何で別れなんだ、どうせ戦いになれば出てくるくせに」
「その通りです。これまでの戦いでも、彼女は重要な役を果たしていたと
考えられます。それなのに、もう会う事が無いなどとは」
「どういう事だ」
「素直に考えれば、我々の側の動きを察して撤退を決めたとも思われますが」
「そりゃ結構だ。魔界に帰っちまえ」
「しかし昼の」
ミナの様子は戦いの決意に見えたが、という部分は言葉にせず黙考するトキ。
「逆に大規模な攻勢の前触れかもしれません。まろんさんとも話し合わねば」
「ところがこんな時に出かけてるんだよ」
「何処へ!?」
「“彼女”の家。まったく、俺というものがありながら」
「一人で行かせたのですか」
「待っていてくれって言われちゃ仕方ないだろ」
「それは何時の事です」
「トキ達が出かけた少し後かな」
「かなり時間が経っていますが、連絡は」
「そういや無いな…」
「…」
流石に漂う空気から状況を察したのか、アクセスとセルシアも手を止めて二人の
方を見ていました。
「セルシア、行って見て来てください」
「私が?」
「女性の家なので我々が覗かない方が良いでしょう。何事も無ければ
それで良いのです。夕食は残しておきます」
最後の一言を聞くと、セルシアは大人しく皿とスプーンを置いてぱたぱたと
ベランダへ走り出て行きました。その間にも、稚空は電話で連絡を取る事を試み
ます。結局、まろんとツグミのどちらも電話に出る事はありませんでしたが。
*
待っている方にとっては、大変長い時間。しかし実際には数分後、トキとアクセス
が弾ける様に立ち上がりました。稚空にもそれで十分、事態が深刻だと伝わります。
「まろんさんが行方不明です」
「何っ!」
「一応確認ですが、まろんさんが瀬川ツグミ嬢と何処かへ出掛ける可能性は」
「判らん。絶対無いとは言えないが、さっきの様子だとツグミの家に居ない
はずは無いと思う。彼女も居ないのか」
「ええ。家は無人、最近天使が来ていた気配がある様です」
「昼間の」
「そこまでは。既に微かにしか感じは残っていないと」
「やられた、のか」
「戦いの形跡は無いそうですが、微妙に部屋が散かっているとか。方法は不明
ですが、敵の手に落ちていると考えるべきでしょう」
「どうする」
「敵はまろんさんを魔界へ連れ去る気かもしれません。一刻も早く救わねば」
「だが何処に連れて行かれたんだ」
「判りません。こんな事なら、もっと敵陣の位置を早く正確に特定しておく
べきでした」
それまで黙って聞いていたアクセスがぽつりと漏らします。
「夕方来たっていう女は知ってたって事か」
「しまった」
「そうか」
また同時に声を上げたトキと稚空、ですが気付いた内容は違っていました。
「我々は妙に和みすぎていました。彼女に一杯食わされたのかも」
「確かに食ったな。何杯も」
アクセスの茶々は軽く二人に無視されます。
「そうじゃ無い、玉子だ」
「は?」
「玉子を買って帰ると言っていた。追えば間に合うはずだ」
「しかし嘘という可能性も」
「なら最初から“もう会わないだろう”なんて言わないぜ。これは俺の勘だけど
な、あいつは秘密にする事はあっても嘘は言わない気がする」
「それは…」
トキは自分なりに考えてみました。自分が感じた敵、エリスの性格を。
「完全に同意するものではありませんが、稚空さんの考えに従います」
「スーパーだ、そこへ寄っているはず」
「判った」
そう言って飛び出したのはアクセス。稚空の買い物に付き合って何度も行っている
彼には勝手知った場所でした。トキもその後を追い、そして飛べない事をもどかしく
思いながら稚空も玄関を経て追っていったのです。
(第175話・つづく)
# やっと話が動き出したかも。^^;
では、また。
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■■■■■■ 佐々木 英朗 ■■■■■■■ 可愛いんだから
■■■■ hidero@po.iijnet.or.jp ■■■■ いいじゃないか
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Fnews-brouse 1.9(20180406) -- by Mizuno, MWE <mwe@ccsf.jp>
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