Re: Kamikaze Kaito Jeanne #40 (12/18)
佐々木@横浜市在住です。
# 「神風怪盗ジャンヌ」のアニメ版第40話から着想を得て
# 書き連ねられているヨタ話を妄想と呼んでいます。
# そういう2次創作物が嫌いじゃ無い方のみ、以下をどうぞ。
^L
★神風・愛の劇場 第175話『霧が晴れたら』(その3)
●オルレアン
招かれざる客と断じたものかどうか微妙に迷う相手をリビングへと通した稚空。
適当に座るようにと言われたエリスは部屋を少し見回し、それからソファーの
一番の端、玄関に一番近い場所に腰を下ろしました。
「何か飲むか。コーヒーとか」
「はい、頂きます」
稚空は軽く頷きキッチンへ入ります。まず最初にポットのお湯の量を確認し、
やはり湯を沸かしなおそうとケトルに水を少なめに入れて火に掛け、どうせ
沸かしなおすならと一度手にしたインスタントコーヒーの容器を戻して紙の
フィルタと機械挽きの豆の入った缶を取り出します。数分後、カップに注いだ
コーヒーを両手に持ってリビングに戻った稚空。最後に見た時と全く同じ姿勢
に見えるエリスの前に片方を置き、向かい側に腰を下ろしながら自分のカップに
口を付けました。そして“まぁまぁか”と判断してから肝心の客の反応を見よう
と視線を上げました。エリスは腿の上に両手を重ねたままの姿勢で、カップから
上る湯気をじっと見下ろしています。
「毒なんか入ってないぞ。何なら取り替えるか」
そう言って、既に口を付けている自分の方のカップを差し出します。エリスは
ハッと顔を上げ、ゆっくりと首を左右に振りました。
「すみません。疑ったわけでは無いのですが、変な感じがして」
「ん?」
「落ち着かないものですね、普段は飲み物を勧める方ばかりですので」
「そうか…」
エリスはそれからカップを手にし、もう片方の手を底にそえてから音も無く
コーヒーを飲みました。冷ます為に軽く“ふぅふぅ”と息を吹きかける音も、
少しずつ飲もうとする為に空気が震える“ずず〜っ”という音も無い事には
気づかなかった稚空。何故なら別な事を考えていたからなのでした。
「単に趣味で着ている訳じゃ無かったんだな」
「は?」
「その服だよ。やっぱりメイドやってるって事なのか」
「ええ、一応」
「そうか」
そこでエリスは一瞬だけ天井の片隅を見るように視線を斜め上に向け、それから
すぐに稚空に視線を戻して尋ねます。
「今、趣味で着るとか」
「ああ。そういう服をな、別にメイドでも何でもなくて好きで着る連中が
たまに居るんだよ」
「はぁ…」
「そっち、つまり魔界には居ないんだろうな、やっぱり」
「それはそうです」
「だろうなぁ」
「これは制服みたいな物ですから、私たち侍女の。ですからそうで無い者が
着る事はありません」
「その制服ってところがまたミソ、なんだけどな」
「ちなみに」
「何だ」
「趣味でこういう服をめされるのは女性でしょうね」
稚空は少しの間、微動だにせずに居ました。やがて言いづらそうに答えます。
「…たまに、そうじゃない場合もある」
「殿方の事もある、と」
「まぁな…」
エリスは何とも奇妙そうな不愉快そうな表情を見せ、それを見た稚空はやはり
本職としては気持ちが悪いのだろうかと考えます。実際にはその時のエリスの
脳裏にはメイド服を着て満面の笑みを浮かべるノインの姿が浮かんでいたのです
が、流石に稚空にはそこまでの想像は出来てはいませんでした。そして慌てて
付け加えます。
「俺はそんな趣味は無いからな」
きょとんとした表情をし、それからクスっと笑顔を見せるエリス。
「そうでしょうね。普通に女性がお好きな様でしたし」
「女なら誰でもって訳じゃないぞ」
「今は神の御子…まろん様ですか」
「ああ、そうさ」
勢いで言ってから、何故か乗せられた様な気がして急に恥ずかしくなる稚空。
内心慌てつつ、しかしなるべく自然に聞こえる様にと声の調子を落としながら
話題を変えていきます。
「そんな話をしに来たんじゃないだろ、用は何だ」
「最初に申し上げた通り、単なるご挨拶です」
「本当だとしても、何の挨拶とかってのがあるだろ」
「そう、ですね…お別れの挨拶でしょうか」
「別れ?」
「ええ。こんな風にゆっくりお話出来る事は、この先無いでしょうから」
「そうか」
結局、昼間来た天使と同じ用だったのかと稚空は考えます。そして魔界の
連中は妙なところが律儀だな、とも。そんな稚空の感慨をエリスの言葉が
遮ります。
「ところで」
「んあ?」
「何か良い匂いがしますね。お料理の途中だったのでしょうか。お邪魔して
しまった様で申し訳ありません」
「ああ、それはまぁ良いんだが」
ここで稚空は、また少し思案顔になりました。
「食ってくか」
「は?」
「晩飯。未だだろ」
「ええ、まぁ。ですがお邪魔では」
「別に。それに」
「それに?」
「どうせ知っているだろうが、ここには居候が居る」
「その様ですね」
「あいつらが戻った時、あんたを見てどんな顔をするか少し興味がある」
ニヤリと笑う稚空。苦笑しながら、エリスは稚空が腰を上げるのと同時に
立ち上がります。
「稚空様、それではせめてお手伝いを」
「いいから座ってろよ」
「いいえ。退屈ですし、やはり性に合いません。どうか何かさせて下さい」
「判ったよ。芋の皮でも剥いてくれるか」
「承知しました稚空様」
「それとな、その稚空様ってのは止せ」
「職業上の癖みたいな物ですので、お気になさらず」
「それじゃ仕方ないか…ところで、俺は名乗ったか」
「いいえ。ですがそのくらいは存じております」
「調査済みって事か」
「ええ」
「こっちは何も知らん。不公平だ」
「情報収集も戦のうちでは?」
「そりゃそうだろうが」
「申し添えておきますが、私から何か聞き出そうとしても無駄ですよ」
「判ってる。でも名前くらいはいいだろ」
「エリス、そうお呼びくださいまし」
「判った」
こうして奇妙な共同作業を始める事となった二人。隣に立ってジャガイモの
皮を剥いているエリスを見ながら、メイドを雇うとこんな感じなのかと思う
稚空。そして、まろんにも何時か必ずこういうフリフリなエプロンを着せよう
と硬く心に決めるのでした。
*
オルレアンの周囲から始めて序々に範囲を広げながら潜んでいた低級な悪魔の
掃除を続けていたトキ。個体やら小集団やらが分散していて確かに数は多かった
ものの、特に手応えのある相手という訳ではありませんでした。そしてそれも
ある時点からぱったりと出くわさなくなり、やがて注意を要する状況では無いと
彼に判断させるに至ったのでした。それを掃除の効果と考える事も出来たかも
しれません。しかしトキにはそうは思えませんでした。
「(何かの前触れで無ければ良いのですが…)」
実際には本当に元々布陣が厚かった訳では無い上、別な場所で行われた戦闘に
よって大半の即応戦力を失ったシンがトキの攻撃で更に戦力を撃ち減らされて
一時撤退を余儀なくされた結果であり正に掃除の効果だったのですが。
そして漠然とした不安を明確にすべく、現状についての考察に没入しかけた
彼の邪魔をするのは他ならぬ味方なのでありました。
「トキ〜」
飛び掛らんばかりの勢いで飛んできたセルシアは、実際ぶつかってもおかしくは
無い距離ギリギリでやっと停止します。その勢いにトキは気を引き締めました。
「何かあったのですか」
「な、何にも無かったですです」
「悪魔達は」
「全然居なかったし、最近居た様子も無くて静かです」
「…そうですか。では何をそんなに急いで…」
そこまで言ってから手を差し上げて制止するトキ。
「言わなくていいです。とりあえず稚空さんの家に戻りましょう」
「稚空くんとご飯が待ってるですですっ」
「まだ少し早いですよ…」
本人ですら聞こえないくらい小さな溜息を漏らしつつ、もと来た方向へと翼を
広げるトキ。そしてそのすぐ後を行くセルシアは急かす様に何度もトキの左右に
並んだり下がったりを繰り返していました。やがてオルレアンが見えてくると、
安心からか我慢の限界なのか一気にトキを抜き去ります。そして稚空の部屋の
ベランダに着地するやいなや、最近は鍵が掛けられる事が無い窓を勝手に開いて
リビングへ踏み込みます。ほんの少しだけ遅れてやって来たトキも同様に部屋の
中へ。ですがそこで置物の様に突っ立っているセルシアの様子に気づきました。
「セルシア、何を」
問いかけかけたトキはセルシアの目が釘付けになっている理由、彼女と同じ光景
を見て同様に一瞬硬直していました。リビングの奥に少しだけ見えるキッチンの
一画、稚空でしかありえない人物の背後に此処に居る事があってはならない姿が。
そしてその者=敵の手には刃物が握られていました。
「稚空くん危ないっ!」
その声にハッとなり、セルシアに注意を戻したトキ。そして彼が慌てて制止しよう
と彼女の腕を掴んだ時には既に遅く、セルシアの突き出した両手の前には光球が
現出していました。そしてこちらも慌てていた為に元より不安定に収束していた
それが、トキに腕を掴まれた事により驚いたセルシアの意識から中途半端に
切り離されます。集中すればピンポイントでもっと小さな物とし、的を射る様にも
出来たはずでした。ですがそうなる前にそれは放たれてしまったのです。
*
初めのうちこそ時折ちらちらと横目でエリスの様子を見ていた稚空。ですが
彼女が難なく皮剥きをこなしている事を確認すると、目の前の自分の作業に
のみ集中します。途中まで混ぜた後で一度冷ましてしまったが故、加熱し直す
のも最初から弱火で行わなければならず、そして焦がさない為には火が通り
始める前からかき混ぜ続ける必要があったのです。その為、何時の間にか
エリスが彼の背後に擦り寄って来ていた事には全く気づかずに鍋の中の様子を
注視しています。エリスの方も初めは芋の皮剥きに集中していたのですが、
途中で稚空の様子に気づき鍋の中に興味を持って覗きに来たのでした。
もっとも横から覗かずに背後に回り肩越しに近づいたのは、エリスの生まれつき
の悪戯好きな性格の所為なのでしたが。その様な理由で、そっと顔を近づけた
エリスの胸が稚空の背中に触れた事が彼に遅まきながら彼女の接近を知らせる
事になったのでした。
「お…」
肩越しに振り返った稚空の目の前には興味深げに覗きこんでいたエリスの顔が
あり、そして彼女もまた振り返った稚空の方へ顔を向けたところでした。
「それは何ですか」
距離の近さに合わせて、控えめに小さな声で尋ねるエリス。まるで耳元で何か
秘密めいた事を囁かれたかの様に稚空の耳には届きました。稚空はその惑いを
振り払うかの様に、努めて普通の声で答えます。
「バターで小麦粉を炒めてる。ソースにするんだ」
「ソース?」
「クリームシチューのベースだよ。後でこれを牛乳で解いてだな」
「それで肉やら野菜を煮込むのですね」
「ああ。知ってるんじゃないか」
「そのソースは知りませんが、肉と野菜の煮込みなら魔界にもありますから」
「どんな風に煮込むんだ」
「同じ様なものです。ソースですか、何で煮込むかは色々ですが」
「例えば?」
「そうですね…」
そこでエリスは“ん〜”と小さく唸り、それから意味深な微笑みを浮かべてから
言葉をつなぎます。
「お食事の前には話さない方が良いと思います」
「何で、食い物の話なんだから問題無いだろ」
「でも材料が何なのか、知らないからこそ食べられる物もありますでしょ?」
「…そりゃ、そうだな」
納得半分興味半分で、後で必ず答を聞くぞと決意する稚空。そして改めて鍋に
注意を戻します。エリスもまた、単にかき混ぜるだけという単調な作業である
にも関わらず飽きずにじっと覗き込み続けています。稚空より少し背が低い
エリスでしたから、肩越しに覗き込む為に爪先立ちになっています。そうする
内に何時の間にやら、稚空に軽く身体を預ける様な姿勢になっているエリス。
両手は包丁を持ったままで背中で組んでいる為、自然と二人の身体が触れている
部分に体重がかかります。流石にその状態になると、稚空の注意は鍋から背中の
感触へと移っていました。そして鍋の中のソースの様に、二つの思いがぐるぐる
と回り始めます。
「(離れろと言うべきか、もうしばらく放っておくべきか)」
そしてこんな事も考えていました。
「(意外にある方だな。着痩せなのか)」
そんな稚空を現実に呼び戻したのは、鋭い二つの叫びでした。最初の叫びは
何と言っていたのか稚空の意識には届きませんでしたが、続いたトキの声は
ハッキリと意味を持って伝わりました。
「稚空さん、避けて!」
声のした方へ顔を向けた稚空は、視界の真ん中に光る何かを見出します。
そしてそれが何なのかに気付き、更にその光の向こう側で慌てた表情の二人の
天使が走り寄って来ようとしているらしい様子を目に留めます。その動きが
何故か妙にゆっくりとしていて、スローモーションの様に感じる事を不思議に
思いながら。そして何処か遠くからこんな声が聞こえた気がしました。
「じっとして動かないでください。大丈夫ですから」
その声の主を探して、視線を彷徨わせる稚空。ですがその視界は直後に広がった
光の渦に飲み込まれ、何も見えなくなっていたのでした。
(第175話・つづく)
# 台所は戦場。
では、また。
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■■■■■■ 佐々木 英朗 ■■■■■■■ 可愛いんだから
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