Path: ccsf.homeunix.org!CALA-MUZIK!news.media.kyoto-u.ac.jp!not-for-mail From: =?ISO-2022-JP?B?GyRCOjQhOUxaGyhCIBskQjFRTy8bKEI=?= Newsgroups: japan.anime.pretty,fj.rec.animation Subject: Re: Kamikaze Kaito Jeanne #40 (12/18) Date: Sun, 1 Oct 2006 08:22:45 +0000 (UTC) Organization: Public NNTP Service, Kyoto University, JAPAN Lines: 240 Sender: hidero@po.iijnet.or.jp Message-ID: References: NNTP-Posting-Host: zt066108.ppp.dion.ne.jp Mime-Version: 1.0 Content-Type: text/plain; charset=ISO-2022-JP Content-Transfer-Encoding: 7bit X-Trace: caraway.media.kyoto-u.ac.jp 1159690965 23484 59.128.66.108 (1 Oct 2006 08:22:45 GMT) X-Complaints-To: news@news.media.kyoto-u.ac.jp NNTP-Posting-Date: Sun, 1 Oct 2006 08:22:45 +0000 (UTC) X-Newsreader: Sylpheed version 1.0.4 (GTK+ 1.2.10; i386-unknown-freebsd4.11) Xref: ccsf.homeunix.org japan.anime.pretty:12818 fj.rec.animation:7252 佐々木@横浜市在住です。 # 「神風怪盗ジャンヌ」のアニメ版第40話から着想を得て # 書き連ねられているヨタ話を妄想と呼んでいます。 # そういう2次創作物が嫌いじゃ無い方のみ、以下をどうぞ。 ★神風・愛の劇場 第175話『霧が晴れたら』(その2) ●桃栗町の外れ・ノインの館 本当にそれで構わないのだろうか、という思いからか未だに思案を続けている 様子のミカサ。その脇では同じく思案、というよりは不安顔のユキ。しかし ながらノインは既に問題を一つ解決してしまったかの様に、スッキリした表情を していました。そしてもっと大事なことに気付いたかの様に声を上げます。 「ああ、そうでした」 その場の者の視線が集まるのを待ってから付け足します。 「夕食の時間でしたね。すっかり忘れてましたが」 「私が」 「手伝いまぁす」 ユキはそう言うと、いそいそとキッチンへと向かいました。今はそうするべきと 思われましたし、何より微笑んでいるノインの傍に居るのが落ち着かなかった という事もあります。夕食の仕度(と言ってもする事は殆ど残っていないはず でしたが)というのは、微妙に居心地の悪いこの場を抜け出す最高の口実だった のです。とは言うものの、ノインの館での食事は殆どの場合エリスが仕切っていて ユキには勝手が判りませんでした。特に銀の大皿にデンと載せられた肉の塊の 扱いがサッパリ判りません。 「焼いてはあるのよね・・・」 ユキと肉の塊=冷ます為に放置してあったローストビーフを交互に見比べていた シルク。どうやらユキが戸惑っているらしいと察すると、さり気なく助け舟を 出すのでした。 「ユキおねぃさんは鍋をお願いしまぁす」 「あ、うん。わかったわ」 「焦がさないようにでぃす」 「はい」 言われた通りに鍋の中身 − これまたユキには謎の濃い液体=ローストビーフの 為のソース − をかき混ぜながら、ちらちらとシルクの様子を見るユキ。 彼は例の大皿の肉の塊を短剣に見えなくも無い細長い包丁で薄く切っていました。 やけに真剣な表情なのが不思議でしたが、どうやら厚みを揃えようと注意している らしいのです。それを微笑ましく思うと同時に、ユキの中にもやもやと浮かぶ物が ありました。 「(こんな事ではミカサ様のお世話が出来ないわ!料理なんて魔術でちょい ちょいと出来なくは無いけれど私の知る限りでは人族の方はそういうのは好まれ 無いしきっとミカサ様も嫌よねだったらやはり手料理は必須よミカサ様は何が お好みかしら見たところ何時も何でもお召し上がりの様だけどここは戦場だし ミカサ様はこんな場所で選り好みされる様な方では無いわでも戦を離れられたら お好きな物を召し上がりたいに違いないのそこで私の出番なのよミカサ様の 好物を自分の手でサっとお作りして見せれば高得点間違い無し!)」 “とても美味しいよユキ” “本当ですか?” “ああ” “デザートには何がよろしいですか” “デザートは君にしよう” 「(きゃっ、ミカサ様大胆!)」 鍋をかき混ぜる手にも無駄に力が入るユキなのでした。 ●オルレアン まろんを送り出した後、始めは何もせずに待っていた稚空。しん、と静まり返った 部屋の中でじっと待つ時間は実際の時間より長く感じます。何かあれば連絡がある はずと考え、逆に何事かあったら連絡する暇も無いだろうと思い直し、更に何も 無いならないでまろんは自分の事などコロっと忘れて楽しく過ごしているのでは 無いか…と、そんな風に思考がぐるぐる巡ります。そうしてやっと、何もしないで 居ると色々と余計な事を考えてしまうと気付きます。 「さて、どうした…」 余計な考えに区切りをつける為だけのはずのフレーズが思わず声に出てしまい、 慌てて口を閉じる稚空。頭の中でだけ、続きを呟いてからキッチンに潜ります。 そろそろ誰かが戻ってきて“夕ごはん”と言い出すかもしれないと思い出し、 気晴らしついでに料理をする事にしていました。とはいうものの献立は全く決めて おらず、とりあえずと冷蔵庫を覗いてみるのでした。ですが冷蔵庫を覗いて真っ先 に見つけたのは肉の角切りとニンジンとタマネギ…。 「(カレーネタ連発は無しだろ)」 ですがその材料からの連想はどうしても煮込み寄りになってしまいます。一度は 全て刻んでミートソースはどうだ?とも考えてみたものの、ニンジンとタマネギは 兎も角、肉を自分で刻んでひき肉にするのは億劫でした。 引っ張り出せばフードプロセッサくらいは持っているのですが、戸棚の奥から 出すのが面倒臭いという結論にてこの案も打ち切られます。結果として、カレーを 取りやめた時の定番の代案であるシチューに落ち着くのでした。 そこで問題になるのが。 「(赤か白か、だな)」 今度はキッチンシンク下の戸棚を覗く稚空。デミグラスソースもホワイトソースも 缶詰の在庫は無く、在ったのはトマトの水煮缶詰。その隣りの箱に整理された乾物 の中には折り曲げた口を洗濯バサミで閉じた小麦粉の袋。缶詰で手早くすます道を 絶たれた稚空は、トマトを煮込むのと小麦粉をバターで炒めるのとどちらが良いか 思案します。手間はたいして違いは無く、後は気分の問題というところまで来た 稚空。結局、最近作っていない気がするという深い意味は無い理由で小麦粉を バターで炒める方、すなわちクリームシチューという結論に達します。念の為、 もう一度冷蔵庫を開けて生クリーム − は無かった為に牛乳で代用 − を確認 した後、材料だけを一揃い並べてから調理に取り掛かります。鍋にて溶いた バターに小麦粉をふるい入れ、後は焦がさない様に弱火でひたすらこね混ぜ続け ます。単純な作業に集中する事は、稚空の気分を本人の期待以上に落ち着かせて 行きました。心の片隅では心配事を忘れている訳ではありませんが、そんな中で 考え得る限り最高にリラックスした気分、思わず鼻歌も出ようかという時でした。 玄関の呼び鈴が控えめに一度だけ音を立てました。またあの女の子か、と一瞬 思ったものの先ほどとは鳴らし方が違う事が引っ掛かります。そしてどういう 訳か稚空の知り合いには呼び鈴を一度だけ鳴らすという上品な相手は殆ど 居ませんでした。只一人、例外の心当たりがあるにはあったのですが。 「(弥白は連絡もせずに来たりはしないよな…多分)」 時々、稚空を驚かせる様な事をしない訳でも無かった為に必ずしも断言は出来 ませんでした。ただ稚空には、何となくコレは違うという気がしてもいます。 コンロの火を止め、余熱で焦げない様に念の為に鍋を隣りの使っていなかった方 に載せ換えてから玄関へと向かいます。そして扉を開くと、確かに彼のカンは 的を射ていました。ぼうっと光っている様にも見える髪を揺らして、ちょこんと お辞儀をする相手を見ながら解けていた緊張が再び稚空の中に充ちていきます。 そしてそんな事には − 仮に気付いていても − お構い無しに、屈託の無い 笑顔を見せるエリスがそこに居ます。 「こんばんは」 「噂をすれば…って奴か」 「は?」 「いや、何でもない。気にすんな」 「そうですか。でも私の事が貴方の話題になっているのは光栄です」 「敵としてだけどな」 「それで結構ですよ」 「出来れば女性として話題にしたいところではあるが」 「そちらは遠慮させていただきますね」 「そりゃ残念だ」 表面上は軽口を叩く稚空でしたが、当然油断はありません。訪問者が誰なのかを 確かめずに開けてしまった扉の事を悔やみつつ、いざとなったら勢いを付けて 閉じられる様にとドアノブを掴む手にしっかりと力を入れています。もっとも、 この相手に人間の家の扉が意味を持つとも思えませんでしたが。 「で、何の用だ」 「ちょっと御挨拶にうかがいました」 「…」 なるべく目を逸らさない様にしつつ、さっとエリスの全身を見回す稚空。小さな 紙袋を下げた手を身体の前、お腹の辺りで軽く組んでいる姿勢。服装は最初に 遭った時と同じ黒いワンピースに白いエプロンドレス、ですが少しデザインが 違う様な気もします。どう対応したものかと稚空が考えている前で、エリスは 大人しく立っていました。それでもやがて、待ちくたびれたのか決断を促す様に 小首を傾げて見せました。 「私の理解するところの人族の風習ですと、この様な場合は立ち話も何だし 云々という展開になると期待したのですけれど。間違っていますか」 「間違って無いが、それは普通の客の場合だ」 「普通の客では無いという点に関しては認めます。でも、襲いに来たのでは ありませんよ」 「今は、な」 「今宵は荒っぽい用事で来た訳ではありません。本当に単なる御挨拶なのですが」 今回も嘘は言っていないエリス。同時に全てを話してもいませんが。 「そうか。挨拶…な」 「またまた信用いただけないのですね」 「真意が読めない以上、疑うだろ普通」 「そうですか。残念ですが仕方有りませんね。では折角なのでこれを」 エリスは持ってきた紙袋を差し出します。何故か稚空には、聞くまでも無くその 袋の中身が判ってしまっていました。 「ケーキか。あんたが焼いたんだってな」 「え?」 呆気にとられ言葉を失ったエリス。少なくともそれは、今まで稚空が見た中では もっとも隙だらけの表情でした。そして会話の中だけの事とはいえ、エリスに 一杯食わせられたらしいという思いは稚空を嬉しくさせていました。 それが自然に、ニヤリといった感じの笑いとなって現れます。それを見たエリスは 何とも子供っぽい不満顔、頬を膨らませた直後に口を尖らすという反応を見せて 更に稚空を喜ばせました。 「なんだ、昼間のミナ様の出かけた先ってこちらだったのですね」 「ああ、来てたぜ」 「がっかりです。人間界の人族の方の感想を聞きたかったのですが」 「それのか。まぁ、旨かった」 「本当ですか?」 「本当だ。ちょっと不思議な香りが混ざっていたが」 「毒じゃありませんよ」 「判ってる。今まで何とも無いしな」 「それはあんまりです」 「悪ぃな」 「でも、何とも無くて安心しました」 「な、何だと?」 「いえ、一部私達の世界の香辛料を使いましたので人間界の人族の方には何か あるかもしれないと、少しだけ思っていたもので」 「酷ぇ言い草だ」 「お互い様、ですね」 肩をすぼめて、クスっと笑うエリス。稚空にとっては、緊張と警戒を緩めない 様にするのがかなり困難になる状況でした。それが知らず知らずの内に、敵の 考えを探るにはこうして会話を続けた方が得策なのでは?という考えに結び ついていったのです。 「まぁ上がれ。茶ぐらい出すさ」 「本当に、よろしいのですか?」 「ああ。立ち話も何だしな」 稚空はそう言うと、ドアノブを掴んでいた手を離しそっと扉の傍を離れます。 エリスはもう一度、ちょこんとお辞儀をしてから扉を支えつつ中に入りました。 それから丁寧に扉を閉じ、稚空の足下をチラッと見てから腰を屈めて自分の 履物を脱ぎ始めます。それはかかととくるぶしから延びた革紐を膝の辺りまで 編み上げた、ちょっと変わった履物でした。そしてそれ故に紐を解く時には片方 ずつ二回、スカートの裾をたくし上げる事になります。その度にちらっと見える 白いレースの下穿きが少し気になってしまうのは、男としては当然の事でしょう。 そして“周囲からどう見えるか”を心得ているべき侍女職にあるエリスにとって、 それは勿論偶然見せてしまっている訳では無いのでした。ですから履物を揃えて 顔を上げながら部屋に上がったエリスの視線が、斜め下に向いた稚空の視線と 正面からぶつかり彼が慌てて後ろを向いた時にも咎める様な事はありません。 その代わりに笑顔でこう言い添えました。 「すみません、もたもたしてしまいまして」 「いや、いいんだ」 エスコートというよりは単に前をすたすた歩いているだけの稚空の頭の中では、 トキやセルシアと激しい戦いを繰り広げたエリスと目の前の楚々とした彼女が どうにも上手く交わる事がありません。その違和感は稚空を混乱させ、益々 警戒よりも好奇心の方を後押ししてしまうのでした。 (第175話・つづく) # 何か料理する話ばっかりです。^^; では、また。 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ ■■■■■■ 佐々木 英朗 ■■■■■■■ 可愛いんだから ■■■■ hidero@po.iijnet.or.jp ■■■■ いいじゃないか ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■