「うつうつひでお日記」
本書は、著者が「失踪日記」の第3部「アル中病棟」の執筆をしていた2004年7月7日から、
「失踪日記」が発売される直前の2005年2月16日までの「日記」である。
全編9話のうち第1話は自費出版されたもので、以後の8話は角川書店の雑誌に連載されたものである。
「失踪日記」とは異なり、ドラマティックな出来事は何もなく、
退院後のどん底のリハビリ生活で、
図書館通いと読書に明け暮れる著者の日常が淡々と語られる。
8月29日(日)雨
今日は休み
食って
読書して
寝て
タバコ
吸って
食って
ウンコして
寝て
食って
寝た
西澤保彦
「パズラー」読了 ○
出版する以上は読者を想定するはずであるが、
この日記は読者を意識せずに(というより意識していないふりをして)
書かれているかのようである。
それでも、ななこやミャアちゃんが時々登場するのは、やはり読者に対するサービスなのであろうか。
しかしながら、本書には注目すべき内容も含まれている。
アイデアからネームが入るまでの作品の制作過程を公開したり、
某社の編集者H氏が「失踪日記」の出版をさわやかな笑顔で断るエピソードなど、
出版業界の裏事情がわかるくだりなどもさりげなく描かれている。
また、改めて驚かされるのが著者のすさまじい読書量である。
# 本のカバーの裏に読んだ本の一覧表が載っている。
「失踪日記」のような衝撃的な内容を期待して読むと落胆させられるだろう。
その意味では、読者を選ぶ作品と言える。
それにしても、再び驚かされるのは、このような日常でもひたすら自己に対する葛藤と
作品に対する内省を繰り返す、作家としての吾妻ひでおの視点である。
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March Hare <marchare@credo.jp>
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