フランスでの国民投票でEU憲法が否決され、ついでオランダでも大差で否決される事態を受けて、これから賛否の国民投票を行なうイギリス、デンマ−クなどでは動揺が広がっている。
 もともとEUに批判的なイギリスでは、賛成の公算が低いため、ブレア政権は国民投票を凍結することを検討し始めており、スエ−デンでは「否決国で再投票をやるために、憲法の手直しを行なうなどの動きがある。手直しされる憲法を国民投票に掛けるなどはナンセンスではないか」という意見が出ているという。もっともな話である。
 もともとは、戦争に明け暮れたヨ−ロッパの歴史を繰り返さないためにEUの方式が考え出されたものだが、今日では、それよりも
超大国アメリカと欧州との経済的、政治的な力のバランスを取るため、という意味が大きいと思う。たとえてみれば、EUはアメリカというガリバ−企業に対抗するための企業組合みたいなものである。だから、その統合力を強化するためにも憲法が必要なのだ。
 EU憲法に反対の国民感情は、それによって労働自由化が進んで、中東欧からの安い労働力が流入し、賃金レベルが低下することなどの危惧が原因とされているが、アジアの日本がその生産拠点を労賃の安い中国やベトナム、タイに移転したように、ヨ−ロッパでも先進工業国から、東欧への生産拠点の移転は大分前から行なわれてきているのである。
 生産拠点ごと移転するよりは、生産拠点は移さずに東欧から労働力を入れたほうがよいのではないか。ただし、その労賃は自国労働者と差別してはならない、というような法律を作れば、憲法は変えなくてもよいのではないか。
 EUの世界戦略的な意義を考えて、EU統合力強化のために賢明な方策をとり、多少時間がかかってもEU憲法を成立させることを期待したい。
 村上新八