Re: Kamikaze Kaito Jeanne #40 (12/18)
佐々木@横浜市在住です。
# 「神風怪盗ジャンヌ」のアニメ版第40話から着想を得て
# 書き連ねられているヨタ話を妄想と呼んでいます。
# そういう2次創作物が嫌いじゃ無い方のみ、以下をどうぞ。
(その1)<ckdgd5$206$2@zzr.yamada.gr.jp>、
(その2)<clfs1u$sq4$2@zzr.yamada.gr.jp>、
(その3)<cmkpa7$n9v$1@zzr.yamada.gr.jp>、
(その4)<cnpq23$uoi$1@zzr.yamada.gr.jp>、
(その5)<couhh3$6bl$1@zzr.yamada.gr.jp>、
(その6)<cq3l78$ci5$1@zzr.yamada.gr.jp>、
(その7)<crdmn4$ft7$3@zzr.yamada.gr.jp>、
(その8)<csvnro$s1b$1@zzr.yamada.gr.jp>、
(その9)<cu7vhd$j9o$1@zzr.yamada.gr.jp>の続きです。
^L
★神風・愛の劇場 第173話『水妖』(その10)
●桃栗町町境近く
まろん達が訪れた頃はぱらぱらと言った程度の人出だった温泉スパ桃栗と
その付帯施設も、流石に昼食の時間帯に入った頃から駐車場の空きが段々と
減り始め、ユキとチェリーがバスから降りた頃にはかなり賑やかな状態と
なっていました。それを見てはたと足を止めるチェリー。手をつないでいた
ユキも引き止められる様な形で立ち止まります。
「どうしたの?」
バスでここまでやってくる間、なるべく中身を意識せずに外見通りの少女に
話しかける口調を続けてきたユキ。今では自然に年下に話しかける様な
口振りが身に付いていました。
「あのね…」
シンは逆に強く意識しなければ見かけ相応の口調と声にならないのですが、
真面目な性格の彼は既に演技する事を仕事と割り切っています。
「この状況はマズいと思うんだけど」
「え?」
すっかり調子が合い過ぎていて、即座には何のことか判らなかったユキ。
ですがすぐにチェリーでは無くシンの言わんとする所に気付きます。
彼はこの賑やかな場所で騒ぎを起こすのは良くないのでは無いか、と
言っているのです。
「だから、このままだと」
「平気よ。今日は攻撃指令は出てないし、単にあなたを引き合わせるだけ」
「えっと…その後で私は」
「まろんさん達次第でしょうね」
「帰って来られるのかな…」
「んん?」
「だんだん、この娘と神の御子との関係も判ってきたの。それでもし」
「もし?」
「私の様な者が操っていたと知られたら、絶対殺されるわ」
「それじゃ、そうならない様に頑張ってネ」
「…」
「…」
互いに話している内容と口調が全然合っていないと気付いてしまい、無言の
間が訪れます。やがて口をきゅっと結んでふるふると震え出すユキ。
一方のチェリーは同じく口を結び、そして頬をぷっと膨らませています。
「また笑った…」
「…えふっ、ふ、みまひぇん」
笑いを無理に我慢してむせてしまいながら謝るユキでしたが、それ以外は
身体全体が笑っていました。
「もう知らない」
チェリーはユキの手を振り払って一人ですたすたとショッピングモールの方
へと向かいます。その後を数歩遅れてユキが何とか息を整えつつ追いかけます。
駐車場の脇を通り抜け、無駄に天井が高い入り口から中へと入るとそこから
幅の広い通路が左右に延びています。左手の方は通路がすぐに別の施設の入口
と思われるガラスの扉に行き当たっていて、そちらが温泉施設なのだろうと
ユキは判断しました。右手方向は突き当たりが見えない程に通路が長く延びて
いて、その左右は色々な商店がすき間無く並んでいます。通路の2階部分も
また同様に商店が並び、一定の間隔毎に吹き抜けと階段が上下二つの空間を
つないでいます。二人はその広々としたショッピグモールをしばしの間、
ぽかんと眺めていました。
「すごい」
「ほんとね」
何処かから色々な食べ物の匂いの混ざった空気が流れてきて、この通路の
先にはレストラン街があるのだろうと予想させます。他に用が無かったら、
ここをゆったり散策したい。もちろん一人では無くて…。そんな夢想に
ふけり一人でニヤニヤしていたユキをチェリーが現実に引き戻します。
「ねぇ、あそこかな」
「えっ?あ、うん。そうみたい。行ってみましょう」
チェリーが指さした先は最初の吹き抜けの上階部分に見えているカラフルな
一画でした。螺旋階段を駆け上がるチェリーを、また追いかける形でユキが
後に続きます。上がった正面の店の前に立つ二人。ショウウィンドウ越しに
眺めると、そこには季節外れの浜辺を模した背景の前で水着を着けた女性の
マネキン達がしなやかなポーズで立ち並んでいます。ただそれらのマネキン
はデザインの為か首から上が無く、ユキとチェリーはその事が気になって
仕方がありませんでした。
「何で顔が無いのかしら」
「何だかバケモノみたいで嫌だな」
「そうね、これじゃまるで」
二人は揃って魔界に居る同じ様に首の欠けた、しかし頭が無い訳ではない
生き物の事を思いだしていました。
「あれ、美味しいんだけどね」
「ええ。でもちょっと調理前の姿は苦手」
「そうそう、あと狩るのも嫌。大暴れするし」
「そういうのは好きそうなひとに任せましょ」
「うん」
「それじゃ中へ入ってみましょうか」
妙なところで故郷を思いだした二人は、和やかな気分で未知の世界へと突入
したのでした。店内はこれまた広くゆったりとしていました。女性向けの
スポーツウェア全般を扱っているらしく水着専門店という訳ではありません
でしたが、それでも水着売り場は全体の半分近くの面積を占めています。
全体的に統一されて見えるのは、似た系統の色合いの水着が多い所為だと
ユキは気付きます。チェリーも何となく同じ疑問を持ったらしく、ぽつりと
感想を洩らします。
「似たようなのばっかり」
「そうね」
一番手近に並んでいるハンガーラックの上に蛍光色の太字で“今年の流行色”
と書かれているのをユキは見て取りました。
「流行ってるそうよ、この色が」
「ふ〜ん」
「とりあえず見てまわりましょ」
「うん」
壁やラックに吊り下げられた水着の間を歩く二人。基本的に大人向けのサイズ
の物ばかりでしたが、やがて小さいサイズの品が集まっているところに辿り
着きました。
「チェリーちゃんに合いそうな大きさはこの辺かしら」
「そうみたいだけど…」
「けど?」
「やっぱり何か変な感じ。こんなの着るの?私が?」
「そうよ」
ユキは言いながら、ハンガーに広げた形でくくり付けられている水着を既に
何着かチェリーの前にかざしてあてがっていました。自分が水着を着る事を
照れていたユキでしたが、今はすっかりショッピングを楽しんでいる様子です。
「これはどうかしら」
「ち、ちょっと恥ずかしい」
「そう?じゃこっちは?」
「それもちょっと」
「子供っぽいのが嫌なのね、それじゃこれかな」
どれと言う事も無く全部恥ずかしい、という言葉は流石に我慢したチェリー
の中のシンでしたが顔は既にほんのり赤くなっていました。ユキもそれは
判ってはいますが、敢えて気にしない事にします。その照れは自分自身の事
でもあったからでした。
「それじゃ、これとこれとこれ。試着して見せて」
「え?しちゃくって何?」
「試しに着てみる事。大きさが合わないと困るでしょ?」
「あ、ああ、これを着るんだ」
魔界では基本的に採寸してから作る服、所謂オーダーメイドが殆どで出来合い
の服という物はまず滅多にありません。チェリーはそこにある水着は全部見本
だと思っていたのです。ユキも初めて街に出た時は同じ勘違いをしていました
が、今では人間界でのそういった習慣の違いは把握しています。そしてユキは
チェリーを一番近くにある試着室に連れていきました。
「自分で着替えられる?」
「えっと…」
「じゃ手伝いましょうね」
幸い試着室はそれなりの広さがあり、まだそれほど身体が大きいわけでは無い
チェリーとならばユキが一緒に入っても窮屈ではありません。先に中へ押し
込められる様にして入ったチェリーの背後で、ユキがカーテンを閉じながら
言いました。
「脱ぐのは出来るわよね」
「えっと、それはだいじょうぶ…たぶん」
その言葉通り、ブラウスのボタンを外すのに少し手間取った以外は問題無く
こなすチェリー。脱いだ服をいちいち丁寧に畳むので時間が掛かりますが、
その間ユキは静かに待っていました。そしてチェリーが最後の一枚に手を
かけたところでユキは彼女を止めます。
「下着は着たままでいいのよ」
「あ、そうなんだ」
そして今度は渡された水着を見て、そのまま動きを止めてしまいます。
ユキはいったん水着を引取り、着る真似だけをして見せます。チェリーは
それで納得し、何とか水着に着替える事に成功します。そしてそのまま
鏡の前で棒立ちになっているチェリーをユキが近づいたり離れたりしながら
じっと眺めています。ユキが時折、水着の一部を引っ張ったり撫でたりする
事がチェリーにはくすぐったいやら気になるやら。ですがそれでも最後まで
じっと我慢します。やがてユキはう〜んと唸ってから言いました。
「ちょっと…」
「な、なにか変?」
「そうじゃないんだけど…もうひとつかしら」
「んん?」
「今度はこっちね」
ユキはそう言って別の水着を渡します。言われた通りに次の水着に着替える
チェリー。着替え終わった彼女を見て、また考え込むユキ。そして次の水着。
少しだけ開けたカーテンの隙間から素早く外に出たユキは、チェリーが
三着目の水着に着替え終わったと同時に小さく声を掛けてから再びカーテンを
開けて中に入ってきました。その手に別の数着の水着を持って。
「それじゃ次はこれね」
「…これ、全部ためすの?」
「ええ。どうせ試着はタダだし、折角買うんだから似合う方がいいわよね」
どうせ今日限りで“私は”二度と着る事は無いのだし何れにしても人間の
子供に与えてやる事になってしまう様なものなのだから何でも同じ一番安い
奴で充分だろう…、とは思ったものの結局は言いだせなかった気の小さい
チェリー。そしてそれが言いだせなかったが故、すっかり調子に乗ったユキに
十数着の試着をさせられた上、更にユキ自身の試着にも立ち会うはめになり
すっかり疲れ切ってしまうのでした。
(第173話・つづく)
# 全10パートで終わると言った気がしますが気のせいです。^^;
では、また。
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■■■■■■ 佐々木 英朗 ■■■■■■■
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