Re: Kamikaze Kaito Jeanne #40 (12/18)
佐々木@横浜市在住です。
# 「神風怪盗ジャンヌ」のアニメ版第40話から着想を得て
# 書き連ねられているヨタ話を妄想と呼んでいます。
# そういう2次創作物が嫌いじゃ無い方のみ、以下をどうぞ。
(その1)<ckdgd5$206$2@zzr.yamada.gr.jp>、
(その2)<clfs1u$sq4$2@zzr.yamada.gr.jp>、
(その3)<cmkpa7$n9v$1@zzr.yamada.gr.jp>、
(その4)<cnpq23$uoi$1@zzr.yamada.gr.jp>、
(その5)<couhh3$6bl$1@zzr.yamada.gr.jp>、
(その6)<cq3l78$ci5$1@zzr.yamada.gr.jp>の続きです。
^L
★神風・愛の劇場 第173話『水妖』(その7)
●桃栗町の外れ・ノインの館
朝一番に失態をさらしてしまったが故、ユキはその日の休息を大人しく
身体を休める為の時間にする気にはなれずにいました。ですがそんな日に
限って、普段あまり休まないミカサが早々にこう宣言したのです。
「今日は私も何もしない事にした。本でも読んで過ごすから、ユキは町に
出てぶらぶらしてくるといい」
そして本当にユキの目の前でノインの屋敷から借り出してきていた本に
向かってしまったのです。これでは仕事を言いつけてもらえるどころか、
勝手に部屋の片付けなどの身の回りの世話をするのですら邪魔になってしまい
ます。ユキはすごすごとミカサの傍から退散するしかありませんでした。
かといって宿営に居てもする事が見つかるとは思えません。本来の役目として
はミカサの傍に付かず離れずを守って部屋に待機しているべきなのですが、
今までの経験からミカサが何か用を言いつけてくれる可能性は限りなくゼロ
だとユキは確信していました。そこで渋々ながら、次善策を取る事にしたの
でした。宿営からは距離があって無いノインの屋敷へと出向き、軽く扉をノック。
しかし最近の頻繁な出入りによる気楽さから返事を待たずに扉を開いて中へと
入ったユキ。その目に飛び込んできた光景が即座には理解出来ず、何度か目を
瞬かせてしまいます。リビングには他に誰もおらず、ノインが何時も通り椅子に
座ってこちらに微笑みかけて居ました。何時もと違うのは、その膝の上に
見知らぬ少女がちょこんと乗っている事。少女はユキの姿を目に留めると、
頬を真っ赤に染めて顔を伏せてしまいました。ユキは何か言おうとして口を
数回ぱくぱく動かした後、結局こんな事を言ったのです。
「お邪魔しました」
その声を耳にした少女が慌てた様にぱっと顔を上げた時には、ユキの姿は既に
そこにはありませんでした。
*
散々笑い続けた挙げ句に、まだ肩をひくひくと痙攣させ笑いを噛み殺している
ノインの前には憮然とした表情のユキと少女が椅子に座っていました。
「そんなに何時までもお笑いにならなくても…」
ユキがやんわり抗議するとノインは動きをピタリと止め、そしてユキの顔を
まじまじと見つめて今度は含み笑いを洩らします。
「だから止そうと申し上げたのです」
少女の口から男性の声が進言しても、ノインの顔には妙な笑みが張り付いた
ままでした。
「いや、失敬。しかし予想外に楽しめましたね」
「私はちっとも楽しくありませんでしたが」
「おや、それは残念。誰が最初に来るかと思っていた所、実に」
ノインはそこでいったん区切り、好都合という言葉を抜いて先を続けます。
「意外な人物が現われましたので、どうなるか様子をみたのです」
ユキは口をへの字に曲げてあからさまに嫌そうな顔をして応えます。
「お楽しみいただけて光栄です」
「いやまったく。で、もう一度お願い出来ますか?私たちがどう見えたと?」
「そ、それは…」
もごもごと口ごもるユキ。醒めていた頬の色がまた赤みを帯びて来ます。
「私の事を変態だと思ったんですよね?」
「ち、違いますっ、ただちょっと趣味が広くていらっしゃるのかなぁと」
「同じ事だろう…」
少女の姿のシンがボソっと呟くと、ユキは両手で顔を覆ってしまいました。
「ユキ」
ノインの真剣な声音にそっと顔を上げるユキ。そこには言葉の調子とは全く
異なる、満面の笑みのノインの顔がありました。
「あなた、最高ですね」
休息日は素直に宿営で休んでおけばよかったのだと、ユキは深く深く後悔
していました。それは今更遅すぎた後悔ではあったのですが。
「それで?」
「……は?」
「何か用があったのでは無いのですか」
「えっと、それはその…別に何も」
「用が無いのに訪問してくれたのは嬉しい限りですが、本当に?」
ユキはしばらく躊躇してから、おずおずと答えました。
「何か、御用は無いものかと…」
「ええ、ありますとも」
待ってましたとばかりに即答したノイン。この時のユキの心の叫びは一言で
言うなら“罠だわ”という様な物でした。目の前のノインの表情は実に穏やか
でしたが、ユキは既に彼の表情程あてにならないものは無いと理解しつつあり
ました。ですからそれが何であれ、ロクな用を言いつけられない事は明らかに
思えたのです。それでも自分から言いだす形になった手前、その先を聞かない
わけにはいきません。
「それはいったいどの様な…」
「そんなにビクビクしなくても大丈夫ですよ。大した用じゃありません。
彼女を」
ユキが横を向くと、隣に座っていた少女がぴくりと身体を震わせて見つめ返して
来ました。
「チェリー嬢を神の御子の許へ送っていって下さい。折角の機会ですからそのまま
潜入してもらいましょう。ユキは彼女に町で偶然出会ったとでも言ってね」
「ちょ、ちょっと待ってください。私は」
「ノイン様、先ほどのお話ではシン隊長は同期が不完全と」
「別に構わないでしょう。見た目重視って事で」
「ですが、声が男性のままです」
「裏声でも出してください、出来ますよね」
「出来ません!」
「ではユキが上手く同期する方法を伝授するって事でどうでしょう」
「君が?出来るのかい?」
ユキはノインと少女=チェリーの姿をしたシンの両方に向かって交互に
首を横にぶんぶん振って見せました。
「駄目ですか」
「駄目ですっ!」
「でも知識くらいはあるでしょう?コツとか」
「それは…でも、そのそれは受け売りというか言われたままというか自分では
まるで駄目でただ言われた通りの事はそれはその」
「先生が達人である必要は無いんですよ」
「そんな理屈は…」
「第一、暇でしょ?だから此へ来たんですよね」
「う…」
「それではお願いしますね。私は昼食の準備がありますので、仕度が終わるまで
には彼女が」
ノインはシンをしげしげと見つめました。
「姿に見合った可愛い声で話せる様に」
ユキは返事をする事も出来ず、ノインの様にシンの姿をしげしげと見つめます。
ユキもシンも互いの顔に“出来るわけ無い”と書いてあるのがハッキリと見て
取れる思いでした。それでも出来ないの一言で済ませてしまう訳にもいきません。
ユキはシンの手をとり、激しい違和感を感じながらもそっと語りかけるのです。
「それでは。心を落ち着けてください」
「あ、ああ。やってみよう」
シンは目を閉じ、意識して深い呼吸を繰り返していました。
「誰か傍に居る様な、気配を感じますか?」
一呼吸おいてからシンが答えます。
「判らない」
「明確に感じようとしなくてもいいんです。誰かが自分を見ている気がしたり、
或は逆に振り向いて見たくなる様な気がするとか」
今度は少し長めに沈黙した後、シンがぽつりと応えました。
「暗い部屋に誰かと居る気がする。部屋の隅から誰かが様子を窺っている気が」
「シン隊長御自身は、その部屋の何処にいらっしゃいますか?」
「ん……真ん中…いや、壁際か。隅では無いが壁に近い。目の前に壁がある」
「誰かの気配は、右、左、どちらです?」
「わ、判らない、ハッキリしない。今度は背中に感じる気がしてきた」
「では壁に手を添えて、右の方へ進むつもりで」
「つもりって」
「歩いていくつもりです。壁から手を離さずに」
「ああ…」
更に長い沈黙。その後、顔を上げたシンはぽろぽろと涙を流していました。
「ど、どうしました?大丈夫ですか?」
「何て事だ」
「…は?」
「可哀想に、恐ろしい目にあった様だ。まるで悪魔にでも出会った様な」
確かに悪魔に会っている最中ですが、とは言わずにユキは語りかけます。
「誰が可哀想なのですか」
「女の子だ、この子を見つけた。怯えている」
「では抱いてあげてください」
「だっだだ抱くぅ!?」
「いたわる様に抱きしめるんです」
「だ、だ、だがしかし私が女の子をだね、抱くなんて破廉恥な」
「変な意味じゃありませんっ。父親にでもなったつもりで」
「父親って、私に子供は居ないが」
「つもりです、つもり、嫌ならお兄さんでも何でもいいですから」
「わ、判った、やってみよう」
「やさしく、ですよ」
「やさしくやさしくやさしく…」
シンは自分で涙を拭う仕草を見せると、ぽつりと呟きました。
「温かいものだ、子供というのは…」
それまで、口出しせずに黙々とテーブルの上に皿などを並べていたノインが
尋ねます。
「調子はどうでしょう」
「何とか、なるかも知れません」
「結構。続けてください」
珍しく、誇らしげな表情を見せたユキにノインは頷いて見せるのでした。
(第173話・つづく)
# あけましておめでとうございます。
# 今年もよろしくおねがいします。^^;
では、また。
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■■■■■■ 佐々木 英朗 ■■■■■■■
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