# 超長文です。

2001年と2003年の夏頃、「こんなこともあろうかと」というセリフについて
記事を投稿した天沼です。その節は、ありがとうございました。

さて、以前いただいたフォローに「明智探偵あたりも言ってそうだ」という
のがありました。当時はそれきり忘れていましたが、ちょっと前、何気なく
読んでいた乱歩作品で問題のネタに遭遇したことから、あらためて全集をチ
ェックしてみた結果、結構な数の事例を確認することができました。
というわけで、3年落ちにはなりましたが、ここにご報告いたします。

で、ついでといっては何ですが、今回もまた、これまでのまとめとか書いて
おきます。伝聞のまま自分では確認してない情報もありますし、お気づきの
点があれば、ご指摘いただけると幸いです。
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1. 代表的なネタの使い手

(1) 『宇宙戦艦ヤマト』の真田さん

いかにも連発してたように思われがちな真田さんは、実は、TV版パート2の
ときに1回言っただけ。
# 第10話。

漫画や小説関係でも、少なくとも以下の作品では言ってません。
 * 松本零士の漫画(文庫2冊の全部): パート1、パート2(中絶)、短編
 * ひおあきらの漫画: パート1(原作・藤川桂介)、『さらば』
 * 石津嵐の小説(パート1、原案・豊田有恒)
 * 若桜木虔の小説: 『さらば』、『新た』(TV版パート2の一部を含む)

ちなみに、一番最初のTV版パート1で披露された真田さんの発明類は、多め
にみてもせいぜい5つ(「秘密」兵器としては2つぐらい)。実際の功績として
は発明と破壊工作が半々くらいだったのに、なぜか前者の印象ばかりが強い
のは、やっぱり空間磁力メッキの威力かも。
# [発明もしくは秘密兵器]
# 第9話のアステロイドシップ計画、第11話のバルーンダミー、
# 第18話のシームレス戦闘機、第18話の義肢に仕込んだ爆弾、
# 第26話の空間磁力メッキ
# [破壊工作]
# 第8話の反射衛星砲、第11話のデスラー機雷、第18話の要塞島、
# 第22話のドリルミサイル

ついでにいうと、「あろうかと」と並んで映画版DVDのCFに使われたらしい
「テストがまだ」ネタのほうは、TV版パート1の時点ですでに2回登場してま
した(波動砲と放射能除去装置)。
# 第5話 「待て、テストもしてないのに、波動砲は危険すぎないか」
# 第26話「ユキ、やめろ、まだテストもしてないんだぞ」


(2) 『ウルトラマン』のイデ隊員

真田さんの先輩格としては比較的有名な人。発言回数は2回。
# 第16話と第25話。

ちなみに、発明の数は15で(半分近くは事後対策)、1話あたりに換算しても
真田さんの2倍ほどになります。「新兵器なら何でもおまかせください」と
いう発言もあるぐらいで(第27話)、「あろうかと」と発明狂キャラの組み合
わせという点でも、さきがけ的な存在かと思われます。
# 第12話のバリアマシン、第16話のパンスペースインタープリター、
# 第16話のマルス133(こんなこともあろうかと)、
# 第21話のマットバズーカ、第23話のスペクトルα線、同β線、同γ線、
# 第24話の脱出ハッチ、第25話の水爆探知機(こういうこともあろうかと)、
# 第25話の強力乾燥ミサイル、第27話のビーコン、第29話のペルシダー、
# 第32話の冷凍弾、第36話のQXガン、第37話の怪獣語翻訳機、
# 第37話のスパークエイト、第38話のニードルS80型


(3) 『サンダーバード』のパーカー

秘密兵器ネタでこそなかったものの、イデ隊員より数カ月早かったことは事
実です。発言の内容は、鉄道の車内メニューにココアがないことを嘆くペネ
ロープに、ココアを入れたポットの用意があることを伝えるものでした。
# 第09話(日本語版)。

なお、この件に関しては、TV放映時に記録を取り損ねた上、ソフトのレンタ
ルを見かけないこともあって、詳細を確認できていません。


(4) 江戸川乱歩の通俗冒険探偵小説のキャラクターたち

乱歩作品における「あろうかと」は、昭和5年(1930)の『魔術師』から昭和
31年(1956)の『魔法博士』まで、9作品で12例を確認しています。今ならギ
ャグとして扱われそうな、ご都合主義的な事例の多さが特徴です。
# 怪盗と探偵の「あろうかと」合戦をテーマにした、椎名高志の『頭脳戦』
# では、怪盗の自爆をシェルターでしのいだ探偵に、「わかっていたなら爆
# 発自体を防げ」という趣旨のツッコミが入るのですが、本家のほうの明智
# たちは、ほとんどの場合、きっちり二十面相の自爆を阻止しています。

なお、乱歩の一発逆転ネタには、もうひとつ「奥の手」というキーワードも
あって、特に少年探偵団ものでは、かなり多用されています。
# 「ワハハハ……、どうだ、おれの奥の手がわかったか」
# (1960年の『電人M』における二十面相)


(5) 『サクラ大戦』の紅蘭

web上を軽く眺めてみた印象、というか私の偏見かもしれませんが、「あろ
うかと」での知名度は、すでに真田さんに迫っているような気もします。デ
ビュー作のサターン版(1996/09/27発売)だけで6回は言っている上に、続編
やアニメなども多数製作されていることを考えると、問題のネタを紅蘭の固
有技と思ってる人がいても不思議ではありません。ちなみに、お笑い系なが
ら繊細な面を持つ発明狂らしいので、キャラクター的には真田さんというよ
り、イデ隊員のフォロワーと思われます。


2. 手持ちの資料を眺めて考えたこと

一般に「こんなこともあろうかと」の元祖として扱われることの多い真田さ
んは、実際には「たぶんこんなこともあろうと思って」と言っていたそうで
す。真田さんのように末尾に「思って」がつくパターンは、私の手持ちの資
料でも少数派で、真田さん自身とそれに先行する乱歩の事例(乱歩の場合は
「思って」の有無が半々)を除くと、『うる星やつら』の3例を含む5例(残り
は90年代の作家2人)が残るだけです。そして、この『うる星』の事例には、
次のような特徴があります。

 * 比較的早い時期から、明らかにギャグとして使われている
   1例目の登場は1981年で、真田さんの発言からは3年後、ヤマトのTV版
   パート3が終了して間もない時期(手持ちの資料のなかでは最古の「あ
   ろうかと」ギャグにあたります)。
 * すべて「思って」型である
   ちなみに、3例目(少年サンデー、1986年44号)のちょっと前には、同
   じ雑誌でR田中一郎が「思って」抜きのセリフを言ってます(37号)。

要するに、ネタのルーツが真田さんであることの証拠かもしれないってこと
です。だったらどうして「思って」型ではないセリフが定着しちゃったのか
というと、たぶん、語呂のよさとか、その程度の話なんだと思います。イデ
隊員との混同もあったでしょうし。


3. 今後

まず、ネタとして成立した時期やなんかを探る方向でいえば、ヤマトのTV版
パート1から上記『うる星』までの期間を集中的に調べたいところですが、
資料の当てがまったくありません。
# 特に、月刊OUTとか、オールナイトニッポンのラジオドラマとか。

というわけで現在は、単純に乱歩から遡る方向で、ルパンやホームズ、黒岩
涙香あたりをあたってみようかと思っとります。まあ、実際にどうなるかは
わかりません。

----- 続く -----
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AMANUMA