こんばんは, 宮本です。フォローが遅くなってしまいました。

<cfh27i$1k8b$1@news.jaipa.or.jp>の記事において
kenji@nasuinfo.or.jpさんは書きました。

kenji>>磁場を加えてやることで、スピン自由度に対するエネルギー固有値が
kenji>>分離します。即ち、磁場方向に対する Up/Down (180 度) の固有値に
kenji>>違いが出てきます。この磁場に対する Up/Down(180度) を使って 
kenji>>spinor 空間の座標軸 |up>/|down> 90度での角度を記述することが
kenji>>スピンの二価性の理由です
kenji>>
kenji>>      3 次元空間                    Spinor 空間
kenji>>
kenji>>      磁場 H    up                      ↑|up>
kenji>>      ↑↑↑ ↑                         │90度
kenji>>      │││180度                 ───┼──→ |down>
kenji>>      │││ ↓                         │
kenji>>      │││    dwon                    │

スピノル空間で |up> と |down> とが (規格直交した) 基底を張っていて, 
任意のスピン状態をこの二つの線形結合で表現できるという意味で, 上記の
右図はイメージとしては良いと思います。

あえて難点を言えば, スピノル空間に幾何学的な 90度 という概念があるのか
どうか不明という点です。直交していることから内積 <up|down> がゼロで, 
その意味では互いのなす角が 90度 と言っても良いかもしれないけど, それでも
概念として内積を |a|*|b|*cosθ に対応させた場合の喩え話にすぎません。
じつはこのことは後でも効いてきます。

左の三次元空間の図は, ちょっと問題アリです。(なお磁場方向を z とします。)
互いに相関のない多数のスピンの集団があったときの, |up> と |down> の
それぞれの平均の方向, あるいは |up> または |down> であるスピンの集団の
それぞれの巨視的な磁化の方向と言ってもいいが, それは z および -z 方向で
あるという意味では, 上の左の図は正しいといえるでしょう。

しかし単独の, 孤立した一個だけのスピンについての図としては, あやまりです。
スピンのノルムの二乗と z 成分の大きさを与える演算子をそれぞれ S2 と Sz と
します。すると教科書にある通り, S2 |up> = \hbar^2 S(S+1) |up>  ないし  
Sz |up> = \hbar 1/2 |up>  になります。S=1/2 ですから |up> の長さは 
sqrt(S(S+1))=sqrt(3/4)=sqrt(0.75)=0.866 となります。一方で |up> の 
z 軸への射影は 0.5 ですから, |up> と z軸 (すなわち磁場方向) とのなす
角 θ は, cosθ=0.5/0.866=0.577 すなわち θ=54.7度 ということになります。
すなわち個々のスピンは, z方向を向いているわけではない。z から 54.7度 の
角度をなすコーン(円錐)の方向のどこかにいる。

kenji>>このため、スピンを三次元空間の回転角 360 度回転させたとき、
kenji>>Spinor 空間では 180 度回転させたことになります。その結果波動関数の
kenji>>符号反転が発生します。

それから, スピンの二価性 (三次元空間での360度回転で波動関数の符号反転) は, 
任意の軸での回転です。磁場方向の z軸とか, z に直交する軸とか, z に斜めの
軸とか, 何でもよかったはずです。小林さんの説明では, 空間では z に垂直な軸
(無限個ある) とスピノル空間の図の面に垂直な軸 (一個) に何らかの対応があって, 
その限られた軸での回転の話になってしまっているように読み取れます。
この後半のスピノル空間での幾何学的な角度 (方向) に意味があるのかどうかも, 
やはり不明ですが。

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Ryo MIYAMOTO; rmiya@cc.hirosaki-u.ac.jp;