花びらの揺れる音から 
忘れた音色を探し出す

 小舟のきしみ 
 空のあくび
 釣り上げた魚の嘆き
 ひき殺した夜の蛙の叫び

だが そのどこにも音が潜んでいないのは
なぜだ

わたしは 街灯の影に夜毎尋ねる
だが
この世のあらゆる音は 
文字で書き上げることでしかつかまらない
波動は顔をださない

その夜 
世界の音の消えた夜
わたしは 一切の夢を忘却し 
わたしでないものたちは喉の奥に
一切の言葉を捨てた
きみたちでないものたちが 夜の中に
一切の音を隠してしまった

ならば きみたちでないものは
音を文字に引き出さねばならない
街灯のふきだまりの忘却から 
思い出せない言葉の悲鳴を つまみ出し
黄金の額縁を届けねばならない

だが
もはや夜さえ 見えなくなった
わたしは黄金の額縁をたずさえて 
明日はきみたちでないものが住んでいる街へ行く
わたしでないものとなって