結局、覚醒剤の効用は一言で言えば「活動欲求が高まり、爽快になる」
ということになるが、人格を変える作用以外にも色々な力を持っている。
 例えば、ドーパミン等が脳内に溢れるため、疲れや眠気を吹き飛ばす。
疲れていて眠いが、仕上げなければいけない仕事がある、などという時は
大きな力となるだろう。2日や3日連続の徹夜でも難なくできる。
<中略>
 まったく不思議なクスリである。まるでこの社会が奨励する人間の資質は、
すべてこのクスリのなかに詰まっているんじゃないか、と思えるほど要求に
合ったものばかりを次々と生み出すのだ。
<中略>
 いや、戦争に限った話ではない。日本の社会そのものが、覚醒剤を禁止
しながら、一方ではなぜか覚醒剤が生み出すような資質ばかりを要求してきた。
そんな倒錯も、このクスリを奇妙な位置に押し上げた原因のひとつだ。
(鶴見済「人格改造マニュアル」)

 覚醒剤と言えば「一度手を出したらやめられなくなり、いずれ幻覚・妄想や
凶悪犯罪に行き着く」恐怖のクスリのはずだ。今は第3次ブームだそうで、
確かに覚醒剤をやっているヤツはたくさんいる。なのに錯乱してるヤツとか、
覚醒剤凶悪犯なんて全然いないのはなぜなんだ。?
 実は「覚醒=幻覚・妄想・凶悪犯罪」というのは、世界でも日本だけの
“常識”なのだ。ヨーロッパへ行ってドラッグの本や雑誌を見て気づいたが、
薬害としての「幻覚・妄想」は「不眠」なんかと一緒に「やめて数日寝れば
治る」と軽く扱われていた。これが欧米の研究者の一般的な見方なのだ。
(鶴見済「檻のなかのダンス」)