永澤正雄(著):「シュレディンがーのジレンマと夢」(森北出版)が図書館に
あったので、手にとって読んでみました。

量子力学的現象を確率過程のとして解釈するというのがこの本の主旨なのですが、
そのような見解を始めて打ち出したのは、Edward Nelson であるにもかかわらず、
なんと、この本には、Nelson のことは一言も触れていないのみか、参考文献の
中にさえ、Nelson のものは無視されている。 事情に疎い人が読んだならば、
「量子力学的現象を確率過程のとして解釈する」というアイデアは、著者:永澤
正雄なる人物の独創かと思ってしまうのは必定でしょう。

電子などが stochastic なジグザグ運動をするのであれば、量子力学上の色々な
パラドックスが解明できるというのだけれど、Nelson が提唱したときからの
懸案であった、「何が原因で、電子などは stochastic なジグザグ運動をする
のか?」という問題については、この本では、全くの“頬かむり”を決め込ん
でいる。

肝腎の、「確率過程とは何なのか?」という問題に対しては、恐れ入ったことに、
「道筋の集合と確率法則を一緒にしたものが確率過程である」と“定義”され
ている(同書 p.55)。


一方、「認識論 哲学」という項目(同書 pp.124-127)には、トンデモないこと
が書かれている。

曰く;−「真理という概念はファシズムです。 真理を掴んだ(と信じた、あるい
は信じた振りをした)者がファシストになる。 そして、おまえ(のしていること)
は真理に反する、という。 そう言ってやっつける。 下手をすると殺される。
真理という概念は人間の妄想が作ったものだと思います。」

実に、トンデモない話である。 例えば、古代ギリシアのピタゴラス教団は、多く
の数学的真理を発見したが、それらの大半は教団内の秘密とされ、真理に反した者
ではなくて、真理を外部に漏らした者が殺された。

更に、「真理という概念は人間の妄想が作ったものだ」というのは、とんだ≪お笑い
ぐさ≫である。

「真理という概念は人間の妄想が作ったものだ」ということが≪真理である≫と主張
しているのだから。