妙案



家老「薩摩藩と長州藩において不穏な動きがみられる。
   捨て置くと徳川の幕府体制に大きな影響を与えるやもしれぬ。
   そちは亜米利加や英吉利の事情にも詳しい。
   なにか妙案はないか。」
策士「されば。
   電網と申すものを活用されては如何か。」
家老「電網とな?
   なんぢゃ? それは。」
策士「亜米利加語においては『いんたあねっと』と呼びおり候。
   新式の会話手段に候。」
家老「うむ。」
策士「亜米利加語においては『ぽすと』と呼びおり候が、
   薩長にて不穏なる動きをしておる急進派の輩共にこれをば知らしめ、
   き奴らに『ぽすと』をさせ申す。」
家老「ほう。」
策士「これより先は家老殿におかれましてはご理解が困難やもしれぬませぬが。
   き奴らが『ぽすと』をしますれば、
   ブラウン管上の輝度の違いのパターン、
   さらに銅線上の電子の密度のパターンの伝播、
   磁性円盤上の磁石の向きのパターン、
   これらに変化が生ずるだけでき奴らは自己満足するやうになり候。
   すなはち、物理的にはこれ何ら行動を起こしておらねども、
   何か行動したような錯覚に陥いり申す。
   さすれば薩長が官軍を編成して江戸に向かうなどの行動は無くなると思われ。」 

家老「まことか。」
策士「まことにて御座る。
   薩長の急進派の輩共は『ぽすと』を重ね、
   互いに『れれれ』と申すものを致すやうになり候。
   十数名の常連と申す輩共の内にて互いに「れれれ」を重ね、外側には影響は全く無く。
   よく言われます口こみなども実際には何ら御座いませぬ。
   『ぽすと』のみにて己の不満も義憤も理想もガス抜きいたすようになり申す。
   しかも次第に十数名の常連互い同士にて
   「お前のような馬鹿がどうのこうの・・・」
   「いやはや、またお前のいつものどうのこうの・・・」
   などとやり合うようになるは必定。
   まっこと人畜無害と化しまする。」
家老「むむむ、策士こそ欲しけれ。
   早速将軍様に献案しお許しを願わねば。」



2005年日本

家老「殿。
   科学技術方のパラレルワールドビューワーを起動して、
   あのときいち早く電網を導入していなかった世界を覗いて見たのですが、
   薩長が官軍を編成して江戸に向かい、
   慶喜殿は大政奉還し日本国は維新となっておそろしい状態になっておりましたぞ。 

   『ぽすと』を重ね『れれれ』ばかりをばいたしておった我々の世界と違い
   薩長の浪士達も新撰組の隊士達もなにごとかをなしておりましたぞ。」
殿 「おう、おう、左様か。
   まことに一人の知恵者のおかげ。
   徳川はこの後1000年は続くであろう。」
家老「まことに。
   徳川1000年に栄光あれ。」