ラプラスの悪魔

 紀元3001年、ゴッド社は、極秘で、ある壮大なプロジェクトを
立ち上げました。
そのプロジェクトというのは

 全宇宙を完全シミュレートするコンピューターをつくる。

完全シミュレートです。
近似法ではありません。
統計的手法によるものでもありません。
物質波そのものをシミュレートして、完全予測をする方法です。
量子の下の確率の問題はどう処理したんだって?
さあ、それは、天才を超えて狂人とまでいわれたゴッド博士その人に
尋ねてみないと、私にはわかりません。
ゴッド社は、このプロジェクトを、ラプラスの悪魔計画と名付けました。
天才ゴッド博士に率いられた同社は、驚くべきことに、
このラプラスの悪魔計画を成功させたのです。

 ただ、このプロジェクトには、一つだけ制限がありました。
ゴッド社は、宇宙の他の部分から完全に遮断・隔離された、
極秘のエリアに存在していたのです。
それ故、彼らは、このラプラスの悪魔の予測結果を利用して
何かをするということができませんでした。
予測対象から完全に隔離された環境では、未来が見える。
しかし、その見えた未来を利用して何かをするということが、
全くできなかったのです。

 これでは、なんのためにラプラスの悪魔を製造したのかわからない。
 ゴッド博士、なんとかなりませんか。

 ウーム。
ゴッド博士は考え込みました。
しかし、狂ったほど知能の高い博士は、すぐにある真実に気づきました。
予測結果を利用して、予測対象に何らかの作用を及ぼすためには、
このラプラスの悪魔は、その内部にラプラスの悪魔そのものを
包含していなければならない。
そして、そのラプラスの悪魔に包含されたラプラスの悪魔は、またその内部に
ラプラスの悪魔そのものを包含していなくてはならない。
それは、ちょうど、二枚の鏡を向かい合わせた時に起きる、
無限に連続する鏡と同じ現象です。
ただ一個のラプラスの悪魔を実現するためにどれだけの知力を費やしたか。
そのラプラスの悪魔の無限連続。

 不可能だな。

ゴッド博士はつぶやきました。