Thu, 17 Feb 2005 21:26:48 +0900,
in the message, <cv22hf$1qfm$1@nntp.tiki.ne.jp>,
solsys <solsys@bu.iij4u.or.jp> wrote
>法律論は素人ですので、法律論的にどうこういうつもりは
>無いのですが…(じゃあfj.soc.lawで議論するなって
>言われそう)

単純にそうとは言えないでしょう。
実務と言えども「法理論に立脚している」わけですから。

# fj.sci.lawではないですけど。

>>> (1)  実施料の徴収を目的としたもの
>>> (2)  実施させないことを目的としたもの
(中略)
>例えば(モノはほとんど作ってなくて)特許料で儲けている
>会社の一部には、あまり有用でない特許をたくさん出して
>おき、それに抵触しそうな製品が出ると、「裁判を起こされたく
>なかったらライセンス料を支払って契約してよ」とかいうところも
>あります(海外の会社ですけどね)。

それは結局のところ(1)では?
積極的に売り込まないだけで、機会在らばライセンスで稼ごうというわけで。

# 本音を言うとですね、「実施させないことを目的」というのが既に極めてあ
 いまいな物言いなのです。
 実施料の徴収を目的とする場合だって「金を払わない限り実施させない」わ
 けだし、「自分が独占実施する場合」だって裏返しが「実施させない」なの
 は前回述べた通りだし、「衛星特許その他の防衛特許」だって「実施させな
 い」のは確かだし。
 だから、「本質論から実施させないということは当然に帰結するので意外で
 はない」と述べたわけでして。
 その上で、文字通り「純粋に実施させない」という意味であれば、そんな特
 許料の無駄遣いをするところはほとんどないと述べたわけです。
 ちなみに通説ではありませんが「そもそも実施させないことが本質」と言う
 人もいます。
 えーと、以前著作権がらみで「譲渡禁止権」という田村先生の表現を利用し
 たことがあるのですが、もしかすると田村先生は知財関連の権利の本質を
 「他者の利用を禁止することにある」と考えているのかも知れません。
 ……私はそうは考えたくないんだけどね。
 特許は登録しない限り権利にならないけど著作権は無方式だから、仮令特許
 で禁止を本質と考えても著作権では禁止が本質と考えるのはいかがなもの
 か、と。

>正式な裁判をすれば勝てる
>可能性が高くても、有用でない技術のために裁判をするのは
>金銭的に得がないので、そういうことが予見できる技術に対しては
>わざわざ特許化する(少なくとも出願だけはしておいて公知の事実化
>してしまうとか)こともあります。

それはいわゆる防衛出願であり、「公知にする」と言うよりは「先願の確保」
だと思います
(少し前にニュートンかなんかの学習ソフトの特許が出願だけで審査請求が
 出ていないという話があったと記憶していますが、あれも防衛出願で端から
 特許など取る気はないということではないかと推測します。)。
確かに29条の2は「準公知」と言う場合もあるようですが、恐らくは「先願範
囲の拡大」という言い方のほうが一般的ではないかと。
それに、「29条の2がないとした場合に請求範囲外の特許を取る気がない部分
について自ら公知とするという手を使ってもいいが不確実である」という指摘
もあるところで、「その面からも29条の2は必要」という結論を帰結するとこ
ろから言えば、やはり29条の2は本質的には公知の問題ではなく先願の問題で
あろうと。

で、万一の訴訟沙汰を避けるというのは「自分が実施する可能性がある」から
では?
(もっとも特許にしないでも防衛出願だけで充分ではあります。
 とにかく先に出願しておきさえすれば特許にならなくても後願の申請は先願
 要件を充たさないので特許を取られる心配は、査定ミスがない限り、なくな
 ります。)
自分が実施するに際して万一にも文句を言われないようにするのが目的でその
手段として他人に特許を取らせないために出願すると。
それもまたいわゆる防衛特許の一種と考えてよいとは思いますが、いずれ「自
分の実施の可能性」を前提にしている話です。

# 自分が確実に実施しないのならどうでも良かろうと。

>その後、他社が使用しているか
>どうかリサーチもしない。「とにかくそのテの会社の特許にならなけ
>ればいい」的なものがあることは事実です。

えーと、他社の使用に関心を払わないということは結局(2)「実施させないこ
とを目的としたもの」ではないからだと思いますが
(「特許を取らせないことを目的としたもの」であれば話は解りますが。
 と言いますか特許制度の病理と言われることもある防衛特許は主にこれ。
 例えて、特許制度には剣と盾の面があるが日本においては多く盾として利用
 されると言ったり。)。

結局は(1)でもなければ(2)でもない。
単に「自分が'実施する際に'万一にも文句を言われないため」。
だから他人が実施しようが何しようが口出しさえしてこなければどうでも良
い。
これは、防衛出願で足りる話で、1970年に審査請求制度ができた理由でもあり
ます。
あるいは、29条の2の存在理由
(これも70年改正かな。)。


参考に述べると、「審査請求のない出願」は全出願の半分程度あります。
審査請求が出て特許となった場合に休眠化する率は6割程度になります
(もっとも、単純に「実施予定はあるが今はしない/できない」というものも
 あるので、純粋な休眠特許は4割程度ですが、それでも多いのは確か。)。

-- 
SUZUKI Wataru
mailto:szk_wataru_2003@yahoo.co.jp