毎日新聞 2003-04-25 抜粋

■プロバイダー法 発信者の身元情報開示請求で原告敗訴

 インターネット上に中傷の書き込みをされたとして、
労働者派遣会社「羽田タートルサービス」(東京都大田
区)がプロバイダー法に基づき、インターネットサービ
ス「So―net」を運営する「ソニーコミュニケーション
ネットワーク」(SCN、品川区)に発信者の住所氏名の開
示を求めた訴訟で、東京地裁は24日、請求を棄却した。
河村吉晃裁判長は「通信を媒介するだけのプロバイダー
(接続業者)は、開示請求の対象にはならない」との初判
断を示した。

 昨年5月施行の同法は、ネット上で明らかな名誉棄損
があれば、被害者が管理者側に発信元の情報開示を求め
る権利を認めている。 問題になった「奴隷労働で酷使
する」などの書き込みは、個人のホームページに掲載さ
れていた。このページを提供した業者は、開設者のメー
ルアドレスしか把握していなかったため、接続サービス
の契約を結んでアドレスを発行したSCNを相手に身元開
示請求訴訟を起こしていた。

 判決は、今回のケースが「発信者とホームページ提供
業者の1対1の電気通信に過ぎない」と指摘し、書き込み
があったサイトと直接の関係がないSCNは「請求の対象
にならない」と判断した。また身元開示について「通信
の秘密にかかわる守秘義務を解除するもので、安易な拡
張解釈は許されない」と述べたうえで、「発信者の特定
が不可能となる場合でも、法解釈としてプロバイダーに
開示請求はできない」との一般論も示した。

■■ネット上の中傷表現 解消困難に

 匿名が横行するインターネットの世界で、プロバイダ
ーは課金の必要上、住所氏名など発信者を特定する多く
の情報を握っている。憲法の保障する「通信の秘密」を
重視し「発信者情報を把握していても、プロバイダーは
開示する必要がない」とした今回の判決に従えば、ホー
ムページの管理者本人が中傷表現をした場合などの身元
追跡は、困難になる。

 プロバイダー法の身元開示請求の規定をめぐっては、
東京地裁が3月、被害者の請求を認めて掲示板を管理し
ていた「ヤフー」に初めて開示を命じた。しかし今回の
ケースで「ヤフー」と同じ立場にある業者は、ホームペ
ージを提供する際に、相手の本名などの提示を求めてい
なかったため、結果的に身元情報を把握しているのがプ
ロバイダーのSCNに限られた。こういった事態が多発す
ることは、判決も「被害者が発信者を特定するのが困難
になることも否定できない」と認めている。