佐々木将人@函館 です。

整理する意味でこの投稿にぶらさげる……。

ずいぶん良い問題だと思ったよ。
刑法を勉強している人はすべからく
きれいな説明ができるようになるべし……と思った次第。

まず正当防衛とか緊急避難とか言う前に
そういうのがない場合に成立する犯罪をまず絞らないといけないのは

>From:Yasuyuki Nagashima <yasu-n@horae.dti.ne.jp>
>Date:2003/07/08 21:55:21 JST
>Message-ID:<beeetl$as6$1@newsl.dti.ne.jp>
>
>まず当該行為が犯罪に当たるかどうかを検討する必要がありますが、
>(構成要件該当性がなければ正当防衛を検討する必要なし)

のとおり。

そこで検討してみるに
死という結果が発生した場合には
(自分の宣伝しちゃうけど
  http://www.lufimia.net/sub/keiho1/index.htm の各論の部分は、
 起きた出来事から犯罪を探すのには割と便利だと思うので
 ひまつぶしに使ってくれると作者非常にうれしい!)

>From:Yasuyuki Nagashima <yasu-n@horae.dti.ne.jp>
>Date:2003/07/09 09:20:50 JST
>Message-ID:<befn2u$1j1$2@newsl.dti.ne.jp>
>
>一般論として、刑法の犯罪を考えるとき
>「人が死ぬかもしれない」の部分が共通でも、その続きが
>「まぁ死んだってかまわないや」になるのと
>「たぶん大丈夫でしょう」になるのとでは
>前者は(未必の)故意あり、後者は故意なし(「認識ある過失」ってやつ)
>という大きな違いになるんです。

のとおりで
殺人の故意ありなら殺人罪
ないならこの場合は傷害致死罪成立です。
……ながしまさんは上記投稿で過失致死罪としているけど
  この装置は死ぬかどうかは別にして人体に作用することを想定しているし
  さすがに人体に作用すること自体については
  設置者が知っている訳でしょう?
  そうすると人体に対する有形力の行使であって
  暴行罪が成立するんじゃない?(=暴行の故意は否定できない。)
  で、傷害の結果が発生すると暴行の結果的加重犯としての傷害罪が
  さらに死の結果が発生すると
  傷害の結果的加重犯としての傷害致死罪が成立でしょう?

そしてこれは相手が誰であっても変わりなし。
というのは
錯誤のところで勉強する話だけど
例えばAさん殺すつもりでAさんを狙って発砲したら
Aさんではなく近くにいたBさんにあたってBさんが死んだ場合、
学説には分かれがあるけど
通説判例は「人を殺すつもりで人を殺した」んだから
Bさんについては殺人既遂罪を問うとしているでしょ。
そうすると相手が泥棒であろうとそうでなかろうと
「人に作用させるつもりで現に人に作用させた」以上
同じ犯罪が成立すると考えていいです。

で、じゃあ殺人罪か傷害致死罪かどっちだ?と言われた場合は
これはこれまでにあげられた情報だと決めかねるというのが正解だと思います。
まず殺すつもりが全くなかった、
まさか死ぬ訳ないと本気で思っていた場合には
絶対に殺人罪は不成立です。
一方死ぬなら死んでもいいやと思っていたら
これは殺人罪成立。

でも、装置の次第では「殺すつもりが全くなかった、まさか死ぬ訳ない」
というのは信じてもらえないというのはあると思います。
例えばまだ冷戦時代のベルリンの壁にあった
自動発砲装置みたいなのをつけてたら
信じてもらえないよ。
基準として「普通それでは人は死ぬでしょう。これ常識。」というものなら
概念上は故意なしの場合があるとはいえ
たいてい信じてもらえないと思うな……。
(もっともこれは立証の問題。)

次に正当防衛が成立するかどうかの問題。

まず相手が泥棒でもなんでもなかったら
正当防衛の問題ではないし
緊急避難もまず無理でしょ。
というのは緊急避難の場合法益の均衡が絶対的に要求されるけど
……避けようとした侵害の方が大きいって言える?
というので相手が泥棒でもなんでもなければ
正当防衛でも緊急避難でもなし。
(この場合
 誤想正当防衛や誤想緊急避難を考える余地があるかもしれないけど。
 私は消極。)

次に相手が泥棒の場合
これは緊急避難を考えなくてもいい。
で、正当防衛なんだけど、その要件について

>From:"Mina Kato" <k_mina@apple.ocn.ne.jp>
>Date:2003/07/08 06:30:38 JST
>Message-ID:<becoq8$qrs$1@nn-tk105.ocn.ad.jp>
>
>(1) 将来の侵害は急迫不正とはいえない(大判昭7.6.16)。

という指摘は正しいと思います。
ただし前田先生は
「装置が作動した時点では将来の侵害ではなく現在の侵害である」
と指摘しているんで
この要件で切ることはできないかもしれません。

しかし

>(2) 相当性の判断基準とされる武器対等の原則から均衡に失する。

こっちの要件で不成立だと思うんですよ。
確かに正当防衛の場合、法益均衡の要件は緊急避難ほどうるさくないんだけど
さすがに財産的法益の防衛のために生命まで奪っちゃうのがやりすぎなのは
おそらく異論のないところだと思います。
ですんで過剰防衛として議論するのが正解だと思います。

>  (4) 不正侵入者ではない者を機器の誤作動により死亡させてしまった場合

これは端的に「不正の侵害ではない」で切っていいんですよ。

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ルフィミア「私のアンソロ本を書くって本当?」
まさと  「それ、微妙に間違っている……。」