どうも。氷炎 雷光風(ひえん らいこふ)こと笠原です。

星矢の番外編ショートストーリーです。
一応ハーデス編直後からの話となっています。
で、根本的間違いがあるかもしれないのですが、
蛇遣い座の元の話が「医療の優れた技術の使い手だった」という記憶
を元に書いてます。
そこの部分が間違ってたら今回の話はなりたたないのですが^^;
本編が約800行くらいになったので、一応分割しています。


今回の話を書く際の参考文献は次の通り。いずれも集英社刊。

・ 聖闘士星矢文庫本15巻
・ 車田正美監修 聖闘士星矢大全
・ 聖闘士星矢 ギガントマキア −血の章−



「帰りましょう・・・光あふれる世界(ところ)へ」
アテナの化身城戸沙織は、自分を護ってくれた5人の聖闘士達に
そう言葉を呟いた。彼女を護った5人の聖闘士は数々の歴戦を抜け
てきた聖闘士であり、そして、幼馴染でもある。
だが、その言葉は哀しみに満ちていたものであった。

 その5人のうち、唯1人、生命の炎が燃え尽きようとしている
聖闘士がいたからである。その聖闘士の名は星矢。
彼は、アテナとハーデスの神々の戦いの最中、アテナの身を護るために、
ハーデスの剣をその胸に受けた。そして生命の炎、いや生命の根源とも
いうべき小宇宙が消えていく状態だったのだ。
当然急を要する事態であり、言葉よりまず行動が先であることが必要だった。

 アテナとともに地上へ戻ることが出来た聖闘士達。
冥界から地上に戻ったその先はサンクチュアリの墓地に
程近い場所だった。
地上に戻ったアテナたちの小宇宙を感じ、出迎えに現れた、
白銀聖闘士の魔鈴・シャイナ、青銅聖闘士の邪武・市・那智・檄・蛮。
喜びにあふれて戻ってくるだろうと、サンクチュアリで想像し待っていた者達に
とって、現実は残酷な結果を突きつける。

「見ての通りです。星矢の生命は一刻を争います。治療を・・・」
アテナは哀しみをこらえ、事実を告げたが、何かを思いあたったような、
ハッとした表情を浮かべた。
そんな状況の最中、貴鬼が姿を現したことに誰も気が付いていなかった。
貴鬼は牡羊座アリエスのムウに師事するいわば弟子で、サイコキネシスの持ち
主であった。
そのサイコキネシスはムウに比べれば劣るものの、テレポーテイションや
テレキネシスなど、いわゆる一般的な超能力者とは一線を画すことができる
くらいの能力を持ち合わせている。
ちなみに師匠のムウは黄金聖闘士であり、ハーデス軍との聖戦において命を落
とした。

「あばばーっ・・・た、大変だ!せ、星矢が・・・」
貴鬼がそう漏らした言葉に、星矢以外のその場にいた者達全員が声をそろえる。
「貴鬼!」

「貴鬼、見ての通りです。教皇の間へ行き、
沐浴室と向かい側の部屋に入ることを警備兵に伝えてください。」

「・・・」
アテナの言葉に従い、貴鬼は教皇の間へ駆け出していった。
貴鬼はなぜ、テレポーテイションを使わないのか?
その理由は、この場所がサンクチュアリであるからだ。
サンクチュアリの中には、聖闘士が誕生した遥か昔の神話の時代から
アテナの聖なる小宇宙が結界となり、テレポーテーションのような能力は
封じてしまうからなのだ。

「いったいどういうことですか?沙織さんいやアテナ!」
ユニコーンの邪武が詰問する。サンクチュアリで待っていた聖闘士達
なら誰でも聞きたいことを口にしたのだ。

「一輝、あなたも来てくれますね?」
「星矢は簡単に死ぬようなヤツじゃない。それはお前らもわかっているはずだ。」
こうして、一輝は何処かへと去ろうとした。
もともと一輝は単独行動派で、アテナや星矢達のピンチに駆け付け協力して
戦うタイプであるため、この言葉も一輝からすれば普通である。

「あなたの力が必要なのです、一輝。」
「どういうことだ?」
背を向けたまま、横顔だけアテナたちの方を向ける一輝。
その一輝に、アテナは言葉を返す。
「まず、教皇の間へ行きましょう。説明は道すがらします」

「というわけです・・・」と一通り説明し終えたところで、
一行は教皇の間にたどり着いた。

「言われた通りに伝えておいたよ」貴鬼が沙織達を迎えに現れた。
「ありがとう。貴鬼」沙織が貴鬼に礼を述べる。
そして、アテナは近くの雑兵に星矢を沐浴の間と反対の部屋に運ぶように
指示を出す。

「でも、いったい、あの部屋って何なのさ?
あの部屋は・・・確か、普段は立ち入り禁止になっている部屋じゃぁ?」

「沙織さん」瞬が呼びかける。
「『星矢を運べ』と指示した部屋は、沐浴室の向かいの部屋でしたね。
いったいそこには、何があるのですか?」
言葉を続ける瞬。

「そうか、思い出したぞ。以前老師がこんな事を言っておられた」
紫龍が口を開く。
「その部屋は、サンクチュアリの中でも、特に許可なく立ち入ること
を禁じられている『秘儀の間』のことだ」
「秘儀の間?何だ?その部屋は・・・」氷河が質問する。

 沙織が、口を挟む。
「皆さん、私についてきてください。そして、『秘儀の間』で全てを明かします」
そして、話に上った秘儀の間へと足を運ぶ。

 沙織が扉をあける。そこには、貴鬼によって運ばれていた星矢が
テーブルというか手術台というか、そういったものに横たわっていた。

沙織が説明する。
「皆さん。ここ、『秘儀の間』は聖闘士達の命に関わる重大な
儀法・秘法を行う部屋です。これが何を意味するか、わかりますか?」

「そうか、そういうことか」紫龍が納得し、説明を始めた。
「つまり、神々の仮死の法と言われる
『MITHOPETHA−MENOS』を星矢に施し、
治療可能な状態にするということだ。
その後治療すれば、星矢が助かるということさ」

「紫龍、それは半分だけ正解です。」沙織が答える。
「半分というのはどういう意味だ?沙織さん」氷河が質問する。

「仮死の法を施し、治療するということは合っていますが、
現代医学でも、星矢の治療を行うには、正直不可能と言えるでしょう。
ですが、その治療を行える方法があるからこそ、
貴鬼にこの部屋へ運ばせたのです」沙織が言葉を続ける。

「星矢に治療を施す方法。それは、古にアテナの名の元に、
その力を封印された聖衣の封印を解き放ち、本来の力を完全に引き出すことです。
そして・・・その封印された聖衣、その聖衣を纏う者がこの場にいます」

「誰なんだ、それは!」シャイナが言葉を口にする。
「その封印されし聖衣とは、蛇遣い座オピュクスの聖衣。
そう、今は白銀聖衣として存在しています。
そして、それを纏う者とは・・・シャイナ。あなた自身です」

「!?」シャイナは驚きのあまり声にならない。
「無理もありません。このことはアテナの化身と古の時代からの聖闘士でも
ごく限られた者しか知り得ないことです」

「しかし、封印されて白銀聖衣・・・っていうのはどういうことざんす?」
ヒドラ市が首を傾げる。

「簡単なことです。もともと古の時代には、蛇遣い座オピュクスの聖衣は、
黄金聖衣だったのです。」

「!!」
誰もが驚きを隠せない。
「そ、そんな!いったい、今の黄金聖衣は・・・」瞬が再び口を開く。

沙織が答える。
「勘違いしないでください。今の黄金聖衣も古の時代から存在しています。
ただ、他の黄金聖衣と違ってあまりにも、存在と力が大きすぎ、封印して
それを抑え込むしかなかった・・・そういうことなのです。
そしてその力こそが、医療の力・医術なのです。」

さらに沙織の言葉が続く。
「かつて黄金聖衣であったオピュクスの聖衣を纏い、その力を最高に発した
聖闘士が治療を施すと、どんな瀕死の状態の者でも治ってしまったと言います。
ですが、それほど強力だと、時として諸刃の剣となりかねません。
もう1つ。死を司るハーデスとの戦いを無用に引き起こす理由に
なる可能性がありました。そこで、
『オピュクスの黄金聖衣を白銀聖衣として封印し、通常の聖衣の能力のみ
を発揮できるようにして欲しい』と、願い出たオピュクスの聖闘士がいました。

 その願いを聞き入れ、オピュクスの聖衣は黄金聖衣としての力を封印され、
白銀聖衣へその姿を変えたのです。そして、封印された本来の力は、
この部屋全体に封じ、分離させました。さらに、許可なく立ち入りを禁ずる
ことで、滅多なことでは封印が解かれないように取り計らったのです。
もちろんですが、白銀聖衣への変更の際には、聖衣の修復などを行う能力を
持つ者の力も借りました」

 沙織の話を聞く者全てが、その事実を受け入れようとするために
静寂の中に佇んでいた。その静寂は沙織の口から語られる新たな事実によって
破られることになる。
「そして、その封印を解くには、ここにいる全員の力が必要です。
星矢を助けるために、あなたにも協力してもらいますよ。貴鬼」

「へ!?オイラも?オイラにできることなんてあるの?」
「あります。いえ、あなたにしか出来ないことです。
ムウがいなくなってしまった今では」
貴鬼の言葉に沙織が意味深な返事をする。

「貴鬼、あなたには、オピュクスの聖衣の封印を解いた後に、
黄金聖衣として復活させてもらいます。」
「え!?えぇ〜!?オイラ、そんなことできないよ。」

「いえ。やってもらわなければなりません。そうでなければ・・・
星矢は助からないでしょう。そして、貴方でなければならない理由が
もう一つあります。それは貴鬼、あなたやムウの一族が特別な一族
だからです」
「???」貴鬼は不思議そうな表情をしている。

「貴鬼、貴方達の一族はムー大陸人とアトランティス大陸人、両方の血を
受け継ぐとても貴重な血族なのです。そして、聖衣の修復などの作業に
それが影響してくるのです。」
「オイラ、ムウ様からだってそんな話聞いたことないよ」
「ええ。おそらくムウは、貴方がそれを話すのにふさわしくなるまで
話すつもりはなかったのかもしれません。残念なことに今となっては
どのような考えを持っていたのか分かりませんが。
このことは、サガの反乱終結後、ポセイドンとの戦いが始まる前のサンクチュ
アリにいた時に、ムウ本人から聞きました」

相変わらず貴鬼は疑問符を浮かべたままだ。
アテナの言葉が続く。

「もともと、ムー大陸人・アトランティス大陸人ともに高い技術力や
超能力を持ち合わせていましたが、どちらかといえばムー大陸人が
超能力を、アトランティス大陸人が技術力をより高く持ち合わせていました。
そして、両大陸間で交流が行われていました。ですが、皆さんもご存知の通り、
遥か昔にに両大陸の消滅が起こりました。
わずかに残った両大陸の人々は、生き残るために互いに手を結び、
両大陸人同士の結婚・出産が起こりました。その両大陸人が結婚して
生まれた子供たちこそ、貴鬼、あなたたちの一族の祖先であり、一番最初の
世代なのです」

「で、その話とオイラとどう関係があるの?」
「つまり、両方の力を持ち合わせている貴方だからこそ、聖衣の修復などが
行えるということです。

オリハルコンやガンマニオン、銀星砂(スターダストサンド)などの材料は、
加工技術だけでは、加工できないのです。それらの材料の原子の不安定さが
尋常ではないためです。
原子の不安定さをムー大陸人譲りの超能力で安定させつつ、
アトランティス大陸人譲りの技術で、オリハルコンやガンマニオン、
銀星砂(スターダストサンド)などの材料を加工する必要がある・・・

これで、理由がわかってもらえたと思います」

「ふ〜ん、つまり、オイラが必要だっていうのは・・・
『アテナが話したような能力をもつ血族で、その力を発揮できるから』
ってこと?」
「そういうことです。さぁ貴鬼、あなたは、これからに備えて少しでも
身体を休めておくのです。生命の輝きを失い切ってしまった聖衣の修復作業
と同等、それ以上の相当な精神力と体力を消耗するはずです。
頼りにしていますよ。貴鬼」
沙織は貴鬼にやさしく、そして信頼を込めた笑顔を見せた。

「わかったよ。オイラ、自分の出番が来るまで、身体を休めておくよ」

「しかし、アテナ。銀河戦争(ギャラクシアンウォーズ)で、最初に
射手座サジタリアスの黄金聖衣を見たとき、まったく別の姿をしていた。
もしその話が本当なら、一体どうやって、城戸光政は聖衣の形を
変えたんだ?」氷河が問う。

「聖衣を構成する材料に関しては、先刻話したとおりですが、聖衣として
存在しているものに関しては、原子の不安定さはありません。
普通の人間にも加工することができます。ただし、聖衣の修復のような
本質的加工ではなく、あくまで表面的加工だけですが」

アテナがそう言っている間に、秘儀の間から出ようとする魔鈴。
「そして魔鈴。いえ星矢の姉、星奈。あなたの力も借りますよ」

「!?」魔鈴は、動揺しているように見えるが、仮面に隠され、その表情は
読み取ることが出来ない。はっきりしているのは、アテナの呼びかけに対して
その歩みを止めたことのみである。

「魔鈴が星矢の姉とはどういうことだ?」
一輝が疑問を口にする。

「おじいさまが、あなたたち孤児を100人集めて、
聖闘士にするため世界各地に送ったよりも前、それは今から16年前のこと。
星奈、星華の2人がこの世に生を受けました。
そして、2人はそのまま何事もなく成長するはずだったのですが・・・

病院に掛け付けた、2人の母である聖奈(みな)の親族のとある夫婦に
より2人の運命が変わったのです。
当時の記録によると、その夫婦は自分達に子供がなく子供を欲しがって
いたそうです。
そして星奈が引き取られ、聖奈(みな)のもとには星華が残りました。
しかし3年後、星奈は1人になった後消息がつかめなくなりました。
そして、次に消息がつかめた時。
それは星奈、あなたが白銀聖衣、鷲座イーグルの魔鈴として存在していた
のです」

「その通りだ」遂に魔鈴、いや星奈がその口を開く。
「しかし、今は星矢を救うのが先だ。アタシのことは後回しだ」

「そうでしたね。まずは、『MITHOPETHA−MENOS』を
星矢に施します。
古より連なる、過去に存在した全てのアテナの魂よ。神の名において、
仮死の法を施すことを許し給え。そして、施されし者に、アテナと星の加護を」
アテナの言葉に、勝利の女神(ニケ)が姿を変えたという、黄金の杖が、反応する。

黄金の杖から放たれる光と、星矢の纏っている神聖衣が反応しあい、
星矢の出血が止まる。そして、星矢の鼓動のペースが落ちたことを
確認するアテナ。
「では、聖衣の封印を解くことに急いで移りましょう。」

アテナが指示を出す。
「魔鈴、シャイナ、星華さん、あなたたち3人で、正三角形に囲みます。
そして、その三角形の外側に、紫龍、氷河、瞬、一輝がひし形に囲むのです。
紫龍は東、一輝が南、氷河が西、瞬が北の位置についてください。
残りの邪武、市、那智、檄、蛮はひし形の外側に正五角形の頂点をもつ星型
に囲んでください。

そして、私がこの部屋の封印を解き始めると同時に、
それぞれの小宇宙を最大限に発揮・祈りを捧げるのです。

聖衣とこの部屋の封印が解けたとき、オピュクスの聖衣は、本来の力が戻る
ことになります。そして後は貴鬼の修復によって、黄金聖衣としての姿を取り戻す
ことで、全ての力を引き出せるようになります。

聖闘士や星華達は、所定の位置についた。
それでも秘儀の間には充分な空間のゆとりがある。

「では、始めます。私が杖をかざしたら、開始です」
3、2、1・・・カウントダウンの後、アテナが杖をかざす。

それと同時に、アテナと聖闘士は小宇宙を燃やし、星華は最大の祈りを
捧げ始めた。オピュクスの聖衣の封印を解くための秘儀が始まりを告げ
た瞬間であった。

アテナの杖から放たれる、アテナの小宇宙が秘儀の間を満たし始める。
それに徐々に反応しているからだろうか?アテナや聖闘士、星華の誰とも
違う小宇宙というか、祈りというか、そういうものが感じられ始めた。

そのタイミングを見計らったかのように、邪武達、外側の5人の燃やす小宇宙
が五芳星の形を為す。

そして、それは、身体を休めていた貴鬼に、しばしの眠りと思わぬ再会を
もたらしていた。

「ん・・・ここはどこ?オイラは、サンクチュアリの秘儀の間で休んでいた
はずなのに・・・」
「貴・・・貴・・・貴鬼」どこからか貴鬼を呼ぶ声がする。聞き覚えのある声だ。
「オイラを呼ぶのは誰?」
貴鬼の疑問に、声の主が姿を見せる。その姿は、貴鬼に驚きをもたらした。
「ム、ムウ様〜!」
「貴鬼、よく聞きなさい。あなたは、私が聖衣を修復する場面を何度も見てい
ましたね。技術的なことは、あなたの目に焼き付き、記憶されているはずです」
「でも、ムウ様・・・オイラ自信ない。しかも星矢を助けなければならない
なんて・・・」

その頃、邪武達の放つ小宇宙から創り出された五芳星により、
封印が少し弱まったのか、今までより少し強い小宇宙がオピュクスの聖衣から
放たれ始めた。そして、五芳星は最大の大きさに膨らむ。
「邪武、市、那智、檄、蛮、そのまま小宇宙を維持してください」
邪武達は、アテナの言葉に行動で応えた。

少しすると今度は、紫龍、一輝、氷河、瞬の放つ小宇宙で、ひし形の四方陣
が形作られた。龍、鳳凰、白鳥、乙女の小宇宙のオーラが浮かんでいる。

「星矢、死ぬな!まだ、お前の生命はここで燃え尽きるべきではない」
「こんなところで死ぬようなお前ではなかろう」
「俺達とともに、沙織さんを、アテナを守るんだ!星矢!」
「星矢、一緒にアテナを、生命の限り守っていこう!」
紫龍、一輝、氷河、瞬のそれぞれの言葉とともに、小宇宙がさらに膨れ上がる。
それに伴い、四方陣が大きくなる。そして、オピュクスの聖衣の封印を更に
弱める。それに伴い、オピュクスの聖衣から放たれる小宇宙が強くなる。

貴鬼のムウとの再会は続いていた。
「大丈夫です。もう、あなたは1人で聖衣の修復を行えるようになっています。
あなたも聖闘士を目指していたのですから、一度見たものを記憶することはで
きるでしょう?」
「そりゃ、ムウ様の言うこともわかるけど・・・でもオイラには・・・」
「星矢を助けたくはないのですか・・・?」
ムウにしては、少し冷たい感じのする言い放ち方だった。
「助けたい。星矢を助けたい。でも、オイラにはその自信がないんだ」
「大丈夫。『助けたい』という気持ちがあれば、聖衣の修復はできます。
あなたの小宇宙がその気持ちに反応して、自然に修復作業を導きます。
一番大事なのは、聖衣の修復を終えるまで、『助けたい』という気持ちを保ち
続けることです」
「『助けたい』という気持ちを保ち続ける・・・」
「私も聖衣の修復の時には、聖衣を纏う者を『助けたい』と思いながら作業を
していました。聖衣は身を守る、すなわち命を守るものです。その者を心底
『助けたい』と思わなければ、修復作業を続ける精神力が持ちません。
体力・技術よりかは、精神力・小宇宙が要求されるのです」
「体力・技術より精神力・小宇宙が要求される・・・」

「紫龍、一輝、氷河、瞬。そのまま小宇宙を維持してください」
アテナの言葉にそれぞれが頷きながら、今放っている小宇宙を維持する。

しばらくして、最後に残っていた魔鈴、シャイナ・星華の3人がそれぞれ持つ、
星矢に対する「愛」の小宇宙・祈りがオーラとなって正三角形を形作る。
その正三角形は、オピュクスの聖衣の封印を完全に解くために必要な最後の
図形である。

ムウとの対話を続ける貴鬼。
「貴鬼。あなたには『星矢を助けたい』という気持ちがある。そして、同じ
気持ちを持つ仲間たちがこんなにいる。きっと成功させられます」
「ムウ様・・・」
「大丈夫です。貴鬼、見事成功させて見せなさい。そして、アッペンディック
スではなく、聖闘士として周りを認めさせて見せなさい。今回の件は『星矢』
の生命を救うだけではなく、あなたが『成長する為の試練』でもあります」
「オイラが『成長する為の試練』・・・」
「そうです。これを乗り越えなければ、星矢の生命もあなたの成長もありませ
ん」
「ムウ様、とにかくオイラやってみます。見ていて!」
「貴鬼、がんばりなさい」
ムウと貴鬼の対話が終わると、貴鬼の眠りは浅いものになっていった。

魔鈴、シャイナ・星華の3人がそれぞれの思いを小宇宙・祈りに最大限に込
めると、形作る正三角形が最大限に膨らんだ。すると、オピュクスの聖衣から
今までより遥かに強い小宇宙が放たれた。

「もう少しです。オピュクスの聖衣の封印がもう少しで解けます」
アテナの言葉が、それぞれの図形を為す者達に声をかける。

正三角形、四方陣、五芳星。3つの図形が現れたことで、封印を解く為の
錠前が出来た。あとは、鍵を遣うだけである。

「秘儀の間に封じられし、古のオピュクスの力、医の力よ。アテナ城戸沙織
の名の元に、力を今再び聖衣に宿し、その力を発しなさい」
アテナの言葉と共に、アテナの小宇宙が秘儀の間全てを満たす。

アテナの小宇宙を媒介に、秘儀の間全体に封じられていた古のオピュクスの
力がオピュクスの聖衣に宿り始める。

「こ、これが・・・本当の・・・オピュクスの力・・・」
シャイナは思わずそう漏らしていた。
如何に自分の聖衣と言えども、白銀聖衣としてのオピュクスの力しか知らなかっ
たため、出てしまったのだろう。

「今こそ、全ての力を聖衣に。そして、医なる力の目覚めを!」
アテナのこの言葉により、オピュクスの聖衣への力の宿りが最大限に加速する。
オピュクスの聖衣から放たれる小宇宙が今まで以上に強くなってゆく。
全ての医の力から聖衣に宿り終えると、白銀聖衣には収まりきれぬほどの小宇
宙が、オピュクスの聖衣からこぼれ出て放たれている。

「これほどの力が秘められているなら、確かに『封印』することも必要かもし
れない」瞬の言葉に誰もがそう思っていた。

「う・・・ん・・・」
貴鬼が、眠りから目を覚ます。そして、オピュクスの聖衣から小宇宙があふれ
出ていることを目の当たりにする。

「これが、オピュクスの聖衣の本当の力・・・」
貴鬼は、そう呟いていた。

「お姉ちゃん、いやアテナ。ここからはオイラの出番だね。絶対にオピュクスの
黄金聖衣を復活させて見せるよ!」
貴鬼の言葉に誰もがそれが実現することを願っていた。
「ええ。後は頼みますよ。貴鬼」

アテナにそう言われ、オピュクスの聖衣の周りを調べる貴鬼。
「すごい小宇宙と聖衣の命の脈動だ・・・」
小さく口に出しながら、オピュクスの聖衣に触れようとする貴鬼。
「!?・・・今のは?」
「貴鬼、どうした?」紫龍の言葉に貴鬼は答えなかった。
もう一度オピュクスの聖衣に触れようとする貴鬼。
「! やっぱり・・・すると・・・!」
貴鬼は、何かを確信した表情を浮かべた。秘儀の間を出ようとする貴鬼。

「? 貴鬼、一体どうした?」氷河が貴鬼の背中に向かって言う。
「オピュクスの黄金聖衣の復活には、ノミや金槌が必要なんじゃない。
必要なのは・・・黄金の短剣さ!」
「黄金の短剣・・・て、アテナが冥界に行く為に喉を自らついた、あの?」
瞬の疑問は最もである。
「そうさ。でも、瞬。あの短剣は、それだけの為に存在していたんじゃなかっ
たんだ。オイラ、オピュクスの聖衣に触れようとして、あるヴィジョンが見え
た。そのヴィジョンには、驚くべきことが見えた。それをこれから見せてあげ
るよ」
そう言って貴鬼は黄金の短剣を求めて、秘儀の間を出ていった。
「はぁはぁ・・・あった。コレが必要なんだ!」
そう言って、戻ってきた貴鬼は黄金の短剣を握り締めた。
「黄金の短剣・・・オイラの気持ちと小宇宙に応えて、オピュクスの黄金聖衣
の姿を導け!」
「これが、貴鬼の小宇宙?」
その場にいる誰もが初めて感じる貴鬼自身の小宇宙であった。
「貴鬼、一体何故小宇宙を燃やせるようになった?」
紫龍の問いは貴鬼の耳には、全く届いていなかった。

貴鬼の気持ちと小宇宙に反応し、本来のすなわち黄金聖衣としてのオピュクス
の姿を取り戻す為に、黄金の短剣が貴鬼を導き始めた。

「よーし、これから一緒に本当の姿を取り戻そう!」
その言葉を聞き、他の者達は貴鬼を見守ることにした。


「魔鈴!星矢の姉である『星奈』とはどういうことか、説明してもらおう」
魔鈴はシャイナの言葉に黙っていたが、やがて「わかった」と返事をした。

「アテナが言った通りさ。ちなみに星華さんはアタシの妹になる」
「あなたが・・・私の姉さん?」星華は信じられないという表情を浮かべなが
らそう言った。

「信じられないのも当然だ。だが、事実なのさ。さて、どこから話そうか?」
「魔鈴さん、いえ星奈姉さん・・・どうして私達は別れることになったの?」
「アタシ達の母さんの名は、聖奈(みな)。アタシを引き取った母さんの親族
夫婦というのは、子宮摘出で子供を全く望めない状況だった。だから、母さん
が授かった2人の子のうち、1人を自分達の子として育てさせて欲しいと頼み
込んだのさ。
 悩みに悩んだ末、母さんは結論を出した。1人を預けるという結論を・・・
アタシ達を産んだ当時、母さんは、城戸光政からの援助なしには、生きていく
のもやっとの有様だった。だが、城戸光政に援助を求めたりしなかった。
それどころか、城戸光政からの援助を断るくらいだった。余計な負担をかけさ
せたくないと周りの人間に言っていたようだ」
「そんなことが・・・でも一番不思議なのは、どうして姉さんが、星矢と同じ
ように聖闘士になっていたかなの。何故なの?」

魔鈴は、その問いが来ることは分かっていたのだろう。
少しばかり天を見上げたあと、意を決して星華と向き合った。

「アタシを引き取ってくれた母さんの親族夫婦は、2人とも考古学者だった。
そして、城戸光政がアイオロスからアテナを託されるよりも前にサンクチュアリ
の存在を掴んでいたのさ。だが、確証を示すほどのものを見つけられないでいた。
そんな状況下でアタシを育ててくれながら、3年の月日が経過した。

Message-Id: <20031214132954.5142780.-683898872@uranus.interq.or.jp>
へ続く。

ではでは。
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笠原 励(氷炎 雷光風/ひえん らいこふ)12/9までfj.*第10期委員選出投票実施中!
cuncuku@uranus.interq.or.jp −受信専用−cuncuku@yahoo.co.jp
オリジナルストーリーの感想・選管活動に関しては、if_tlw-lj@infoseek.jpまで。
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