Path: ccsf.homeunix.org!ccsf.homeunix.org!news1.wakwak.com!nf1.xephion.ne.jp!onion.ish.org!news.daionet.gr.jp!news.yamada.gr.jp!newsfeed.media.kyoto-u.ac.jp!cancer.nca5.ad.jp!133.16.26.50.MISMATCH!nns!chiaki From: chiaki@kit.ac.jp (Tsukamoto Chiaki) Newsgroups: fj.sci.math Subject: Re: Quiz_06iv2004(解答) Date: Thu, 27 May 2004 00:00:05 +0900 Organization: Kyoto Institute of Technology Lines: 77 Message-ID: <040527000005.M01473721@ims.kit.ac.jp> References: <800c7853.0404130611.3be17e79@posting.google.com> <800c7853.0404261928.68658456@posting.google.com> <800c7853.0405051641.611172c9@posting.google.com> <800c7853.0405071024.3ef9ca4f@posting.google.com> <409C6E9A.70900@slis.tsukuba.ac.jp> <800c7853.0405080820.1124ffd0@posting.google.com> <40A730B7.4070106@slis.tsukuba.ac.jp> <40B2325C.3060907@slis.tsukuba.ac.jp> <040525171518.M01115131@ims.kit.ac.jp> <40B46835.3030403@slis.tsukuba.ac.jp> NNTP-Posting-Host: ims.cis.kit.ac.jp Mime-Version: 1.0 Content-Type: text/plain; charset=iso-2022-jp X-Trace: nns.kit.ac.jp 1085583605 5812 133.16.16.10 (26 May 2004 15:00:05 GMT) X-Complaints-To: nns NNTP-Posting-Date: Wed, 26 May 2004 15:00:05 +0000 (UTC) X-Newsreader: mnews [version 1.22PL5] 2001-02/07(Wed) Xref: ccsf.homeunix.org fj.sci.math:1149 工繊大の塚本です. In article <40B46835.3030403@slis.tsukuba.ac.jp> Yuzuru Hiraga writes: > うーん。話が見えていないのですが、 > 高階の微分(というか、導関数)はテンソルで表現されるといった話ですか? >  # 例えば杉浦光夫:「解析入門 I」 pp. 134, 148-149 手元には高木貞治の「解析概論」も杉浦光夫の「解析入門」も ありませんので, 書いてあることの繰り返しになるかも知れま せんが, 「導関数」ではなく「微分」の話です. 多変数の場合で良く分かるように, 関数の微分というのは実数 に値を取るのではなく, (接空間ではなく, 接空間から実数への 線形写像全体である)余接空間というベクトル空間に値を取る ものです. # ちらと見た時の記憶に基づいて書くと, 「解析概論」でも # 点 x での微分 df は, より正確に書くと df_x, 或いは df(x), # いや, (df)(x) かな, は # # ((df)(x))(Δx) = f'(x) Δx # # という Δx の関数であるという書き方になっていますね. # ()内に「 x は止めて, Δx が変数だと考える」といった # 記述があった筈. # つまり df は「関数」値関数. そういう実数値関数でないものの「微分」を定義もなしに導入する とは高木貞治もエムシラ……もとい, 初学者が混乱しないようにか, 混乱しても構わないとしてか, 曖昧な書き進め方をした責めはある だろうと思います. (有限次元)ベクトル空間 V, E に対して, V の開集合 U 上定義 された E に値を取る関数 F: U → E についての解析学から始め るなら, V から E への線形写像全体を L(V, E) で表すことに すると, F: U → E の微分 dF は(存在するとすれば) dF: U → L(V, E) として定まりますが, その微分 d(dF) は, L(V, E) がベクトル 空間ですから, 同じように(存在するとすれば) d(dF): U → L(V, L(V, E)) として定まり, 更に高階のものを考えるのも同様です. 無論, これだけでは不十分で, L(V, L(V, E)) が V×V から E へ の双線形写像の全体 BL(V×V, E) と同型であり, 又, V と V との テンソル積 V(×)V から E への線形写像の全体 L(V(×)V, E) とも同型であり, 又, V(×)V の双対空間 (V(×)V)^* と E との テンソル積 (V(×)V)^*(×)E, 或いは V^*(×)V^*(×)E と 同型であるというのも押さえておかなければなりません. 又, d(dF) が連続であるとかの良い性質を持てば, 対称な双線形写像 に値を取ることなども必要でしょう. このような設定の下で, 実数値の関数 f と ベクトル値の関数 F と のスカラー倍 f F の微分 d(f F) が df(×)F + f dF になる ことを証明し, 定ベクトル値関数 C の微分が 0 になることを示せば 実数上の実数値関数 f についての d(df) = d(f' dx) = df'(×)dx + d(dx) = f'' dx(×)dx は自然と得られます. もっと高階のものについても同様. 但し, このようにして得られる高階の微分の美しさは「ベクトル空間 の開集合で定義されたベクトル値関数」という理想郷においてのみ保 たれるので, 座標変換のある世界に一歩踏み出せば雲散霧消してしま うのはその通り. そこでどうするかは又別の話. -- 塚本千秋@応用数学.高分子学科.繊維学部.京都工芸繊維大学 Tsukamoto, C. : chiaki@kit.ac.jp