ぼそぼそと女が話す声が聞こえている。話を聞いているのは遠慮
の無い親しい間柄らしいが、話の内容には全く興味がないらしく、
ときたま気の無い相槌をうつ。
ただし内容は言葉の断片がわずかに聞き取れるだけ。
「……物質生命科学……、…特撮マニア………冬月教授……」

そこによく玄関の扉についているような鐘をカランカランと鳴らし
て人が入ってきた。ごそごそと絹ずれのおとがすると話し声が止む

「はぁーい、ただいまーです」
「おかえりぃー」
「あれぇおねえちゃん早かったのね」
「そんじゃはじめようか」
「うんうん」
「水野家からみずきけぇ〜」

明るいアップテンポのテーマソングが鳴り出す。
「このラジオは水野家の3姉妹の平凡な日常を描くものです
 過度な期待はしないでください
 それと文字コードはJIS X 0201-1976でフォントは Computer Modern 
 の8ポイント表示にしてパソコンから1m離れて観やがってください」

「それでは自己紹介ね、長女役の天羽優子と」
「次女役小路真木子です」
「三女で姫ちゃん役の水野夢絵17歳です(←をいをい)」
「むゑタンちょっと待て」
「にゃー」
「あんたが(仮にも)17歳とするなら私もそれなりの歳でいいのか?」
「すると私は19歳だな」
「ちょっとまってください、お姉さま
 そしたら次女の私は18歳ですか、わたしらは年子ですか」
「ならマッキ―は40歳でもいいよ」
「なんで次女のわたしが40なんです、わたしはおかあさんですか」

抗議の文言をぐだぐだ並べる小路を無視して天羽はむゑを手招く
「むゑ、むゑ、こっちおいで」
「にゃーですお姉さま」

むゑがとっとこ天羽の隣に座ると、小路が遅れまいとむゑを
挟むようにしてその隣に場所を占める。
「ところでむゑ、お相手の男の子はどうした?」
「にゃ?」
「ほらほら、なんとかというラジオのパーソナリティを一緒にやっている
 なんかオタクっぽくて、チェリーな感じの」
そこに小路割りこむ
「そこなのですお姉さま、
 このお気楽極楽娘は心無い一言をそのチェリーくんに浴びせたに違いないのです
 かわいそうに、チェリーくんは傷心の余り
 北海道一周自転車旅行のでてしまったのです
 ああ、おかわいそうなチェリーくん……」

きょとんとしてなにも言い返さないむゑに天羽が尋ねる
「どんなことを言ったの?」
ぶんぶんと首を振り否定するむゑを押しのけて小路が続ける。
「お姉さま、この末娘の偽りの姿に騙されてはいけません
 実はわたしが掴んだ情報によりますと
 チェリーくんこと柏崎は学会で上京して来ているのです
 表面上はスケジュール的に二人が会うことは不可能なのですが」
「んじゃ会ってないんじゃん」
「いえいえ、そう考えるところが素人の浅はかさ」
「おまえさっきからわたしに喧嘩売ってないか?」
「なにをおっしゃいます
 わたしはお姉さまの忠実なシモベでございますよ
 『ロデム』とおよびください」
「わたしはバビル2世か」
「そうではないのです
 この末娘は今流行りの『腐女子』なんかもやっていますが
 実は、おんな西村京太郎の異名を取る『鉄子』でもあるのです
 松本清張ばりの鉄道の乗り継ぎを考えることなど
 お茶の子済々、『点と線』なのです
 そしてわたしの推理では
 緻密な乗り継ぎ指示で呼び出された被害者は
 この悪魔の毒牙にかかってしまったのです」
自分の熱弁に陶酔する小路がふと見ると、天羽とむゑはお茶を啜ってテレビを見ている。
「ああっ、二人ともわたしをガン無視ですか!」

落胆した小路が静かになったのを見て天羽がぼそぼそと話し掛ける。
「ところで次女よ」
「なんでございましょうバビル2世さま」
「それはもうええっちゅうねん」

上の姉たちのぼそぼそ話を知ってか知らずかむゑはぶさいくな
クマのヌイグルミと遊んでいる。
「この話の設定のモトネタはどういうものなのか知っているか」
「いいえ、わたくしもぜ〜んぜん承知していないのでございますわ」
「いったいこんなだらだらしたやり取りのどこが面白いのだろう」
「そこはそれ秋葉原の特殊な文化というやつで
 胡乱な妄想に走る輩が好んで飛びつくのでございましょう」
「熟女マニアとか?」
「いえいえ私たちは設定上はハタチ前ですので」
「マッキ―だけは40じゃなかったのか」
「わたしも18歳ということでよろしく」
「とりあえずむゑに聞いてみるか」
「左様でございます」

ヌイグルミのクマとごろごろしているむゑに天羽が声をかける。
「むゑ、ちょっと聞きたいことがあるのだが…」
「にゃ〜」
「この話はどのくらい続くのかな?」
「お姉さまはもうオワリにしたいですか」
「う、うむ、むゑと一緒にいるのは楽しいが一応仕事とかもあるし」
「それでは今日はここまです」
「え、ええっ、そんなに突然に終わっていいのか、
 えーっと、長女役の天羽優子と」
「次女役小路真木子、18歳(←あのね)」
「そして三女で姫ちゃん役の水野夢絵17歳でした(←をいをい)」

ぷつんと切れる。

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のりたま@フィ、フィクションですよ