Re: 「ムエの旅〜The WindingRoad〜」
濃い緑の山道を、一台のランドナ (注・自転車。空を飛ばないもの
だけを指す) が走り抜けていく。北海道にも三国峠がある、という
ことを知らないであろう本州人は放っておいて、ランドナは一人の
旅人を乗せてただ走り抜けていく。
「別にしゃべる自転車役でもいいけど、どちらかというと折り畳み
自転車の方が好みなんだけどね」
「なんかいった、ホクナン?」
「ちょっとひとりごと。
−−っていうかムエ、もっとペースあげられないの?」
「登り坂ばっかで疲れてるの。
それよりホクナンこそ電動パワーアシストとかないの?」
「ランドナにそういうのは求めちゃだめ。基本は巡航モデルだし。
れおぽんみたいに 18 まんえんとか出してくれるなら別だけど」
「これも格差社会ってやつだね。
きっとれおぽんは今頃、萌え CG に囲まれてうはうはだろうな」
「それが終わったらこんな山じゃなくて、海沿い北上だって」
「きっとあんな海の幸とかこんな海の幸とかたっくさん食べながら
楽しいサイクリングなんだろうなー」
「格差社会ってやつだねー」
ランドナと、ムエと呼ばれた旅人 (注・女性。とうが立たないもの
だけを指す) の二人の会話が途切れる。山のほうから聞こえてくる、
聴きなれない音色の鳥のさえずりがそよかぜにのり流れてくる。
ふとなにかを思い出したかのようにホクナンが話しだす。
「いま気が付いた
僕すげー羨望のまとかもしれない
そう考えたらうれしいかも」
「どうして?」
「ムエのことだからこの先下ったところで、旧士幌線全駅跡踏破を
目指す旅とかやるだろ?」
「もちろん。−−それで?」
「そしたらこの先には温泉がある鹿ノ谷とか糠平とかがあるからさ」
「−−いいけど、入ったらかたまったりさびたりするよ?」
「あえて挑もうかと」
「そう。
−−ところでホクナン、ちょっと止まってもらえるかな?」
「どうして?」
「まあいいから、ちょっと。」
ムエはホクナンをスタンドでたてると、微妙な距離を置く。
ハンド・パースエイダー (注・パースエイダーは銃器。この場合は
拳銃) をホクナンに向けて構えて。
嫌な予感を覚えたホクナンが、予感を言葉に代えて聞く。
「−−ひょっとして、あれ?」
「そう、あれ。」
「まあ、ムエ、『ちょっと』欲張ってたからね。
でもそういうのはさ、ムエなら僕に乗りながらでも、ね?」
「この方が確実だ。−−あきらめて」
「そんなー……」
やがて、ホクナンのそばにかなりの量欲張ってムエが積んだ食料を
かぎつけて、山親爺 (注・クマー。笹の葉かついで鮭しょっている
もののみを指す) がにじり寄ってくる。
ムエが感じた気配から思っていたよりも大きく、静かに『森の人』
から『カノン』に、ハンド・パースエイダーを構え直す。
「せっかくの出番なのにどうしてこんな目にあうのー」
そんなホクナンの嘆き節を聞きつつ、ムエは山親爺をカノンで撃つ。
山親爺ごとホクナンもぶっとばしながら。
「毛皮もいいけど、熊のいもいい感じで売れるんだ。
−−これで僕もれおぽんみたいにあんな海の幸やこんな海の幸に
舌鼓を打てる」
「ひどいよムエ」
「今回は事故でランドナが壊れたのでここで中止!
−−仕方ないからご飯だー」
「事故じゃないじゃん。っていうか走ってるじゃん」
「−−じゃあ壊す?」
「それはやめて」
旅人は壊れたということにしたいらしいランドナで、十勝へ抜ける
坂を矢のようなスピードで下り去っていった。
ほくなん % 増毛の 食材を 積んで
(それはみっく三國シェフ食べる)
Fnews-brouse 1.9(20180406) -- by Mizuno, MWE <mwe@ccsf.jp>
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