「雪山の国」 -Skiing, Not Skying-

> 「それでBMWを買ったのはここでいっぱつ女の子でも引っ掛けよ
>  うというつもりじゃないんだよね」

  ベエムベ (注・自動車。空を飛ばないものだけを指す) は、それ
ほど苦もなく左ハンドル・右手マニュアルを使いこなしている男に
尋ねました。
  買ったばかりとはいえ、早速五百キロ、一日七時間運転に峠二つ
越えという冬道訓練を兼ねたドライブを終えた男は、退屈さを持て
余しつつその声に答えました。
「正直ね、最近それでもいいなと思ってるんだよ、エルメス。
  買ったときはそんなこと、思ってもみなかったけど」
「そりゃまた」
「新年会の時にずっと彼女がいないって話からいきなりホモ疑惑を
  かけられた身としては、まずきっかけでもいいから引っかかって
  くれれば御の字さ。」
「さいで」
「大体みんな何だよ、いきなり『ホモ、ホモ』って。
  っていうか『じゃあこの職場の女の人でいうなら誰が』とか。
  そもそもうちの職場、妙齢の女性って三、四人しかいないだろ。
  しかもそのうち二人を目の前にしてどうしろと。どんな罰だよ。
  名前出しても出さなくてもしゃれじゃすまないじゃないか。」
「どうやってのりきったの?」
「秘密」
  新春早々、職場でリアルに嫌な思いをした男を乗せて−−
  そういいつつもアイスバーンへのトルクを絞るように優しくかけ、
ベエムベと男は北海道の雪道を駆け抜けていきました。

> 「じゃあ、ほくなんはこの車に乗っていて、
>  道端で困っている女の子が居ても
>  親切な言葉をかけて乗せてあげよう
>  なんてことはするつもりはないんだね」
> 運転席でハンドルを握り締めるほくなんと呼ばれた男は本当に心外
> そうな顔をして嘆息する。

「それはそれだよ、エルメス。でも本当に困ってるのなら、ね。
  道端で困っている女の子っていうシチュエーション自体が、何か
  あからさまに怪しいじゃないか。
  後ろからカメラ持った男が出てきてヒッチハイク企画番組とか、
  どうせそんなとこだろ?
  別に何でもかんでも捕まえようってわけじゃないさ」
「本当かな。最近ほくなん、速球浪漫だから」
「……『欲求不満』?」
「そうそれ」
「ってなにげに失礼なこといわないこと。
  ハイオクじゃなくてレギュラー満タンにするぞ。」
「そりゃ勘弁」

> BMWは市街地を流れるように通りぬける。交差点の信号すら歓迎
> するように青に変わり、停滞することはない。
> 「ふーんそうなんだ。
>  でもね、すぐ500メートルの先になんか困っているような
>  女の子が助けを求めているようなんだけど、
>  彼女きれいだよね」

「カマかけたって無駄だよ。」
> 「……」

「……どうしてわかったの?」
  エルメスが聞きます。
「簡単なことだよ。
  きれいな女の子が助けを求めているなら一キロ先で気づくからさ。
  伊達に左ハンドルには乗ってないよ。」

  左ハンドルとかいう問題か?というエルメスの疑問は声にならない
まま−−
  市街地からスキー場へ向けて−−

  ほくなんの伴侶を探す旅は続いていきました。

  終わりがあればいいのだけれど。

> BMWの世界にようこそ@のりたま

ほくなん % のりたまさんも BMW なんですか?