Re: Kamikaze Kaito Jeanne #40 (12/18)

携帯＠です。

# 本スレッドは「神風怪盗ジャンヌ」のアニメ版第４０話から
# 着想を得て書き連ねられている妄想スレッドです。
# そういう２次創作物が嫌いじゃ無い方のみ、以下をどうぞ。

# ……と書きつつ、実質「カードキャプターさくら」妄想であったりします。
# 今回は４回目。

　それぞれの使命を帯びて、別々の場所で働いて来たさくらとまろん。
　同じ日本で同じ時期に動いている二人がもしも出会ったら…という設定で、「神風・愛
の劇場」シリーズの中でも何度か二人が共演する話がありました。先々週から続く番外編
は、「神風・愛の劇場」本編にさくらちゃん達が登場した、神風・愛の劇場　第１７２話
において、さくらちゃん達がどのように動いていたのかを描くものです。

５回連続予定のその４です。

その１は、<newscache$w4dgoi$tc5$1@news01e.so-net.ne.jp>から、
その２は、<newscache$2ppsoi$ouk$1@news01f.so-net.ne.jp>から。
その３は、<newscache$l2o4pi$8nl$1@news01e.so-net.ne.jp>からどうぞ。

　以前のさくら＆ジャンヌ妄想のことをお忘れの方は、以下からどうぞ。

★ＣＣさくらVS神風怪盗ジャンヌ　〜激突！　視聴率争奪戦（嘘）〜

<8fmjm7$fhl$1@news01bd.so-net.ne.jp>からのスレッド
http://ccsf.homeunix.org/ccs/ccsF-list5.html#Jeanne
（CCSF）

★カードキャプターさくらF 第10話「さくらとまろんと冬の海」 

<9leqm1$gt3$1@news01cd.so-net.ne.jp>からのスレッド
http://ccsf.homeunix.org/ccs/ccsF-list12.html#F-10
（CCSF）

　既に第１７２話のことを忘れてしまった方は、以下から参照して頂けると幸い。

（その１）は<bnvv4r$p9c$1@news01de.so-net.ne.jp>から
（その２）は<bol12s$5cr$1@news01cj.so-net.ne.jp>から
（その３）は<bpanfp$235$1@news01cb.so-net.ne.jp>から
（その４）は<bpsnob$hnq$1@news01cb.so-net.ne.jp>から
（その５）は<bretjg$k62$1@news01dj.so-net.ne.jp>から
（その６）は<budosi$mf3$1@news01dg.so-net.ne.jp>から
（その７）は<bvibt5$6bs$1@news01cb.so-net.ne.jp>から
（その８）は<c05ag2$aqq$1@news01di.so-net.ne.jp>から
（その９）は<c12ghi$g3q$1@news01de.so-net.ne.jp>から
（その10）は<newscache$sfa7uh$klk$1@news01a.so-net.ne.jp>から
（その11）は<newscache$9pfavh$4kg$1@news01a.so-net.ne.jp>から
（その12）は<newscache$t8l1xh$f2h$1@news01d.so-net.ne.jp>から
（その13）は<newscache$d6j5yh$q4j$1@news01e.so-net.ne.jp>から
（その14）は<newscache$sjiiyh$nsj$1@news01d.so-net.ne.jp>から
（その15）は<newscache$vkkgzh$hqd$1@news01b.so-net.ne.jp>から
（その16）は <newscache$mxh60i$oqb$1@news01e.so-net.ne.jp>から
（その17）は<newscache$03mh0i$c1i$1@news01e.so-net.ne.jp>から
（その18）は<newscache$n8rc1i$7l8$1@news01e.so-net.ne.jp>から
（その19）は<newscache$bmku2i$ss9$1@news01e.so-net.ne.jp>から
（その20）は<newscache$utnv3i$3mc$1@news01e.so-net.ne.jp>から
（その21）は<newscache$xvgx3i$zjj$1@news01e.so-net.ne.jp>から
（その22）は<newscache$8c5l4i$42a$1@news01b.so-net.ne.jp>から
（その23）は<newscache$mu7l4i$4d5$1@news01a.so-net.ne.jp>から
（その24）は<newscache$9kdl4i$164$1@news01e.so-net.ne.jp>からそれぞれどうぞ

　それでは、「レリーズ！（封印解除）」（←実質、さくら妄想なので）


★神風・愛の劇場　番外編『さくらとまろんと遊園地』（その４）

●ジェットコースター・『ネプトゥヌス』の近く

　少女を助けたさくら達は、取りあえず近くの陸地へと降り立ちました。
　ジャンヌが出現したために来場客が避難したためか周囲に人影は無く、さくら達が見と
がめられることはありませんでした。

　さくらはユエが抱いている少女の顔をしげしげと眺めます。

「この娘、まろんさんの…」

　ユエが助けた少女に、さくらは見覚えがありました。
　自分の命を助けてくれた大恩人。日下部まろんの友人の筈でした。

「知っているのか？」
「ああ。さくらの命の恩人の友達や」
「まろんさんもあのコースターに？」
「なら、あそこに運ぼう」

　ユエの提案で、少女をジェットコースターの駅舎に運んで行くことにしたさくら達です
が。

「おい待てさくら！　あっちを見ぃ!!」

　ケルベロスが叫びました。
　彼の首の指し示す方角を見たさくら達。
　そこでは、新たな戦いが激しく交わされていました。

「ほぇぇ!!　怪盗ジャンヌさんが…二人!?」
「どちらが本物なんや？」
「どうする？」
「決まってるよ！」

　さくらは再びフライのカードを用いて空に舞い上がりました。

「この娘どないするんや！」
「ケロちゃんお願い！」

　それだけ言い残し、さくらはコースターに向けて飛んで行きました。

「何やて!?」
「…主の命だ。悪いな」

　ユエはそう言うと、近くのベンチに少女──都──を横たえ、さくらの後を追いました。

「お、おい。待て！　…わいにどないせぇっちゅうんや」

　残されたケルベロスは、ベンチに横たわる都を見てため息をつくのでした。


●ジェットコースター・『ネプトゥヌス』上空

　再びジェットコースター・『ネプトゥヌス』の近くに辿り着いたさくら。
　ジェットコースターの上では二人のジャンヌが激しく戦っていました。
　勝負はあらかたついていて、片方のジャンヌがもう一人のジャンヌを新体操のリボンの
ようなもので拘束していました。
　どちらを助けたものか。さくらは現場近くまで来て戸惑っていました。

「どっちが本物なんだろう？」
「判らんな」

　首を傾げたユエ。しかしその一方で、現在追い詰められている方が偽物なのではと考え
ても居たのです。

「だが、どちらか片方は人間では無い。そして恐らく…」
「ユエさん！　あれ!!」

　二人のジャンヌの間に、黒い影が割って入りました。
　片方のジャンヌを拘束していたリボンを剣で切り裂き、その黒い影が正体を現しました。
　暗がりで判らないものの、それが白い翼を持つ少女だということは判りました。

「翼…。あれは、何!?」
「天使…。まさか、実在していたとは」

　ユエは驚きの表情を隠せません。

「天使？　じゃあ、天使と戦っている方が偽物のジャンヌさんなの!?」
「何故、そう思う？」
「怪盗ジャンヌさんは悪魔さんを封印する時、『神の名の下に』って言ってた。天使は神
様の使いなんでしょ？　だったら…」

　さくらは、今“天使”と戦っているジャンヌと先程まで追い詰められていたジャンヌの
方を見比べます。きっと、天使に守られている方が本物の怪盗ジャンヌさん。そう思い、
さくらが助けに行こうと動きかけました。

「さくら！　何かが近づいて来る!!」

　ユエが警告の声を上げました。

「え？」

　ユエが指差す方向を見ても、さくらの目には暗闇しか見えません。

「何？」
「感じないか。あのヒトの形をした龍のニオイだ」
「ほぇ？」

　惚けた声を発していたさくら。
　しかし、やがて目を暗闇の一点に見据えます。

「あの娘なの？」
「あぁ。近づいて来る。まずは、こちらが先だな」
「うん」

　さくらは肯くと、ユエと共に暗闇の向こう側にある敵──エプロンドレスの少女──に
向け飛んで行きました。

「（本物のジャンヌさんは、天使さんがついているから大丈夫、だよね）」

　そう、心の中で言い訳をしながら。


●水無月ギャラクシーワールドの近く・海上

　暗闇の中、さくら達は先程戦った少女の気配に向け飛んで行きました。
　彼女の実力を知るさくらは、ユエの助言に素直に従い、真っ直ぐ気配には向かわず海側
を回り込むように進んで行きました。
　驚異的な跳躍力を持つ彼女も飛ぶことだけは出来ないらしいからです。

「あの子の様子は？」
「海沿いを跳躍を続けているらしい。待て！」

　怪盗ジャンヌが出現したためでしょうか。
　海上には海上保安庁の巡視船がこちらに向かって何隻も航行していました。
　その内の一隻が、大きく傾ぎ、直ぐに元に戻りました。
　やがて、さくら達の方に向け近い方向にあるもう一隻が同様に傾ぎます。

「あれが!?」
「源義経を気取っているのか」
「よしつね？」
「歴史の時間で習わないのか？」
「だって、歴史は六年生でやるんだもん！」
「その話は後だ。…来るぞ」

　さくらは杖を構え、取りあえずシールドを展開します。
　直後、シールドに衝撃が走り、さくら達は跳ね飛ばされました。
　予め衝撃を予想していたため、さくらはすぐに体勢を立て直しました。

「次、来る！」

　さくらの足下に浮かんでいた艀を足場に、エプロンドレスの少女がさくらに向かって来
ていました。
　今度の攻撃もシールドが阻みましたが、これまで一撃離脱に徹していた少女は今度は蹴
りと突きの連続攻撃を仕掛けてきました。

「きゃっ」

　少女が攻撃を繰り返す度、さくらはシールドの中を右に左と振り回されます。

「ちっ」

　ユエが反撃するものの、少女はあっさりと回避し、海上に降りました。

「ここは場所が悪い。移動しよう」
「え!?」
「見ろ、奴の足場だらけだ」

　さくらが足下を見ると、艀が何隻も連なって停泊していました。

「駄目だよ！　そうしたら、あの娘がジャンヌさんの方に行っちゃう」

　そう言うと、さくらは新たなカードを取り出しました。

「波（WAVE）！」

　さくらが引き起こした波で、艀が大きく揺れました。
　足場が悪いためでしょう。少女の再度の攻撃は、一撃しただけですぐに降下して行きま
した。
　ただ、その一撃が強烈でさくら（とユエ）はシールド毎コースターの方へ向け蹴り飛ば
されてしまいます。

「防ぐだけでは勝てないぞ」
「判ってる！」

　さくらはカードを一枚取り出しました。

「クロウの創りしカードよ、古き姿を捨て、生まれ変われ！　新たな主、さくらの名の元
に！　矢（ARROW）！」

　未ださくらカードにしていなかったカードの一つ、「矢（ARROW）」をさくらカード化
したさくらは、早速カードの能力を使います。
　さくらは出現した弓を引き絞り、一本の光の弓矢を放ちました。
　少女と言えば、未だ揺れ収まらぬ艀を足場として、再びさくら達の方へ向け跳躍してい
ました。
　矢が飛んでくる状況を認識したのでしょう。少女は空中で身体を捻り軌道を変え、矢か
ら逃れようとしました。
　しかし「矢（アロー）」の矢は一本が二本、二本が四本にと次々と分裂、最後には無数
の光の矢となり少女を襲いました。

「痛っ!!」

　矢を避けきれず、何本かの矢が少女に突き刺さり、そのまま少女は落下して行きました。

「ウェイブさん、お願い！」

　さくらが戦っている間、海面をかき回し続けていた「波（WAVE）」は、艀の上に降り立
とうとしていた少女の足下を浚います。

「うわっ」

　続いて、海の中に転落した少女を一際高い波が襲い、コースターとは反対側へと悲鳴と
共に押し流して行くのでした。

「だ、大丈夫かな。あの子」
「心配するな。あいつが龍族だとすれば、怪我一つしていないだろう」
「そんなに龍族さんって頑丈なの？」
「クロウが言うにはそうだが」
「でも、溺れたりしない？」
「泳ぎも得意だそうだ。心配無い」
「じゃ、今度は怪盗ジャンヌさんを助けに行かないと！」
「ああ」

　再び、『ネプトゥヌス』の方へ、さくら達は引き返すのでした。


●ジェットコースター『ネプトゥヌス』上空

「何、これ…」

　さくら達が再びジェットコースターに引き返して来た時、そこは既に戦場ではありませ
んでした。
　しかし、コースターがあちこちで崩落しているばかりか一部では火災すら発生しており、
ここが戦場であったこと、そして戦いが凄まじいものであったことを示しています。
　さくらは、暗闇の中、ジェットコースターのメインテナンス用に設けられていた通路や
レールの上を陸地に向かって歩いて行く人々を目撃しました。

「何かが遠ざかっている気配がするな」
「ほぇ？」

　ユエが指差した方角を見やるさくら。
　しかし、そこに見えるのは暗闇ばかり。

「ジャンヌさんは？　まろんさんは？」
「無事を祈るしか無いだろう。もう戦いは終わった」
「うん…」

　近寄って、確認したい衝動に駆られたさくら。
　しかし、人間に自分の正体を見せる訳には行かず、ケルベロスが待つ陸の方へと進んで
行くのでした。


●ジェットコースター・『ネプトゥヌス』の近く

　さくらが助けた少女──都──と共に置き去りにされたケルベロス。
　来場客は避難したとはいえ、遊園地のスタッフや警察官が通り過ぎる懸念もあり、ケル
ベロスは縫いぐるみのケロちゃんの姿へと変化して、ベンチに横たえられた都の横にちょ
こんと座っていました。
　ケロちゃんとしては誰か通りかかって、都をどこか安全な場所に連れて行ってくれるこ
とを密かに望んでいたのですが、さくら達が人目につきにくそうな場所に降りたこともあ
り、幸か不幸か誰にも気づかれることはありませんでした。

　遠くの方で、さくらが魔法を使った気配がします。
　さくらがどうなっているのか、気が気でなかったケロちゃん。
　ですが、さくらを信じてじっと待っていました。

「ケロちゃん!!」
「さくらか？」

　上から呼びかけられると想像していたのに地上から呼びかけられたのでケロちゃんは驚
きます。

「遅かったやないか」
「ごめんなさい。ケロちゃん、あのお姉さんは？」
「まだ気ぃ失っとる」

　さくらが見ると、都はそこに横たえた時と同じようにベンチに横たえられていました。

「なら、病院かどこかに運ぼうよ」
「けどな…さくらがこれ、運ぶんか？」
「ケロちゃんが運んでくれないの？」
「見てみ」

　ケロちゃんの視線を追うと、警官が何人か慌ただしく駆け抜けて行くところでした。

「あ…」
「そう言う事だ。ここに居ても、じきに誰かが見つけてくれる」

　姿が見えないと思ったら、人に姿を見られないためでしょう。
　木の陰からユエの声がします。
　人に姿を見られたくないのなら、雪兎の姿に戻れば良い。
　ケロちゃんがそう言いかけようとしました。

「駄目だよ。寒くなって来たし、風邪引いちゃうかも」

　そう言うと、さくらは都の身体をよいしょ、と持ち上げました。
　都の背丈は１６０センチはありさくらよりも大分高く、結果、都の足を引きずりつつ進
んで行くことになりました。

「ほぇぇ。重い〜」
「さくら、そんなことせんでも人呼べば」

　さくらの耳元でケロちゃんが囁きます。

「うん…だけど、そこまで運ぶ…の」
「雪兎に戻って僕が…」

　人目も構わず、ユエが話しかけて来ました。

「ユエさんは、お兄ちゃんの所に戻っ…て。あ！　ユエさん、ちょっとお願い」

　さくらは立ち止まると、ユエに都を預けました。
　きょとんとした表情を浮かべ、それでも言われるがままに都を支えます。
　そしてさくらはさくらカードを取り出し、その名を口にします。

「力（POWER）!!」

＊

　カードで力持ちとなったさくらは、都を両手で軽々と抱き抱え、進んで行きました。

「あの…。すいません！」

　小学生の小さな女の子が、高校生の女の子を持ち上げ運んでいる。
　その光景を見れば、普通の大人なら何があったのかと思うところですが、ジャンヌが出
現して慌てているのか、遊園地の中の表通りに出て、近くの大人に声をかけてすらさくら
に見向きもせず、走り去って行きました。

「あの、すみません」
「どうしました!?」
「この子が、倒れていたんです」
「間もなく、救急隊が来るはずだから、ここで待っていて下さい！　我々はコースターの
乗客の救出に向かっている途中なので」

　立ち止まってくれた警官も、そう言うと走り去って行きました。

「何や何や！　困った人を助けるのが警察官や無いんか！」

　警官達が去ってから、ケロちゃんは怒りも露わに叫びます。

「仕方無いよ。ジェットコースターの方も大変みたいだよ」
「けどな…」
「待って!!」

　さくらが注意を即し、ケロちゃんは縫いぐるみに戻ります。
　警官達が去ったのと反対の方角から、人影が歩いて来ていました。
　未だ停電は復旧しておらず、暗闇の中から歩いて来た人影が、自分と同じように誰かを
抱えていることに気づきます。
　そして近づくにつれ、その人影が自分の知っている人物であることにさくらは気づきま
した。

「まろんさん!?」
「え!?」

　さくらが驚いたように言うと、人影も驚いたように立ち止まります。

「都さん…。あなた、助けてくれた人」

　両手でまろんを抱えた人影は、まろんや都と同い年位に見える少女。
　浅黒い肌と赤い髪。日本人とは思えぬ少女の口から出たのは紛れもない日本語。
　彼女の肌を見て一瞬躊躇したさくらでしたが、言葉が通じると知り安心して話しかけま
した。

「この人はそこに倒れていたんです。その人、まろんお姉さんですよね？」
「うん、そう。都さんは倒れていた。そこで。…そう言う事なの」

　一人呟き、肯いている少女をさくらはきょとんと見つめます。

「あの…」
「失礼。…私の名前はアンよ。都さんを助けてくれて、ありがとう」

　少女はそう名乗ると、さくらに向かってにっこりと微笑むのでした。


●大観覧車

　さくら達が戦っている間、ずっと知世は観覧車のキャビンの中に閉じ込められたままで
した。幸い、携帯電話は通じるようだったので、知世はボディーガードを呼び出し、事件
の状況を聞きました。
　ボディーガードも入場出来ずに足止めを食っているらしいと聞き、知世は小狼も同様で
あろうと気付きます。それで、小狼を探すようにお願いしました。
　そうしている内に電源が回復し、大観覧車が動き出します。
　それとほぼ同時に、空から騒音が響いて来ました。

「これは…」

　山茶花家の紋章をつけた大型ヘリコプターが、知世の目の前を飛行していました。弥白
を救出に来たのだろうか。そう考えた知世。

「弥白様、どこですか〜!!」

　ヘリからスピーカーを通して少女の声が響き、知世の考えを肯定しました。

「（私も、そうして貰えば良かったかもしれませんわね）」

　そんなことを考えたりしている内、観覧車は停止してから30分近い時を経て地上へと向
かいつつありました。

「あ!!」

　知世が小さく叫び声を上げたのは、観覧車が地上にもう少しで到着する時。

「（さくらちゃんが、戻っていませんわ）」

　それだけではありません。キャビンの扉はさくらが「剣」のカードで壊したままなので、
このままでは遊園地の係員、それ以前に下で心配しているであろう大和に不審がられてし
まいます。

「どうしましょう…」

＊

　順次、地上に戻って来たキャビンの扉を開けていた遊園地の係員。
　中からは、乗客がよろめきつつ出て来ました。
　その中の或る者は、担架に乗せられ病院へと運ばれて行きます。
　彼の前に、少女が一人、乗っているキャビンが降りて来ました。

「？」

　その少女──黒髪の美少女──を見て、彼の中にある疑問が浮かびます。
　確か、このキャビンにはもう一人いたような…。
　彼の疑問は、扉のロックを外そうとして確信に変わります。
　ロックが壊されている。これは…。

「わああっ!!」

　しかし、彼の思考は扉を開ける前に中から転がり出るように出て来た少女──知世──
に抱きつかれたことにより中断されました。

「お客様、大丈夫ですか？　おい！」

　別の係員に扉を開ける仕事を変わって貰い、その係員は知世を連れて、出口へと誘導し
ます。

「大丈夫…ですわ」
「お客様、扉は一体…？」
「怪盗ジャンヌが通り過ぎた時、壊れてしまって…。怖かったです…」

　少女に泣きつかれ、それ以上のことを係員は聞くことが出来ませんでした。
　そして思うことにしたのです。
　もしこの子が他の少女と一緒に乗っていて、一緒に居た子がキャビンから落ちたなどの
理由で居なくなったのだとすれば、もっと大騒ぎするに違いない筈だと。
　そして彼は気付くことがありません。
　少女が、何とか上手く誤魔化すことが出来たと胸を撫で下ろしていることに。


●救護所

　さくらが都をアンがまろんをそれぞれ背負って、二人は遊園地で気分が悪くなったり怪
我をした人のために設置されている救護所のある建物にたどり着きました。
　アンはさくらに都も一緒に運ぶと提案したのですが、さくらは断ります。実際、「力」
のカードを使ったさくらは、都どころかアンとまろんを同時に運ぶ位の力を有していたの
です。

「ちょっと待って」

　建物の入り口。アンは立ち止まり目を閉じます。
　どれ位そうしていたでしょうか。さくらが声をかけようとした時に、アンは目を開けま
した。

「さ、行きましょう」

　アンはそう言うと、建物の扉を開けました。
　この建物の案内を見る限り、迷子センターや託児所、案内所などが併設されている様子
でしたが、怪盗ジャンヌが現れ避難した所為か、建物の中に人の気配はありません。正確
には、さくら達が入って行こうとした時に、慌ただしく白衣やこの遊園地のスタッフの制
服を着た人達が何人か、さくら達を見向きもせず慌ただしく建物を出て行ったのですが、
この遊園地の状況を知るさくらはそれを疑問には感じませんでした。

「あ…」

　しかし、建物の中に入った時にさくらは異様な空気を感じ取ります。

「（この匂い）」

　それは、先程感じたのと同じ匂い。

「何か、匂いませんか？　蜜柑みたいな匂い」

　先を進むアンの背中にさくらは呼びかけました。

「何、匂い？」

　振り返って、アンはくんくんと鼻を鳴らします。

「何も感じないわ」
「そう…かなぁ？」

　しかし、この匂いを嗅いでも、自分の身に何も起きません。

「（気のせいなのかな…？）」

　そう思い、さくらは匂いを気にすることを止めるのでした。


●大観覧車の近く

　都をまろんと共に救護所のベッドに寝かせた後で、さくらは都とも知り合いであるらし
いアンと名乗る少女に後のことをお願いして、大観覧車の方へと駆けて行きました。
　ちなみにケロちゃんは元の縫いぐるみに戻り、ユエは雪兎の姿に戻って、桃矢の所へと
去って行きました。

　既に遠くから見ても観覧車は動き始めていて、既に知世は地上に降り立っていそうです。
どうやって誤魔化そうか。考えながら、さくらは駆けていたのですが、どうにも良い考え
が思いつきません。

　そんなさくらの頭の上を轟音を響かせ巨大なヘリが通り過ぎて行きます。
　ヘリの下部には、どこかで見たような紋章が描かれていましたが、その紋章をさくらは
知りません。

　そうこうする内に観覧車にたどり着いたさくら。
　すると向こうから、知世が小走りに駆けて来ました。

「知世ちゃん！」
「さくらちゃん！」

　駆けて来た知世は、その勢いのままにひしとさくらに抱きつきます。
　その所為で、さくらは後ろに尻餅をついてしまい、自然、知世がさくらを押し倒した格
好になってしまいます。

「きゃっ」

　小さく悲鳴を上げるさくらの身体の感触を全身で感じつつ、このまま先に進めれば良い
のにと思った知世。しかし、次の瞬間には理性が欲望に対して勝利を収めていました。

「ごめんなさい」

　そう言いながら立ち上がり、自分の服の埃を払う前に、さくらに向かって手を差し伸べ、
立ち上がらせました。

「大活躍でしたわね、さくらちゃん」
「知世ちゃんは大丈夫だった？」
「ええ。さくらちゃんの勇姿もしっかりビデオに収めましたわ」

　そう言い、ビデオカメラを見せるとさくらは何時もの様にちょっと呆れた笑顔を見せま
した。それを知りつつも、これだけは止められませんわと知世は心の中で何時も呟いてい
るのですが。

「さくらちゃんはお手洗いに行っていたということにして下さい」
「え？」

　小声で、さくらの耳元で知世は呟きました。
　最初、戸惑ったさくらですが、向こうから水無月が歩いて来るのに気づくと小さく肯き
ます。そして二人は手をつないで水無月の所へと歩いて行くのでした。

（つづく）

　次回で番外編は終了の予定です。一応、今書いてあるので完成はしているのですが、も
う少しエピソードを追加するか考慮中……。

　なお、今回さくらカード化した「矢」については、CCSFにあるさくらカード一覧
（http://ccsf.homeunix.org/ccs/CardList.html）より、「いつさくらカード化したか不
明なカード」とされているカードより選択しました。
　この場合、「鏡」が第61話でさくらカード化された４枚の中に含まれるということにな
ろうかと思います（さくらカード編の時期の話をする以上、さくらカード化する場面は入
れたかったので）。

　では、また。
−−−−

携帯＠ mailto:keitai@fa2.so-net.ne.jp