Re: Kamikaze Kaito Jeanne #40 (12/18)
携帯@です。
# 本スレッドは「神風怪盗ジャンヌ」のアニメ版第40話から
# 着想を得て書き連ねられている妄想スレッドです。
# そういう2次創作物が嫌いじゃ無い方のみ、以下をどうぞ。
# ……と書きつつ、実質「カードキャプターさくら」妄想であったりします。
# 今回は5回目、最終回です。
^L
それぞれの使命を帯びて、別々の場所で働いて来たさくらとまろん。
同じ日本で同じ時期に動いている二人がもしも出会ったら…という設定で、「神風・愛
の劇場」シリーズの中でも何度か二人が共演する話がありました。先々週から続く番外編
は、「神風・愛の劇場」本編にさくらちゃん達が登場した、神風・愛の劇場 第172話
において、さくらちゃん達がどのように動いていたのかを描くものです。
5回連続予定のその5(最終回)です。
その1は、<newscache$w4dgoi$tc5$1@news01e.so-net.ne.jp>から、
その2は、<newscache$2ppsoi$ouk$1@news01f.so-net.ne.jp>から、
その3は、<newscache$l2o4pi$8nl$1@news01e.so-net.ne.jp>から、
その4は、<newscache$uhwipi$7p1$1@news01c.so-net.ne.jp>からどうぞ。
以前のさくら&ジャンヌ妄想のことをお忘れの方は、以下からどうぞ。
★CCさくらVS神風怪盗ジャンヌ 〜激突! 視聴率争奪戦(嘘)〜
<8fmjm7$fhl$1@news01bd.so-net.ne.jp>からのスレッド
http://ccsf.homeunix.org/ccs/ccsF-list5.html#Jeanne
(CCSF)
★カードキャプターさくらF 第10話「さくらとまろんと冬の海」
<9leqm1$gt3$1@news01cd.so-net.ne.jp>からのスレッド
http://ccsf.homeunix.org/ccs/ccsF-list12.html#F-10
(CCSF)
既に第172話のことを忘れてしまった方は、以下から参照して頂けると幸い。
(その1)は<bnvv4r$p9c$1@news01de.so-net.ne.jp>から
(その2)は<bol12s$5cr$1@news01cj.so-net.ne.jp>から
(その3)は<bpanfp$235$1@news01cb.so-net.ne.jp>から
(その4)は<bpsnob$hnq$1@news01cb.so-net.ne.jp>から
(その5)は<bretjg$k62$1@news01dj.so-net.ne.jp>から
(その6)は<budosi$mf3$1@news01dg.so-net.ne.jp>から
(その7)は<bvibt5$6bs$1@news01cb.so-net.ne.jp>から
(その8)は<c05ag2$aqq$1@news01di.so-net.ne.jp>から
(その9)は<c12ghi$g3q$1@news01de.so-net.ne.jp>から
(その10)は<newscache$sfa7uh$klk$1@news01a.so-net.ne.jp>から
(その11)は<newscache$9pfavh$4kg$1@news01a.so-net.ne.jp>から
(その12)は<newscache$t8l1xh$f2h$1@news01d.so-net.ne.jp>から
(その13)は<newscache$d6j5yh$q4j$1@news01e.so-net.ne.jp>から
(その14)は<newscache$sjiiyh$nsj$1@news01d.so-net.ne.jp>から
(その15)は<newscache$vkkgzh$hqd$1@news01b.so-net.ne.jp>から
(その16)は <newscache$mxh60i$oqb$1@news01e.so-net.ne.jp>から
(その17)は<newscache$03mh0i$c1i$1@news01e.so-net.ne.jp>から
(その18)は<newscache$n8rc1i$7l8$1@news01e.so-net.ne.jp>から
(その19)は<newscache$bmku2i$ss9$1@news01e.so-net.ne.jp>から
(その20)は<newscache$utnv3i$3mc$1@news01e.so-net.ne.jp>から
(その21)は<newscache$xvgx3i$zjj$1@news01e.so-net.ne.jp>から
(その22)は<newscache$8c5l4i$42a$1@news01b.so-net.ne.jp>から
(その23)は<newscache$mu7l4i$4d5$1@news01a.so-net.ne.jp>から
(その24)は<newscache$9kdl4i$164$1@news01e.so-net.ne.jp>からそれぞれどうぞ
それでは、「レリーズ!(封印解除)」(←実質、さくら妄想なので)
★神風・愛の劇場 番外編『さくらとまろんと遊園地』(その5)
●水無月ギャラクシーワールド・救護所
合流した水無月大和にさくらがまろんと都が救護所で寝かされていると伝えると、彼は
慌てて先頭に立って救護所へと向かいました。
「わあっ」
扉を開けると丁度アンがまろんの濡れた服を脱がしている最中でした。
最初に扉を開いた大和が小さく驚きの声を上げ、それに気づいた知世は前に回り込むと
大和を部屋の外に押し出し扉を閉めてしまいます。
*
扉の外に取り残された大和とさくら。
さくらは中に入っても良さそうなものですが、何となく大和に悪い気がして外で待って
いました。
暫くして、知世は紙袋を手にして部屋から出て来ました。まろん、そして都が寝かされ
ているベッドはカーテンが引かれていて、中がどうなっているのかは判りません。
そして知世は携帯電話をどこかにかけました。
「もしもし、直ぐに遊園地の救護所に来て頂けますか? 入り口は、水無月さんにお願い
して通して頂けるようにしますので」
そう言うと、知世はクリーニングして欲しい衣類があること、それとは別に持って来て
欲しい物があることを手早く指示するのでした。
*
知世が外に──お付きのボディーガードさん達に──指示した内容。
それは、知世がまろんの個人情報を元に作成した衣類一式でした。
カーテンの中でまろんが着付けられていた時、悲鳴を上げていたのでどんな恥ずかしい
服が出て来るのだろうかと気にしていたさくら。
ですが、出て来たまろんの姿は、さくらでも着てみたいと思う様な純白ドレスでした。
「わぁぁ」
小さく、さくらは声を上げました。
その様子をもちろん知世は見逃すはずもありませんでした。
そして、ある重大なことをすっかり忘れていたことに気づきます。
●メリーゴーラウンド「ギャラクシーカルーセル」
まろんとのデートを続けたいという都の願い。
その願いは遊園地の経営者の息子である大和によってささやかながらも叶えられました。
遊園地の片隅に昔からある遊園地マニアには有名ながらも一般客の人気はさっぱりの回
転木馬を動かすという形によって。
そこには、それだけでは無くさくらを驚かせる出来事もあったのです。
もちろん、その舞台をセッティングしていた張本人が、ボディーガードを通じてこっそ
りと呼び出していたのですが。
「さくら」
「小狼君?」
さくらに声をかけたのは、私服姿に今日はそれ程寒くは無いというのに緑色のマフラー
をつけていた小狼。
「(このマフラー…。私がプレゼントしたのだ!)」
そのマフラーの正体に気づいたさくらは、彼の気持ちを読み取り微かに頬を染めました。
その表情を見てちょっとだけ表情を曇らせた知世。しかし、さくら達はそれに気づくこと
はありません。
「遅くなって、すまない。大変なことになっていたらしいな」
「大丈夫だったから、気にしなくて良いよ。でもどうして?」
「私がお呼びしたんですわ」
呼びたくは無かったんですけれど。
そう、心の中で呟きつつ知世は言いました。
「そうなんだ」
「ねぇ、この子は誰?」
「李小狼君。学校のお友達なの!」
まろんの問いに、さくらは即答しました。
まろんは彼を値踏みするかのように眺め回すと、小狼は顔を真っ赤にしました。
その様子を見て、香港に出かけた時の姉達の玩具にされた小狼の姿をさくら達は思い出
します。
「小狼君も来るなら、一緒に来れば良かったのに」
当然の疑問をさくらは口にしました。
「もちろん、さくらちゃんに驚いて頂くために決まってますわ」
「…と言うことだ。待ち合わせ時間通りについたんだが、ジャンヌが現れたとかで入場を
規制されてしまい遅くなった」
そう言いながら、小狼は頬を染めていました。
「そうなんだ」
小狼の様子を不審に感じたものの、さくらは素直に肯きました。
きっと雰囲気を察して気を効かせてくれたのでしょう。
まろんが小狼の前に進み出て言いました。
「ねぇ、小狼君。遊園地は休園になっちゃったけど、このメリーゴーラウンドだけは動か
して貰えることになったの。私達だけで乗るのも何だから、君も乗らない? さくらちゃ
んと一緒に!」
「良いのか?」
「もちろん!」
「私はお二人の姿を撮影致しますわ」
ビデオカメラを手にして、知世が言いました。
回転木馬には、二人乗りの木馬と一人乗りの木馬がありました。
まろん達と同じように、小狼とさくらは二人乗りの木馬を選びました。
知世はというと、さくら達の背中を押しておいて自分はビデオカメラを構えています。
それは何時ものことなので、さくらは苦笑しつつもカメラに目線を合わせました。精一杯、
幸せそうな笑顔で。
音楽が鳴り始め、ゆっくりとメリーゴーラウンドが動き始めました。
楽しそうに回転木馬に乗っているさくらと小狼。
その様子をビデオで撮影していた知世。
知世の側をさくら達が通り過ぎる度、さくら達はカメラの方を向いて笑顔を見せました。
さくらは心から、そして小狼はぎこちなく。
それに応えて知世も笑顔を見せつつカメラを構えていたのですが。
さくら達を追い続けているビデオカメラのファインダーが曇り、視界がぼやけました。
「(どう…して…ですの…)」
ファインダーから目を離し、知世は目をごしごしと擦りました。
決して、さくらに涙を見せてはいけない。その一心で。
視界の隅に白い物が差し出されました。
それが自分の涙を見て大和が差し出したハンカチだと気づくと、知世は思わず彼のこと
を睨み付けてしまいます。恥ずかしさのあまりに。
*
「知世ちゃん、今度は一緒に乗ろうよ!」
木馬が回転を止め、降りて来たさくらは真っ直ぐ知世の所に駆けてくるとそう言いまし
た。
「私は……」
遠慮しますわ。そう言いかけた知世の腕を取り、さくらは有無を言わせず回転木馬へと
誘います。やがて、再び回り始めた木馬。
知世の隣で無邪気にさくらは知世に微笑みかけていました。
一方で、さくら達を外で見ている小狼はむすっとした表情をしています。
「知世ちゃん」
「はい?」
「今日は、ありがとう」
「いいえ」
背景音楽の中、そう言いさくらは微笑みます。
その微笑みに微笑みで返しながらも知世の心中はフクザツだったのです。
●友枝町・エリオルの館
リニューアルオープンした遊園地で騒動が起きた時、その場に居合わせ、こっそりとさ
くらに力を貸したエリオル。
その晩、彼と使い魔達が棲む館に客人がありました。
彼の名はノイン・クロード。彼とは直接面識はありませんが、エリオルの中にあるクロ
ウ・リードの記憶が、彼を覚えていました。
ノインは、遊園地から立ち去ろうとしているエリオル達の前に姿を現して、エリオルの
前世であるクロウ・リードの名を呼んだのです。
クロウ・リードが生きていた頃、魔法を学びにクロウの元を訪れたノイン。
本来であれば弟子など取らないクロウですが、彼だけにそれを許したのは、彼が持ち込
んだこの世界の何処にも無い魔法の品の数々。そして、世界中を放浪していたという彼の
経験が、クロウの感心を呼んだからに他なりません。
もっとも、それだけでは彼の側に留まり、魔法を学ぶことを許されることはなかったで
しょう。ノインがクロウの側に住む事を許されたのは、それよりもっと大きな理由があっ
たのです。
「ここも、久しぶりですね」
「内装には手を入れているが、基本的にはあの頃と変えていない」
「その様ですね」
「何なら厨房も覗いてみるか? 実を言うと、君の手料理を久しぶりに食べてみたいのだ
が。材料は冷蔵庫にあるものを適当に使って」
「……お茶にするのでは無かったのですか?」
ノインはそう言いつつ頬をひくつかせています。
「もちろん後でお茶は飲む。私としては、クロウ・リードの料理人の料理を味わってみた
い。記憶にはあるが、私は食べたことが無いのでね」
「奈久留もお茶の前にご飯で良い〜!!」
「料理人と言うよりは、食事当番と言った方が正確ですけどね。私の料理はクロウに教え
て頂いたのですが、お忘れですか?」
「もちろん、覚えている。教えるとすぐに君は私より料理が上手くなった」
「そのお陰で、暫く便利な料理人としてこき使われましたがね」
「何なら、また家で料理人として使ってやっても良い」
「それは遠慮します」
苦笑いしつつ、ノインはエプロンをつけ、料理の支度を始めるのでした。
*
しばらくの時間が過ぎ、奈久留のお腹が鳴った頃に、ノインが作った遅めの夕食が食卓
に並べられました。ご飯にメバルの煮付け、アサリのみそ汁に、小鉢と香の物という純和
風の料理。
「流石はノイン。土地の食材を見事に調理するものだ」
エプロンをして食卓に食器を並べたノインに、エリオルは賞賛を惜しみませんでした。
小さく拍手までしています。スピネルと奈久留もそれに同調して拍手していました。
「……一つ、伺って宜しいでしょうか」
「この家の和食器には、薄く埃が積もっていました。この家の住人は、あまり和食を食べ
る習慣が無いようです。それなのに、冷蔵庫には和食の材料ばかり」
「今日は和食の気分だったのだ」
「それだけではありません。この家には二人と一匹しか住んでいないのに、何故か冷蔵庫
の中には四匹の魚。他の材料も大凡四人分。しかも、ご飯は既に炊いてあった上にアサリ
は砂出しまでしてあった」
「はーい。魚は奈久留が買って来ました〜。エリオルが書いたメモの通りに買ったんだ
よ」
奈久留が、手を上げて言いました。
それを見て、少しだけエリオルの頬が動きます。
「今日の出来事は予定外だと言いませんでしたっけ。エリオル」
スピネルが、ジト目でエリオルのことを見ました。
「さて、そんな事を言ったかな。確かに今日、私の予定外の出来事が幾つか起こったのは
事実だが」
すっとぼけた表情でエリオルが言うのを見て、ノインは悟ります。
今日、ここに自分が来ることが、予知されていたのだと。
クロウ・リードは自分の死期を正確に予知していたのだと、死後直ぐに、風の噂で聞い
ていたノイン。その魂を受け継ぐこのエリオルという少年は、同じように予知の力を持っ
ているに違いない。
ひょっとしたら、あの遊園地で起きたことすら、彼の予定の内だったのかも。
そう気づくと、ノインは背筋が寒くなる思いがするのでした。
「さぁ、ご飯にしようか」
「は、はい」
みそ汁をお椀によそりつつ、この人とだけは敵対しないようにしよう。
そう、ノインは思うのでした。
●水無月ギャラクシーワールド・入退場門
さくらと何度か、メリーゴーラウンドで楽しんだ後、さくら達は大和の案内で出口へと
向かいました。
入退場門では職員達が出て行く人一人一人に、何かの紙を配っていて、さくら達もそれ
を受け取ります。ここで、さくら達は大和と別れました。
「『スパ温泉桃栗優待券』だって。今度、行こうよ知世ちゃん!」
「ええ、そうですわね…」
微笑みを見せつつ、どこか元気が無い様子の知世。
そんな知世の表情を見て、やっぱり疲れたのだろうか。
さくらはそんな想いを抱きます。
「お嬢様」
知世達が出て来るのを待ち構えていたのでしょう。
サングラスに黒服の女性達が並んで待ち構えていました。
その向こうには、リムジンとさくらの衣装を積んでいるであろうワゴン車が見えていま
す。
「準備は?」
「出来ています」
「結構ですわ。さくらちゃん」
「ほぇ?」
「こちらに」
知世は、さくらの手を取りワゴン車の方へと誘いました。
何だか、嫌な予感がしたさくら。
「知世ちゃん。今日は、もう……」
「バトルコスチュームではありませんわ」
小声で、知世はさくらに耳打ちします。
車外に残された小狼、そして大和。
やがてワゴン車が少し揺れ始め、中から笑い合うさくらと知世の声がします。
そして。
「お待たせしました」
ワゴン車の扉が開き、先に知世が姿を現しました。
「さ、さくらちゃん」
知世に促され、続いてさくらも姿を現します。
「!」
「!」
さくらの姿は、既に闇一色に染まりつつあった闇に溶け込んでいました。
衣装の所々にあしらわれた白い部分を除いて。
それ程、さくらの着ていた衣装は黒かったのです。
それはまろんに着せた衣装──純白ドレス──とは対照的な代物。
小狼も大和も知りませんでしたが、それは黒色のゴシックロリータ風ドレス。
もちろん、小狼とのデートのために作ったドレスなどではありません。
その目的のためなら、もう少し相応しいドレスも幾つか考えてありました。
それは純粋に、知世が自分の目で見て楽しむための服なのでした。
もちろん、下着もそれに合わせてあります。
「何だか、恥ずかしいよ…。小狼君はどう思う?」
「その…素敵だ」
小声で小狼が呟くと、さくらは真っ赤になって俯きます。
「ささ、さくらちゃんと小狼さんはこちらに」
知世は、扉が開けられたリムジンの方にさくら達を誘います。
「ささ、どうぞ」
さくらと小狼をリムジンの中に招き入れた知世。
二人がリムジンの中に入ると、外から扉を閉めてしまいます。
リムジンは大きなもので、三人が横に並んで座っても余裕なばかりか、向かい合わせの
席もあるタイプ。
なので、驚いてさくらは扉を中から開けました。
「知世ちゃん?」
「どうぞ、これからはお二人でお楽しみ下さい」
「でも」
「私はこれから用事がありますので、後はお二人でデートを楽しんで来て下さい。レスト
ランを予約してありますので。代金は先に支払い済みですし、お家まで送って貰うように
してありますから、後のことは気になさらずに」
「そんな。代金まで支払って貰うなんて」
「ちょっと早いですけれど、さくらちゃんへの私からの誕生日プレゼントですわ」
そう言いつつ、誕生日にも別途プレゼントを渡すつもりの知世です。
「でもでも」
「それでは、小狼さん。さくらちゃんのことを宜しくお願いします」
そう言い、知世は扉を閉めました。
そして知世が手で合図すると、リムジンは予め予約していたレストランに向け、走り去
って行くのでした。
「さくらちゃん…楽しんで来て下さいね」
リムジンの姿が見えなくなるまで、知世はその姿を追い続けているのでした。
●濱坂市・中華街
「ほぇ〜」
知世の家のリムジンで連れて行かれたのは、豪華な中華レストラン。
ボディーガードのお姉さんに押されるように二人で店内に入ると、店員が予約席へと案
内してくれました。
程なく、二人の前に運ばれて来たのは、さくらのお年玉を全て使ったとしても支払えな
いような豪勢な中華料理の数々でした。
香港に出かけた時にも、そこそこ豪華な中華料理を食べたつもりではいたのですが、今、
目の前に運ばれるそれには及ばないような気がします。
「ねぇ李君。本当にここ、知世ちゃんの支払いで良いのかな?」
小さな声で、さくらは前の席に座っている小狼に囁きました。
「大道寺の家は金持ちだからな」
それだけ、小狼は言いました。実のところ、小狼の実家、即ち李家もそれなりの資産を
持っているので、持たされているクレジットカードでこの場の支払いをすることも出来ま
した。尤も、それをしてしまったら最後、この支払いの理由を母や姉達に追求されてしま
うのは確実でしたが。
「(流石に言い訳出来ないな。さくらとデ…デート?)」
さくらが来るから、今日遊園地に行くことを承諾した小狼。
しかしさくらと二人きりにされることはあまり想定していませんでした。
知世の計らいで、二人きりになった今。
そう言えばこれは所謂デートというものなのではと小狼は気付きます。
「(余計なことを)」
大きなお世話という気持ちが半分、そして残りの半分は知世への感謝。
その時の小狼の内心を大雑把に分析すると、そのようなものでした。
しかし、与えられた機会は大事にすべきだとも思います。
それでこの際、言ってしまうことにしました。
「さくら」
「ふぁい? ひょっと待って」
意を決して小狼がさくらに呼びかけた時、さくらは丁度ふかひれと鮑のスープの中に入
っていたふかひれの塊を口の中に入れていた所でした。
さくらがふかひれを飲み込むのを待つ間、小狼は月峰神社でさくらの「灯」(GLOW)の
カードによる灯りの下、知世に言われた言葉を思い出していました。
「李君。李君は本当にお優しい方ですから、さくらちゃんを悲しませたく無いとお考えに
なるのは良く分かります。けれど、さくらちゃんは悲しいことをずっと悲しいまま抱えて
いる方ではありませんわ。李くんがお気持ちを告げられても きっとその想いを受け止め
てさくらちゃんらしい答えを返してくださると思います」
漸く、さくらはふかひれを食べ終え、「何?」と小狼に尋ねます。
「さくら」
「はい」
「俺はその、あの……」
決心したとはいえ、いざ切り出すとなると緊張して口ごもってしまう小狼。
その顔は既に真っ赤です。
その表情を見て、何となく察したのでしょうか。
さくらの顔まで赤くなっているような気がしました。
「俺は、お前が…」
「ぷはーっ!! 良い匂いやな」
「ケロちゃん!」
それまで、さくらの鞄の中でじっとしていたケロちゃん。
じっとしている様にとさくらはお願いしていたのですが、周囲から漂う極上の料理の匂
いに、つい出て来てしまったようです。
「お、これはふかひれスープやな? どれ、わいにも一口食わせてな」
「しょうがないなぁ。出来るだけ、じっとしててね」
さくらはケロちゃんを自分の膝の上に乗せました。
そしてふかひれスープをレンゲですくいます。
それを口に近づけ息を吹きかけ少し冷ましてから、さくらはレンゲをケロちゃんの口に
近づけると、ケロちゃんはそれを口にして美味しそうな表情を浮かべます。
その様子を眺めながら、あんな風に食べさせて貰えたら、料理もさぞや美味しかろう。
そんなことを小狼は思うのでした。
そしてケロちゃんが居ることを思い出してしまった小狼は結局この夜、さくらに告白す
ることは出来なかったのでした。
●水無月ギャラクシーワールド・入退場門
さくら達を乗せたリムジンが去ってからしばらく、そのままそこで立ちつくしていた知
世はやがて、ふらふらと残されたワゴン車に向けて歩いて行こうとしました。
その時です。向こうの方から車の急ブレーキの音が響き、扉が開く音がします。
「知世」
その物音に向け、警戒の姿勢を取るボディーガードの向こうから聞き慣れた声がしまし
た。その声を聞き、ボディーガードの隊列が割れました。
「お母様? どうして……」
向こうから歩いて来たのは、知世の母、園美。
心配そうな表情を浮かべ、向こうから小走りに駆けて来ると、知世のことを抱きしめま
した。
「知世、無事だったのね」
その言葉を聞き、遊園地での騒動の報告を聞いて仕事を放り出してやって来たのだと気
付きました。自分の無事はボディーガードを通じて知っているだろうに、心配性なんだか
ら。そう知世は思います。
「ええ。大丈夫ですわ。お母様」
「それで、さくらちゃんは? 無事なの?」
知世から離れた園美は、周囲をきょろきょろと見回します。
園美にとってさくらは、愛しき撫子の娘。つまりは、自分の娘も同然の存在。
心配するのは当然でしょう。
しかし、さくらはこの場にはもう居ません。
そのことを知世は母に伝えました。
「そう…。さくらちゃんは本当に無事なのね」
「はい。お母様。今頃は、小狼さんと一緒に」
「ああ、あの李家の…」
「ええ。お似合いのお二人ですわ。本当に……」
笑顔で言ったつもりでしたが、母の前では感情を抑えることが出来ません。
自分と同じように唯一無二の親友を友情を超えて愛し、その想いを貫くことが出来なか
ったと聞く母の前では。
「ひっく…。えっく…」
娘の表情に気づくと園美は、ボディーガードからその表情が見えないように、知世の前
に壁を作るように立ちました。
そうして、園美は知世の身体を抱きしめます。
母の身体に包まれ、知世は声も立てずに泣き続けるのでした……。
(おしまい)
番外編「さくらとまろんと遊園地」は、今回で終わりです。
きちんとさくらを観ていなかった私が、さくら妄想を書けるのか不安だったので、事前
に小説を確認して頂いた藤森さんには大感謝。
また、さくらの設定の確認にはCCSFを利用させて頂きました。
そしてもちろん、CCSFに掲載されている過去のさくら感想記事も大変役に立ちました。
次週は早速第174話の連載…の予定でしたが、実はもう一本ジャンヌ妄想番外編を藤
森さんより賜っており(頂いたのは今年の2月のことなんですが^^;;;;)転載許可も頂い
ておりますので、それを投稿する予定です。
# 単純に、第174話があまり書き進んでいないので時間稼ぎをしている説も^^;;;;
では、また。
−−−−
携帯@ mailto:keitai@fa2.so-net.ne.jp
Fnews-brouse 1.9(20180406) -- by Mizuno, MWE <mwe@ccsf.jp>
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