C.C. SAKURA OriginalStory#11 (1/4)
石崎です。
現在はとある事情によりNetNewsへの投稿活動を休まれている(読んでは
いるそうです)藤森英二郎さんより、カードキャプターさくらの「さくら
カード編」の新作妄想がメールにて送付されて来ましたので、代理投稿します。
全文で2,000行以上ありますので、以下の4つの記事に分けて投稿します。
この記事は、第11話Aパートです。
アニメ版妄想小説No.11『さくらと鏡と凸レンズ』(Aパート)
アニメ版妄想小説No.11『さくらと鏡と凸レンズ』(Bパート)
アニメ版妄想小説No.11『さくらと鏡と凸レンズ』(エピローグ)
●おまけエピソード 『さくらと知世のクリスマス』
それでは、藤森さんの妄想をお楽しみ下さい。
(以下、藤森さんのメールより)
藤森@諏訪です。
カードキャプターさくらの番外編小説です。お好きな方のみお読み下さい。
#筆者初の「さくらカード編」の長編妄想。(^^;
アニメ第61話「さくらとカードとプレゼント」では詳しく描写されなかった
4枚のクロウカードのさくらカード化エピソードです。
1999年12月21日にNHK-BS2で放送されたアニメ本編内で
さくらカードになったのはミストだけですが、
ミラーさん他3〜4枚がこのお話の直前にさくらカードになっています。
アニメ冒頭のケロちゃんのセリフ:
「今日の騒ぎで4枚もさくらカードに変えたんやもんなあ。」からは、
ミラーさんを含めて4枚かミラーさんを除いて4枚か不明です。
水野さんのホームページ「CCSF - Collected Creations, Selected Features」
(旧カードキャプターさくらF)によると、
http://ccsf.homeunix.org/
この4枚で可能性があるのはスルー(抜)、アロー(矢)、
ツイン(双)、アーシー(地)のようです。
ここでは、ツインを除く3枚とミラーさんの計4枚を
次々にさくらカード化しなければならないような試練を考えてみました。
#毎回試練を考えるエリオルの苦労がよくわかりました・・・(;_;)
アニメ版妄想小説No.11『さくらと鏡と凸レンズ』
#「鏡」を「ミラー」と読んだあなた。あなたはさくらファンとして正しい。
#しかし、このお話では鏡(かがみ)そのものとミラーさんの両方の意味です。
★友枝町商店街 お昼過ぎ
もうすぐクリスマスの日曜日。
友枝町の商店街にはクリスマスツリーが飾られ、
クリスマスソングが流れてクリスマス気分を盛り上げ、
多くのお客さんが行き交っています。
お昼ごはんを食べてから外出したさくらちゃんは、
誰に何を贈るか考えながらプレゼントの下見で商店街を歩いていました。
(はう〜っ、贈りたい人がいっぱいいるのに、おこずかい足りないよう。)
ショーウインドウを覗き込み、お値段を確認してから
自分のお財布を開けて覗き込んで、溜め息をつくさくらちゃん。
知世ちゃん、雪兎さんを始め贈りたい人が7人以上いるので大変です。
(お裁縫苦手なんだけど、布地を買って何か作ろうかな?)
去年さくらちゃんが雪兎さんに贈ったのは、手作りの雪兎さん人形。
この予算では、どうやら今年も手作り品が中心になりそうです。
(私の人形を作って雪兎さんに贈ったら・・・雪兎さんの枕元で
私の人形と雪兎さんの人形が寄り添っちゃったりして・・・)
さくらちゃんは思わず赤くなって、ショーウインドウの前で
「はにゃ〜ん」状態となってしまいます。
そのさくらちゃんを、ビルの屋上から見つめている三つの影。
「それでは、さくらさんには私からちょっとした試練を
プレゼントいたしましょう。」
「さくらちゃんからプレゼントもらえそうもないからって、
エリオルって意地悪ぅ。」
「それは、全然関係ないのでは?」
エリオルに皮肉を言う奈久留ちゃんと、突っ込みを入れるスピネル。
それには答えず、エリオルはいつものシニカルな笑みを浮かべながら
闇の杖を振り上げ、何やら魔法を使うのでした。
#この時点では、さくらちゃんの「プレゼント予定者リスト」に
#エリオルはもちろん小狼も入っていません。
「はっ!これは・・・クロウさんの気配・・・!」
「はにゃ〜ん状態」だったさくらちゃんは、妙な気配を感じてきょろきょろと
あたりを見回し、怪しい気配が友枝小学校の方から感じられるのを確認して、
PHSで知世ちゃんとケロちゃんに連絡を取ってみます。
知世ちゃん、ケロちゃんと友枝小学校の校門前に集合することにして、
さらに小狼にも電話をかけてみるさくらちゃん。
「何かあったら、必ず俺も呼べ。」
「うん。」
少し前に、さくらちゃんが小狼とした約束。
クロウカードが全部封印されたのに香港に帰らないで自分を助けてくれる小狼。
エレベーターでフロートをさくらカードに変えた時、
初めて名前で呼んでもらって・・・
そんなさくらちゃんの回想は、抑揚のない女性の声で中断されます。
『おかけになったPHSは、電波の届かない地域にあるか、
電源が切れています。』
「ほえ?・・・小狼くん、どうしちゃったんだろ?」
これまでは、さくらちゃんが小狼のPHSに電話した時に留守番電話に
なっていたことはあっても、こんな反応が返って来たことはありませんでした。
仕方がないのでさくらちゃんは小狼に連絡を取ることはあきらめ、
友枝小の方へと走り出します。
その後ろ姿を、ほほ笑みながら見送るエリオル。
エリオルが魔法で電波妨害をしたらしいと気付いた奈久留ちゃんは、
そのことをエリオルに聞いてみます。
「エリオルぅ、なんでさくらちゃんに小狼君を呼ばせないの?」
「ちょっと、今回は彼がいるとまずい事態になりそうなので。」
「へ〜、今回はあの子がいればさくらちゃんの助けになるんだ。」
「いえ、いても全然役に立たないでしょう。
それより、彼がいるとさくらさんが困ることになると思いますよ。」
「?」
これから何が起こるか全て予見しているようなエリオルの言葉に、
首をかしげながらもそれ以上追求しない奈久留ちゃん。
そして、遠ざかっていくさくらちゃんの背中を見ながら、
エリオルは独り言のようにつぶやくのでした。
「そう・・・これから起こる楽しいことは、
あまり彼には見せたくありませんからね・・・」
★友枝小学校 校門前
「知世ちゃ〜ん!ケロちゃ〜ん!」
「遅いで!さくら!」
小学校の校門前に停車している知世ちゃんのコスチューム運搬車。
その横にたたずむ知世ちゃんと、知世ちゃんの頭上を漂うケロちゃんを見つけて、
さくらちゃんは遠くから声をかけて手を振ります。
よく見ると、知世ちゃんは右手でさくらちゃんに手を振り返しながら、
左手でビデオカメラ回し、駆け寄るさくらちゃんの撮影に余念がないのでした。
「はあはあ・・・遅れちゃった・・・みんな、速いね。」
近くの商店街にいたのに、知世ちゃんやケロちゃんより
遅くなってしまったさくらちゃん。
空を飛んで来たケロちゃんが速いのはわかりますが、
いくら車で来たといっても知世ちゃんの家は学校からかなり遠かったはずです。
「さくらちゃんのためですもの!いつでも出動の準備はできていますわ!」
以前、さくらちゃんが一度にたくさんのクロウカードをさくらカードへ
変えようとしてダッシュを暴走させてしまった時に、知世ちゃんは
お風呂に入っていてせっかくのさくらちゃんの勇姿を撮り逃しています。
それ以後、知世ちゃんはお風呂の中にまでPHSを持ち込んでいますし、
バスローブ姿でも出動できるようにコスチューム運搬車の中に
自分の下着や靴、着替えまで載せているのでした。
「あら?さくらちゃん、李君はどうされましたか?」
「電話してみたんだけど、つながらなくて・・・」
念のためにもう一度かけてみるさくらちゃんですが、
相変わらず小狼のPHSにはつながりません。
「仕方がありませんわね。
今日のバトルコスチュームはぜひ李君にもお見せしたかったのですが・・・」
「ほえ〜っ!や、やっぱり着替えるの〜?」
「もちろんですわ!」
「はうぅ〜。(泣)」
いつものようにしぶるさくらちゃんをコスチューム運搬車の中に
連れ込んで、着替えさせてしまう知世ちゃん。
それにしても、李君はいったいどうしたのだろう?
自分はここまでしていつでもさくらちゃんの元に駆け付けられるように
しているのに、よりによってPHSの電源を切っているなんて。
(・・・李君が後でビデオを見て、今日来れなかったことを後悔するくらい
超絶かわいいさくらちゃんを撮らなければなりませんわ!)
知世ちゃんは、さくらちゃんが好きなくせに肝心な時にいない
小狼に少し腹を立てていたのでした。
★コスチューム運搬車内
とうとうバトルコスチュームに着替えさせられてしまったさくらちゃん。
知世ちゃんはさっそくさくらちゃんをビデオに撮影しています。
「さくらちゃんには、中国風の衣装もよく似合いますわあ〜。」
「なんや、こん服、どっかで見たような・・・」
「これって、もしかして・・・」
「ええ。苺鈴ちゃんの式服を参考にして作ったコスチュームですわ。」
「苺鈴ちゃんの・・・」
つい先週日本に来て、またすぐ香港に帰ってしまった苺鈴ちゃん。
苺鈴ちゃんが何をしに来たのかさくらちゃんは知りませんでしたが、
苺鈴ちゃんのために自分の膝まで貸した知世ちゃんは一部始終を知っています。
小狼との婚約を解消し、自分の膝で泣きじゃくっていた苺鈴。
知世ちゃんはその苺鈴ちゃんの思い出を式服風のコスチュームに託し、
この服を着たさくらちゃんを小狼に見てもらいたかったのでした。
「確かに中国風のデザインやけど、やっぱりスカートは付いとるんやな。」
「苺鈴ちゃんのように下が短パンですと、この時期いかにも寒そうですし。
その点、スカートなら真冬でも全然違和感がありませんから。」
「・・・スカートの方が余計寒いんとちゃうやろか?」
「はう〜。」
長い振り袖の付いた中国風の上着に、中国風デザインのスカート。
12月なので生地は厚めで暖かい。
これは苺鈴ちゃんが帰ってからわずか一週間で知世ちゃんが完成させた、
できたてほやほやのコスチュームだったのです。
「で?妙な気配はどっから感じるんや?」
「う〜んと・・・やっぱり学校の中からみたい。」
「それでは、カードキャプターさくらちゃんの出動ですわ!」
「はううぅ〜。」
クロウさんの気配は学校の中から感じられますので、
さくらちゃんはこの格好で学校の中に入らなければなりません。
夜の学校にはさんざんバトルコスチューム姿で入りましたが、今は真っ昼間です。
おばけは出ないだろうということと、日曜日なのでおそらく誰も
いないだろうということが、さくらちゃんにはわずかななぐさめでした。
★友枝小学校 屋上
閑散として誰もいない学校の中を通り、
クロウさんの気配に導かれるまま屋上までやってきたさくらちゃんたち。
屋上に出てみると、今日は風もなく、
午後の日差しが照り付けていて暖かいくらいでした。
「確かにこの辺でクロウさんの気配がするんだけど・・・」
「おっ?あっこに何や落っこっとるで。」
「あら、虫眼鏡ですわ。こっちには手鏡も落ちていますね。」
「誰か、理科の実験をした時に忘れて行ったのかな?」
さくらちゃんも理科の実験をこの屋上でやったことがありました。
虫眼鏡を使って太陽の光を集めて黒い紙を燃やしたり、
鏡を使って太陽の光を反射させ、どこまで光が届くかやってみたり。
しゃがみこんで、虫眼鏡を拾おうとするさくらちゃん。
しかし、突然虫眼鏡のレンズがはずれて、レンズ部分だけ宙に舞い上がります。
「ほえっ!?」
「な、なんや?」
空に浮かび上がり、見る間にさくらちゃんの頭上で巨大化する凸レンズ。
直径10m以上にもなった巨大凸レンズは、
さくらちゃんの頭上で真冬の太陽光を集め始めます。
「あ、熱っ!」
「さくらちゃん!」
まだ焦点はいいかげんなものでしたが、それでもさくらちゃんには
熱帯の太陽の何倍もの強烈な光が降り注ぐのでした。
太陽光から逃れようと、右へ左へ走り回るさくらちゃん。
しかし、巨大レンズはさくらちゃんの頭上をふわふわとついて回り、
振り切ることができません。
だんだんと焦点が合ってくるにつれ、より熱くなってくるこの攻撃に、
さくらちゃんはたまらずさくらカードを取り出します。
「我を守れ!シールド!」
3週間ほど前、ケロちゃんとユエさんが仮の姿に戻れなくなった時に
さくらカードにしたシールド。
ケロちゃんとユエさんの変身妨害すら防ぐこのシールドならばと、
球形のバリアを自分の回りに展開したさくらちゃん。しかし・・・
「まだ熱いよ〜っ!な、なんでぇ?」
「あかん、元々透明なシールドやと、太陽光線は防げんのや!」
「え〜っ!そ、それなら、透明じゃなくなればいいんだね?」
さくらちゃんは再びさくらカードを取り出して使います。
今度は2週間ほど前、知世ちゃんを捜すために
さくらカードにしたばかりのシャドウ。
「我を影で覆え!シャドウ!」
球形のシールドの外側からさらにシャドウの黒い影が覆い、
知世ちゃんやケロちゃんからはさくらちゃんの姿は見えなくなります。
そして、さしもの巨大レンズの集光攻撃も、
その光はシャドウに全部遮られてしまうのでした。
「すごいやないか、さくら!これなら、今回はクロウカードを
さくらカードに変えることなく事件が解決できそうやな!」
「ああっ!さくらちゃんのお姿が見えなくなってしまいましたわ!」
「と、知世・・・(汗)」
今度は大丈夫と思ったところで、またもさくらちゃんの悲鳴が上がります。
「ほえ〜っ!よ、余計熱いよ〜っ!」
「な、なんやてえ?」
黒い紙に虫眼鏡で光を集めて当てると、白い紙より熱を吸収して燃えやすい。
確かに光を遮ることには成功しましたが、シールドに入ったままの
さくらちゃんにとって、これは温室効果で蒸し焼きも同然だったのです。
あまりの暑さに、上着を脱ぎ捨ててしまうさくらちゃん。
派手な色使いで、長い振り袖の式服風コスチュームの下は、
短い振り袖の付いたこれまた中国風の服。
ただ、赤と白を基調とした上着と違ってピンク色でした。
「さくらちゃん!とりあえず、日影へ!」
「う、うん!」
知世ちゃんのアドバイスに従い、さくらちゃんは屋上の機械室の影に入り、
シールドとシャドウを解除します。
さしもの巨大レンズも、日影に入ったさくらちゃんへ集光攻撃はできず、
うろうろとさくらちゃんの頭上を漂います。
「ふう。」
「ひとまずこれで大丈夫ですが・・・これからどうしましょう?」
「日影におればあっちからは攻撃でけへんけど、
こっちからはどうやって攻撃したもんやろ。透明なレンズやから、
レーザーみたいなショットのカードやと素通しになるやろうし。」
日影に集まって一息つき、
巨大レンズをどうやって攻撃するか話し合うさくらちゃんたち。
しかし、その間に落ちていた丸い手鏡からも鏡の部分がはずれて
空へと浮かび上がったことには、誰も気付きませんでした。
★ソーラー反射衛星重力レンズシステム(大げさ)
「あっ!ま、まぶしいっ!」
「な、なんや?」
お日様と機械室を背にして日影にいたはずなのに、
いきなり真正面から強烈な光を当てられてうろたえるさくらちゃん。
手で目を覆い隠し、指の隙間から覗き見るとさくらちゃんの正面上空に
巨大な丸い鏡が浮かんでいて、日光をさくらちゃんの方へと反射しています。
しかも、今まさにさくらちゃんと巨大な鏡の間にさっきの巨大レンズが
入ろうとしていた所だったのです。
「ほえ〜っ!」
さっきとは異なり、今度は巨大レンズの焦点が正確に床の上に合っていて、
その部分が丸くまぶしく強烈に輝き、シュウシュウと煙が上がっています。
巨大レンズが動いて焦点が移動すると、
コンクリートの床の上に焼けこげた線が走るのでした。
「あっ!あぶないっ!」
さくらちゃんの撮影に夢中になっていて、
自分の足元に丸く輝く焦点が迫ったことに気付かない知世ちゃん。
さくらちゃんはあわてて知世ちゃんをかばい、突き飛ばします。
その時、さくらちゃんのスカートのお尻を焦点がかすめ、
一部は一瞬で蒸発し、蒸発した周辺の部分には火がついたのでした。
「熱っ!熱っ!」
「さ、さくらちゃん!」
丸く切り取られたようなスカートのお尻部分からパンツ丸見えの状態で
しばらく駆け回り、手でお尻を叩いて火を消そうとするさくらちゃん。
かろうじて火は消えましたが、黒い煙を上げてくすぶり続けるスカートは
触れないほど熱くなっています。
このままではパンツまで穴が空いて、お尻に火傷をしてしまうと考えた
さくらちゃんは思い切ってスカートを脱ぎ捨ててしまいます。
「はう〜っ・・・はあはあ・・・」
「さくらちゃん、大丈夫ですか?」
「おのれ、ようもさくらを!」
へたり込んでしまったさくらちゃんに駆け寄る知世ちゃんと、
真の姿に戻り、火炎を吐いて巨大レンズを攻撃するケロちゃん。
しかし、エリオルのあやつる巨大凸レンズはあっさりケロちゃんの炎を
跳ね返し、今度はケロちゃんに焦点を移動させます。
「あち〜っ!あちっ!あちぃ!」
自分自身、太陽を象徴する守護獣であるにもかかわらず、焦点温度
数千度にもなる太陽光の集光攻撃に毛皮を焦がして逃げ回るケロちゃん。
レンズに近づくか遠ざかれば焦点がずれて平気になるのですが、
ケロちゃんが近づけば遠ざかり、離れれば近づいて来て、
レンズに直接攻撃することも逃げることもできません。
日影に隠れても巨大な鏡が日光を反射して照らし出し、隠れる所もなし。
そうこうしている内に、体中に攻撃を受けてしまったケロちゃんは、
体の虎縞模様に黒くて丸い焦げ目がいくつもついた豹柄になってしまうのでした。
#さくらちゃんがどんなパンツをはいていたかは、
#ここでは描写しませんのであしからず。
#お尻にあいた穴からくまさんプリントが覗いたりとか、
#中国風の柄パンツだったり、防寒用に毛糸のパンツだったり・・・(爆)
★インターミッション
「ケロちゃん!こっちこっち!」
屋上の機械室の扉を開けて、ケロちゃんを手招きするさくらちゃん。
光が入る隙間のない密室にいれば、さしもの反射集光攻撃も平気なはずです。
機械室には窓がなく、厚いコンクリートの壁で囲まれているので、
この中に入って金属製の扉を閉めてしまえば大丈夫。
ケロちゃんが機械室の入口に飛び込んで、さくらちゃんが内側から
扉を閉めると同時に扉に焦点が合い、間一髪でケロちゃんは助かるのでした。
「わ、わいの美しい毛皮にようもこんな焦げ目を付けてくれよったなぁ!」
一息ついて、ペロペロと自分の火傷している部分を舐めるケロちゃん。
舌が届かない所はさくらちゃんが濡らしたハンカチで拭いてあげます。
知世ちゃんは自分のスカーフを外して広げ、さくらちゃんの腰に巻き、
即席のミニスカートにしていました。
「中国風の半袖振り袖と、洋風スカーフのミニスカート姿のミスマッチも、
さくらちゃんにはお似合いですわあ。」
「と、知世ちゃん・・・」
あらためて、自分がパンツ丸出し姿だったことに気がついて赤くなる
さくらちゃん。
とりあえず、日が沈むまでここに隠れていれば
巨大な凸レンズも鏡も無力化するはずで、ひとまず安心。
しかし、さくらちゃんは半袖にミニスカートという
とっても寒そうな姿にもかかわらず、あんまり寒くない。
いや、それどころか、さくらちゃんたちは薄暗いコンクリートの機械室に
いるのに、だんだん暑くなってきたのだった。
「はう〜、な、なんか暑くなってきたけど・・・?」
「な、なんや?」
「さくらちゃん!と、扉が・・・!」
暑くなっただけではなく、赤い光で少し明るくなった機械室。
なんとさくらちゃんたちが逃げ込んだ鉄の扉が赤熱し、
赤い光と高熱を放ちながら今にも融けそうになっていたのでした。
「ほえ〜っ!」
★スルー大作戦 その1
ケロちゃんが逃げ込んだ扉に、そのまま集光攻撃を浴びせている巨大凸レンズ。
焦点温度数千度にもなる高温に、さしもの分厚い鉄の扉も、
シュウシュウと音を立てながら外側から融け、穴があいていきます。
穴が中まで貫通するのも時間の問題でした。
「あ、暑いよ〜っ!」
「あかん、こんままやったら扉に穴があく前に蒸し焼きや!」
外に出るべく、扉のノブを掴むケロちゃん。
集光攻撃は続いていますが、自分がおとりになれば
さくらちゃんと知世ちゃんを扉から逃がすことができるはず。
「あちゃあ〜っ!!」
見かけは赤熱してはいなかったノブの部分も、既に温度は数百度。
ケロちゃんは今度は右手の肉球に火傷をしてしまい、
またも涙目でペロペロと舐めるのでした。
とにかく機械室から脱出しようと、出口をさがすさくらちゃんたち。
赤熱している扉にはもう触れないので、そこからの脱出は不可能。
この機械室には、もう一つ階段へ通じる扉がありますが、
そちらには鍵がかかっていました。
「だめ!開かないよぅ!」
「窓もありませんし、困りましたわ。」
「こないなったら・・・スルーや!スルーを使うんや!さくら!」
「スルー?」
「確か、壁抜けができるクロウカードさんですわね。」
「そや!今のさくらの魔力なら、分厚いコンクリートの壁もなんのそのや!」
「う、うん!」
スルーのクロウカードを取り出して、
さくらカードへの変換呪文を唱えるさくらちゃん。
「クロウの創りしカードよ、古き姿を捨て、生まれ変われ!
新たな主(あるじ)、さくらの名の元に!」
「我らをこの壁の向こうへと通り抜けさせよ!スルー!」
「赤い光に照らし出されたさくらちゃんの勇姿・・・
ああっ!とってもステキですわあ!」
「相変わらずやなあ、知世。」
赤熱した扉とは反対側の壁に向かってさくらカードとなったスルーを使ってみた
さくらちゃんですが、コンクリートの壁も自分たちにも何も起こりません。
「ほえ?何も変化がないみたいだけど・・・」
「もう、歩いて通れるはずや。」
進んで壁に歩み寄るケロちゃん。
さくらちゃんが「ぶつかる!」と思った瞬間、
ケロちゃんは壁の中へと入っていきます。
「わたくしたちもまいりましょう。」
「う、うん。」
知世ちゃんにうながされて一緒に壁に向かって歩くさくらちゃんですが、
壁にぶつかる瞬間、思わず目をつぶってしまいます。
何の抵抗もなく、「通り抜けた」実感がないまま数歩進んで
さくらちゃんが恐る恐る目を開けると、もうそこは壁の外だったのでした。
★スルー大作戦 その2
「ほえ〜。すご〜い!もう通り抜けちゃった。」
「スルーを使こたら、どんなもんでも素通しや!」
「お日様の光でも・・・ですか?」
「それなら、スルーを使えばあの攻撃も怖くないね!」
「あ、いや、それは・・・」
「攻撃をすり抜けさせながらフライで近づいて、ソードを使えば、
巨大レンズでもなんとかなるかも。」
「すばらしいですわ!さくらちゃん!」
「スルーは、使いこなすんが難しいカードでやな・・・」
散々酷い目にあわされた巨大レンズを倒せるかもしれないと、
もうケロちゃんの言うことが聞こえていないさくらちゃんは、
さっそくスルーをパワー全開で使ってみます。
「我にあらゆる物を素通しさせよ!スルー!」
「ちょお待たんかい!人の話を・・・!」
知世ちゃんが撮影しているカメラのファインダーの中で、さくらちゃんの体が
一瞬光ったかと思うと、次の瞬間跡形もなく消えてしまいます。
「さくらちゃん?さ、さくらちゃんが消えてしまいましたわ!」
「あちゃあ・・・」
「そうですわ!光も素通しということは、
さくらちゃんは透明人間になってしまわれたのですね?
ああっ、これではさくらちゃんの超絶かわいいお姿が撮影できませんわ!」
「ちゃうんや・・・」
「えっ?」
知世ちゃんの足元、床の下からかすかに「ほえぇぇぇぇ〜・・・」と
叫び声が聞こえる。しかも、その声もどんどん遠ざかっていくようだ。
「ま、まさか、さくらちゃんは・・・」
「そのまさかや。スルーのパワーは全開にしよったらあかんのや!
地球の反対側まで抜けてまうでぇ!」
「そ、そんな・・・さ、さくらちゃ〜ん!」
本来、スルーの壁抜けの力は魔力の強さに比例するのですが、さくらカードと
なってパワーアップしたスルーは、自身の力の及ぶ限りの「あらゆる物」を
さくらちゃんの体に素通しさせてしまい、さくらちゃんは学校の床と天井を
何回も突き抜けて下へ下へと落ちて行くのでした。
★大地のクッション
「アーシーを使うんや!スルーの上位カードたるアーシーなら、
スルーの力を押さえられるはずや〜っ・・・!
絶対、スルーを解除したらあかんで〜っ・・・!」
果てしなく落ちて行くさくらちゃんの耳に、
かすかにケロちゃんの叫び声が届いた。
スルーを急に解除することによる危険性はさくらちゃんにもわかる。
空中で解除したら地面に激突してしまうだろうし、
壁の中で解除したら身動きできなくなってしまうのだろう。
この時、さくらちゃんは壁の中や土の中でのスルー解除による
究極の危険性を把握してはいない。
いわく、自分自身と壁との「原子核融合」による核爆発である。
そこまではさすがに想像もできないさくらちゃんだが、
さくらちゃんがケロちゃんにせがまれて買ったゲームの中には
かの「ウィザードリィ」も含まれており、「石の中にいる」は
最悪の恐怖としてさくらちゃんにも刻み込まれていたのだった。
とうとう1階の床も通り抜けてしまい、
地面の中へと突入してしまっているさくらちゃん。
真っ暗で何も見えない中、手探りでアーシーのカードを取り出し、
さくらカードへと変換して使う。
「我を受け止めよ!アーシー!」
さしものパワー全開のスルーも、
自分の上司(?)たるアーシーに足止めをくらっては通り抜けられない。
「スルーでも通れない大地」へと変化したアーシーに
壁抜けの力を押さえ込まれ、受け止められてしまう。
アーシーは優しくさくらちゃんを受け止めて、
龍の姿となって地面の上まで押し上げてやるのだった。
「さくらちゃん!」
「ふ〜。なんとか間に合ったようやな。」
地龍の頭の上に乗って校庭に姿を見せたさくらちゃんを見て、
安心する知世ちゃんとケロちゃん。
さくらちゃんはスルーとアーシーを解除すると、
フライを使って校庭から飛び立ち、再び屋上へと降り立ちます。
だが、この騒ぎでさくらちゃんたちがとうに機械室の中にいないことを
巨大レンズに気付かれてしまいました。
機械室の扉に集光するのをやめ、再び動き出す巨大凸レンズ。
しかし、スルーで失敗したさくらちゃんたちに、
この集光攻撃を防ぐ手段はあるのでしょうか・・・?
★アイキャッチ入りま〜す★
#後半はさらにHになってしまいますのでご注意下さい。(^^;
(引用はここまでです)
では、Bパートの記事へと続きます。
--
Keita Ishizaki mailto:keitai@fa2.so-net.ne.jp
Fnews-brouse 1.9(20180406) -- by Mizuno, MWE <mwe@ccsf.jp>
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